俺、極度過ぎて自らを呪う
――この娘は一体何を言っているのだろうか?いや、まあ、見知ったばかりとはいえ佐々木と恋人になるのは別に嫌ではない。
真っ白な肌にオレンジ色に近い茶髪、瞳はまるで空のように青く澄んでいて、身長は俺より頭一個分ほど低い(およそ百六十センチぐらい)。声は優しくて聞いているだけで癒される。体型はやせ形で胸はDカップはある。しかも顔が可愛い系に整っていて八重歯だ。あれほど可愛い娘と恋人になれたらどれだけ嬉しい事か。
――でもこんな早い段階で恋人なんか作ってしまったら、きっと厳史朗さんに微妙な顔されるよなぁ……故に結論!
「ごめん、無理。じゃあ切るぞ」
そう言って終話アイコンをタップしようとしたところで――
『ま、待ってください!本当にあたし困ってるんです!助けてください!!うぅっ、ひっく、助げてぐだざいぃぃぃぃ!!』
――あー、マズい。泣かせてしまった。
面倒くさい事になりそうな予感はバリバリしているが、やはり女の涙には弱いわけで、俺は終話アイコンを押すのを寸でのところで止める。
「あのなぁ、分かっているとは思うが俺と君は一応金持ちの子供なんだぞ?」
――まあ、俺は実子ではないけど。
「それなのに知り合ったばかりで恋人だなんて関係になってそれが世間にバレたら一体どうなるか……言わずとも分かるだろう?」
つまり、いかがわしい関係なんじゃないか?と周りに疑われるというわけだ。
そうなると親だけじゃなく親が経営する会社にまで迷惑が掛かるだろう。
佐々木の家がどんな感じの金持ちなのかは分からないが、もし世間様の信用を失うような事態になったら色々な意味で終わりである。
それは佐々木も分かっているはずだ。
それなのにすぐ『恋人になって!』だなんてお願いするのは間違っている。
しかも根本の理由が性欲が強いからって、完全にいかがわしすぎる。
頭がおかしいとしか言いようがない。
『はい……けれどどうしようもないんです……それに誰でも良いわけじゃないんですよ?』
「えっ……」
――それってもしや俺の事が好きだからお願いしたって事なんじゃ……
『春日野君、良い人だから優しくしてくれそうだし……それに童貞顔だし……』
「おいコラ、誰が童貞顔だ」
――つか童貞顔って何だよ!
『あたし、女慣れしてる人は嫌なの。乱暴そうだし……だから春日野君が良いんです……でも春日野君が拒絶するのならもう無理は言いません……』
「……そっか、それは良かった」
で、俺が安堵の息を吐こうとしたところで、佐々木は妥協案だと言わんばかりにこう言う。
『なのでお試し交際から始めるというのはどうですか?』
――何故そうなる。恋人とお試し交際ってあまり変わりなくね?
