8 忘却
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出産は村の女総出で行われた。
土器を持てるだけ持ってセノーテに水を汲みに行く者、湯を沸かす者、布を用意する者、マヤのそばについて支える者。家の中はてんやわんやで、テオとオルアの男二人は外へ放り出されてしまった。
降ってきそうな星の下で、テオがぐるぐると円を描くように歩き回っている。オルアは苦笑して、テオの頭をぽんぽんと叩いた。
「子供扱いするな」
自らの頭上に伸びるオルアの手を睨みつけてテオが渋い顔をする。
オルアはそんなテオに大人びた微笑を向けた。
「おまえはまだまだ子供だよ。俺も、アスタもマヤも。おばあから見たら、俺たちなんかまだまだ迷いまくり、よちよち歩きの子供だ」
「ババア目線で扱うな。昔はやんちゃ坊主でババアによく叱られてたくせに」
「それはおまえも一緒だろ。森に入って、崖で遊んで、気づいたらおばあ以外に叱ってくれる大人がいなくなってただろうが」
「悪いかよ。崖に囲まれてるこの村が悪いんだ。世界の中で、ここだけ誰からも忘れ去られたようにさ」
「だから、神などいないと?」
「いないだろ、実際」
「さて、どうだかな。おばあなら何か知ってたんじゃねえか」
オルアは冗談めかして言い、肩をすくめた。
テオは唇の片端を吊り上げる。
「ばぁか。おばあは少なくとも、神を信じてはいたぜ」
その時、家の中から歓声があがった。テオの肩がびくりと震える。
「ほら、行ってやれよ。頑張った妻と赤ん坊の顔を見てきな。おまえはたぶん、いい父親になるよ」
呆けたように立ち止まり微動だにしないテオの背中を、オルアが力強く押し出した。
テオは躓きそうになりながらも家の中に転がり込む。いつもは軽蔑した視線を投げかけてくる村の女子衆が、今は口々に「おめでとう」「マヤちゃん、頑張ってたよ」と笑顔で言葉をかけてくる。
マヤの寝ている部屋に入ると、マヤは生まれたばかりの赤ん坊を抱いて横たわっていた。疲れてぐったりはしているが、命に別状はなさそうだ。
「マヤ。……赤ん坊って、赤いんだな」
「お疲れ様」も「ありがとう」もなぜか恥ずかしくなり口にできず、テオはただ一言だけ呟いた。
マヤはふわりと笑う。
「元気な子だよ。おばあの祝福のおかげかな」
そのあとで、泣きそうに頬を歪ませた。目を伏せて囁くように呟く。
「あと一日、おばあが生きててくれたらよかったのに」
――神々は、この村でいちばん神に尽くしてきたであろうおばあの望みのひとつでさえ、聞き入れてはくれなかった。
テオの言うとおりなのかもしれない、とマヤは思う。
もしも本当に、神々がこの世界のことを忘れてしまっていたとしても。
自分たちで方向を決めて、二本の足で草を踏み締めて歩いていこう。
家の入り口から、白い朝日が差し込む。
神に忘れられたこの土地で、生命は連綿と紡がれていく。
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