第46話:魔石ライフル 第四層での試射
2026年11月
地下工房の作業台の上に、ネイビーブルーと鈍い銀、そして、肉抜きされた美しい曲線が融合した、完全オリジナルの『魔石ライフル』が横たわっている。
完成した新兵器を前にして、おじさんは性能確認の試射を行いたくて、うずうずしていた。
「先ずは照準補正が最優先だな。バレル(銃身)長が変われば、弾道特性も完全に変わる」
おじさんは分解したライフルをリュックに詰め、第二層の草原エリアへと入行した。
まずは周囲に他の探索者が絶対にいない不人気エリアに陣取り、1週間近くにわたって徹底的な実射試験を重ねた。
1.0mのロングバレルから放たれる12,500Jの咆哮は、凄まじかった。
『ガァンッ!!』という独特の破裂音に、スライム魔石の瞬間膨張による『カンッ!』という乾いた金属的な打撃音が混ざり合う。
ライフリングでマッハ2のジャイロ回転を与えられた骨の槍が、大気を引き裂いて飛んでいく。
引き金を引いた瞬間にボルト内のWスライム魔石が弾底のスライム魔石を叩き、タイムラグゼロで弾丸が射出される。
あの煩わしかった魔法による大気圧縮の時間は完全に過去のものとなっていた。
また、5連装マガジンのおかげで次弾の装填もスムーズだ。
最初はバレル長ごとの弾道の落下量や、スコープの目盛りの修正に少々時間を取られたが、試射と特訓は順調に進んだ。
方眼紙のノートにプロットした弾道曲線を頭に叩き込んだ。
1週間の終わりには、スコープの補正線を重ねるだけで、300m先の草むらでのんびりしているイノシシモドキの脳天を一撃で撃ち抜けるまでになった。
「よし。各バレルの弾道特性は把握した。次は、第四層へ赴き、実戦での耐久性と制圧能力の確認を行うか」
*
日を改め、装備や食料、水を準備していざ出陣。
おじさんはバレルを『075(ゼロナナゴ)』の中長距離仕様に換装し、5連装マガジンをカチリと装填して第四層の鍾乳洞エリアへと侵入した。
おじさんはバレル長1.0mを10(イチマル)、0.75mを075(ゼロナナゴ)、0.5mを05(ゼロゴー)と呼ぶことにした。
(5連装マガジンの予備も4個あるので、十分だろう)
最初の遠征では、4匹目のGトードに接近されて塹壕での対応を強いられたが、おじさんにはこの魔石ライフルがある。
湿った冷気の中に魔力レーダーを展開すると、視界の片隅に、水辺の淀みに潜むGトードの重たい『緑色の反応』が次々とマッピングされた。
「距離、80m。遮蔽物なし。075バレルの有効射程内だな」
岩陰にバイポッドを接地させ、スコープの十字線を緑の反応の眉間へと正確に固定する。機械式の引き金を静かに引き絞る。
『カァンッ!!』
音速の壁を突破した骨の弾丸は、80m先の暗闇を一瞬で踏み越え、Gトードの強固な頭蓋骨を消しゴムで消すかのように容易く粉砕した。
魔獣は悲鳴を上げる間もなく光の粒子となって霧散する。
ボルトレバーを軽快にガシャリと後ろへ引き、次弾が滑らかに薬室へと送り込まれる。
ボルトを前に押し込んで閉鎖。わずか1秒で次撃の体制が整う。
「良い感じだ。弾詰まりは皆無。スムーズな給弾だ」
おじさんは物陰から動くことなく、魔力レーダーで捕捉したGトードを、次々とその圧倒的な超過剰威力で安全圏から狩っていった。
次々とガシャリ、カァン、ガシャリ、カァンと、暗い鍾乳洞に精密な機械音が規則正しく響き渡る。
「そろそろ20個か、引き上げどきだな」
結局、ライフルの実用試験を兼ねて鍾乳洞のルートを淡々と制圧し続けた。
結果、おじさんは一切の傷も負うことなく、『Gトードの魔石』を20個、短時間で狩り集めて終了した。
本当は、その先にある未踏の『第五層:巨大空洞』へ足を踏み入れたいという好奇心もあった。
しかし、長期遠征に必要な食料事情などが未解決であること、そして、何より今回は魔石ライフルの本格的な確認が主目的であったため、迷わず撤収を選択した。
ダンジョンを出たおじさんは、Gトードの魔石以外の装備などを拠点におろすと、自宅に帰ってゆっくりした。
翌日、『横浜第一ダンジョン』の協会窓口へと向かった。
おじさんは窓口のトレイに、20個のGトードの魔石を、ジャラジャラと無造作に置いた。
「失礼します。換金をお願いします」
対応した若い女性職員は、トレイの上の魔石を見るなり、ピタリと動きを止めた。
彼女は大きな目をさらに丸くして、トレイの魔石と、ウィンドブレーカーを着た還暦過ぎたおじさんの顔を、何度も往復して見つめた。
「あ、あの……これ、すべて第四層の、Gトードの魔石……ですよね? それも、20個、ですか……!?」
「はい、そうです」
おじさんがポーカーフェイスで淡々と答えると、職員は
「はい!、すぐに査定いたします!」
と、震える手で魔石を機械へと投入し始めた。
周囲のベテランらしき探索者たちからも、
「おい、あのおっさん何者だ? ソロで第四層のGトードをあの数か?」
と、驚愕の囁き声が漏れ聞こえてくる。
スマホに源泉徴収税20%を引かれた手取り額の振込通知が届くのを確認しながら、おじさんは小さくため息をつき、トボトボと協会の建物を後にした。
(……あ、またやっちゃったかな。場所を遠くに変えても、還暦の新人が高位の魔石を一度に大量納品すれば、それだけで目立つという行動は……失念していたな)
首をすくめながら駅への道を歩くおじさんの胸の内には、完成した魔石ライフルのずっしりとした重みと、衝撃を思い出しながらニヤニヤせずにはいられなかった。
(つづく)




