第43話:魔石の衝突実験その2
2026年11月
第四層への遠征から帰ってきた翌日、さっそく爆発実験その2に取り掛かった。
先日と同じ、普段は他の探索者がまず近寄らない、孤立した不人気エリアへと足を運んだ。
まずは、錬金術を発動、2mの土壁を作り、前回と同様の実験準備を行った。
服装は防刃ワークシャツにポリカプロテクター、ゴーグルを装着した重装備。
さらに、耳への衝撃波を和らげるための工業用耳栓も装着した。
「よし、実験装置のセッティングを始めるか」
地面に、まずはベースとなる『スライムの魔石』1個を固定。
そして30kgの鋼鉄の棒の底面に、錬金術の分子結合で別の魔石を1個貼り付け、上から落として『魔石同士をダイレクトに1対1で衝突させる』
防護壁の裏へと戻り、ポリカ盾をしっかりと構える。耳栓の密着を確かめ、紐をグッと引っ張った。
「実験ナンバー3-1
スライム魔石 ✕ ジャイアントラット魔石(第三層)……投下」
カチン、と高い結晶音が響く。
だが、変化なし。
この魔石同士では、何らエネルギーの励起は起きないようだった。
「実験ナンバー3-2
スライム魔石 ✕ 大コウモリ魔石(第三層)……投下」
カチン。……変化なし。
「実験ナンバー3-3
スライム魔石 ✕ 毒蜘蛛魔石(第三層)……投下」
カチン。……変化なし。
「第三層の魔石ではダメだったか。次は第四層の残りの魔石だ」
「実験ナンバー3-4
スライム魔石 ✕ 吸血ヒル(第四層)。……投下」
カチン。……変化なし。
「実験ナンバー3-5
スライム魔石 ✕ Wスライム(第四層)。……投下」
紐を引く。
ガイドに沿って、Wスライムの魔石を取り付けた30kgの鉄の棒が高速でスライム魔石へと迫った。
両者の界面が、物理的に強く接触した、まさにその刹那だった。
『ブガァァァァァンッ!!!!!』
鼓膜を強引に突き破るような、耳栓の上からでも脳髄が震えるほどの、凄まじい大爆発が至近距離で炸裂した。
閃光が土壁の隙間から溢れ出し、直後、押し寄せた衝撃波が、おじさんが身を隠していたレベル3の頑丈な岩壁を激しく叩いた。
「おいおいおいおい、嘘だろ!?」
防護壁の向こう側をおそるおそる覗き込む。
そこにあったはずの、重量30kg、長さ2mもあった鉄の棒が姿を消していた。
見上げれば、おじさんが即席で作った高さ2mの土壁を遥かに飛び越え、数m上空までぶち上がった鉄の棒が、今まさに重力に従って草むらへと真っ逆さまに墜落していくところだった。
「……あぶねぇ。エネルギーの大半が側面のオープン空間に逃げてこれか。
もし地下工房の机の上で偶然ぶつけていたら、おじさんの第二の人生が退職届(〇亡)だったな……」
冷や汗が背中を伝う。
確認したところ、爆発したのは、スライムの魔石だけで、Wスライムの魔石は無傷だった。
爆発のエネルギーが全方位に拡散したオープンな状態で、なお30kgをここまでハジき飛ばすということは、元の総エネルギー量は桁違いだ。
これではライフルでそのまま使うにはあまりにもオーバースペックであり、銃身が木っ端微塵になる。
「ならば、測定対象の出力をコントロールすればいいだけのこと。……よし、魔石を小分けにするか」
おじさんは実験装置を修復し、今度はスライムの魔石を錬金術で4分割にカットした。体積にして約1/4。エネルギーも1/4に抑えられるはずだ。
「実験ナンバー3-5-2
4分の1カット・スライム魔石 ✕ Wスライム魔石……投下」
紐を引く。再び鋭い破裂音が響き、衝撃波が防護壁を叩いた。
今度は鉄の棒が上空へ消えることはなかった。
ガイドレールに沿って、おじさんの胸の高さーーちょうど60cmほどに『スッ』と綺麗に浮き上がり、静かに元の位置へとドスンと落ちてきた。
「やった! うまくいったぞ!」
おじさんは手元のメジャーで鉄の棒の浮き上がり高さを確認し、その数値を元に計算した。
「位置エネルギーの移動量と、オープン環境での爆風の拡散効率から計算して……スライム魔石1個の純粋な総爆発力は、ざっと25,000Jだな!」
恐怖が去ったあとに湧き上がってきたのは、勝利の確信と、強烈なニヤニヤとした高揚感だった。
「すごい!…… スライム魔石とWスライム魔石を強く打ち付けるだけで、これほどのエネルギーが出る。完全に火薬の代用になるぞ!」
「よし、残りの組み合わせもやってみるか」
そのあと、手持ちの魔石の組み合わせで爆発実験をしたが、いずれも爆発しなかった……。
「結局、Wスライムとスライムの組み合わせだけということは、上位種の魔石が、下位種の魔石を励起して爆発させるのか?」
「他の系統でも実験したいところだが、他の種で上位種と下位種の組み合わせを揃えるのは、なかなか難しいな。もっと下層に潜らないと、とりあえず保留だな」
この25,000Jという威力は、ライフルでそのまま使うにはあまりにもオーバースペックであり、銃身が保たない。
だが、スライム魔石をカットして威力を落として使えば良いだけのことだ。
銃の設計として、角弾(角うさぎの角)の弾底に、錬金術でスライムの魔石を半分(1/2サイズ)にカットして接合する。
それをライフルの薬室の中で、撃針の役割を果たすWスライム魔石でカチンと叩く構造にすれば良い。
「角弾用の炸薬として使うなら、スライム魔石を粉末状にしてから、適切な型に充填し、プレス成型で形を整えてから錬金術で固めても良いな」
「爆発エネルギーを綺麗に半分の『12,500J』にコントロールできる。
初速マッハ2.1の超音速、300m先のゴーレムの急所を安全圏からズドンとブチ抜く、究極の『魔石ライフル』が作れるじゃないか……!」
草原の真ん中で、おじさんは声を押し殺しながらニヤニヤするのだった。
(つづく)