『嫌、ですか……?』
「いや、別にそういうわけではないけど……」
『うぅっ、また涙が出てきました……』
「ぅぐっ……」
急な展開で困惑するがあくまでお試しならまだ良いような気がしてきた。
佐々木、ぶっちゃけ可愛いし。
それにお試しならダメだった場合すぐに別れられる。
ならこう答える他ない。
「……分かった。付き合おう」
『えっ……良いんですか……?』
「あぁ、でもあくまでお試しだ。本格的に交際するってなるまではキスもしないし、そ、そういう事もしない。それで良いな?」
『はい……それじゃあこれからよろしくお願いします……』
「おう、よろしく」
こうして俺と佐々木は交際する事となった。
それから暫く佐々木と他愛ない会話をした。
気付けば夜中の二時になっていたので俺達は通話を終える事に。
で、すぐに宿題を片付けてベッドの上で仰向けになると、俺は大いに後悔し、極度のお人好しである自分を呪う。
そしてとある結論に至った。
その結論とは――
「そうだ、敢えてだらしない姿を見せて逆に嫌いになってもらおう!そしたら俺に対する興味や性欲も失せるはずだし!」
とまあ、有りがちなものである。
目を開けると、昨日と同じ状況――つまり旭が右隣で眠っていた。
しかも俺の右腕に抱き付き、まるで胸を押し付けるようにして寝息を立てていて、顔がかなり近い。
ちょっと首を動かせばキスが出来る程だ。
「うーん……秋好様……」
寝言で俺の名前を呼び、右頬を俺の方にスリスリと擦り付ける。
そして再び静かになる旭。
それが因して彼女の前髪が分かれ、美しい顔が露になる。
――髪、切れば良いのに……
旭の外見は、長過ぎる髪のせいでまるで貞○のようになっている。
本当はかなりのルックスの持ち主なのにこれでは勿体無い。
――そうすれば人気者になれただろうになぁ……
旭のショートヘア姿を想像してみる。
かなり印象は良くなったが、その姿でセクハラしてくる彼女を想像すると、自然と顔が引きつった。
――結局、性格を変えないと人気者にはなれないか。
苦笑せざるを得ない。
「……ん?」
ふと、旭のあどけない寝顔に既視感を覚えた。
――何だこの懐かしさは……もしかして俺は昔、旭とどこかで会っているのか?もしそうなら一体どこで……何かを思い出しそうなのだが……
そこまで考えたところで旭が目を開けた。
「おはようございます、秋好様」
「お、おはよう、旭」
「昨日の腰使いはなかなかのものでございま――」
「それはもう良いから!それよかとっとと離れてくれ」
――でないとキスしてしまいそうだから。
そっぽを向いた後、心の底からそう思う。
そんな俺をマジマジと見つめる旭。
ねちっこい視線を後頭部に浴び、非常に気まずい思いに苛まれる。
ジィーッと見つめる。見つめる、見つめる、見つめる。
堪えかねて起き上がろうとした。
が、途中で何故かマウントポジションを取られて再び仰向けになる。
「キス、したいですか?」
――はい!したいです!って、違う違う。冷静になれ。
「べ、別に!それより退け。遅刻するだろうが」
「そんな事どうでも良いではありませ――あっ、何か硬いものが私のお尻に……」
そして直ぐ様それの正体に気付いた旭は、メイド服の胸ポケットから四角いパッケージを取り出し、決め顔で訊ねる。
「装備しますか?」
「お前はRPGの防具屋か!」
「なるほど、なかなか上手い切り返しでございます。というわけで装備を――」
「うん、しないよ?」
「…………チッ」
旭は舌打ちすると、俺の上から退いて、ベッドから出るのであった。
そしてそのまま部屋を出て朝食の準備をしてくれるのかと思いきや、扉の手前で立ち止まり、こちらへ身を翻して訊ねる。
「ところで昨日、佐々木未来さんと何かございましたか?」
「は?どうしてそう思う?」
「いえ、ただ、先程寝言で『ゲヒャヒャ!佐々木未来ぅ~!俺のリコーダーで卑猥な音楽を奏でてみせろよぉ~!』と叫んでおりましたので」
――何言っちゃってんの俺!?
「もしかして彼女に気がある、とかでしょうか?」
――どうしよう、ここは正直に話すか?でもきっと信じてくれないだろうなあ……
「もしそうなのでしたら警告させていただきます。危険なので彼女には気を付けてください」
「危険……?」
「はい、それでは朝食の準備があるので失礼します」
「ちょっ!危険ってどういう事……って、行っちゃったよ」
――まさかアイツ、佐々木が性欲強いのを知って……いや、でもそれだけで危険だと警告するのは何か違うような気がする。そもそもただ性欲が強いってだけだからな。別に警戒するような事でもない。ならアイツは一体どういう意味で警告を……?
「……まあ、気にする程じゃないか」
そんな結論を出して俺は登校の準備を開始するのであった。




