理由
子曰く『魔法幼女!クンカクンカ……魔法幼女!クンカクンカ……うーん、テイスティー!!』
何ともまあ、変態チックな発言である。
だが更に変態チックな事がある。
それはこの台詞を口にした時、子が自らの足の爪と肉の間の臭いを嗅いでいた事だ。
実際に魔法幼女の匂いを嗅いでいたわけではない。
だからまだ許容は出来るものの、果たしてこの行動は人としていかがなものなのだろうか。
ぶっちゃけ俺は『あっ、こいつ人間失格。寧ろ家畜以下だ』と思った。
まあ、そんな俺の気持ちはどうでも良いとしてだ。
俺が言いたいのはつまり、人間とは時に非常識な行動を取るという事だ。
それを証明するかの如く、現在俺は非常識な行動を取っている。
その非常識な行動とは――
「ひゃんっ!か、春日野君!これ以上あたしの胸に顔を押し付けてフガフガしないでください!」
という変態チックな行動だ。
けれどこれだけは言わせて欲しい。
これは不可抗力だ。
この体勢に至るまでのプロセスはこうだ。
朝、教室に到着したので、クラスメート達に挨拶をしながら自分の席へ向かう。
途中で佐々木が声を掛けながら俺の元へ歩いて来る。
最接近したところで佐々木が転けた。
このままでは顔面を床に強打する。
そう思い、俺は佐々木の下敷きになるようにして彼女を受け止めようとする。
が、何故か床に落ちていたバナナの皮を踏んでしまい、仰向けになりながらすってんころりん。
で、気付けば佐々木が俺に跨り、胸を押し付ける形になっているというわけである。
「ふがっ!もがふふが!」
「ヒャンッ!?そ、そこはっ!?」
くすぐったいのか、はたまたアカンことになっているのか。
佐々木は体をびくつかせてやけに色っぽい声を上げる。
おかげでやっと胸が離れてくれたが、ここで俺は回りの視線に気付く。
「「へ、変態だ……」」
「ケダモノよ!」
「え、エロい……」
「羨まけしからん……」
そんな声が周りから聞こえ、途端に死にたくなってきた。
だが、このままの状態というのはさすがにマズい。
なので跨っている佐々木の下から何とか滑り出て立ち上がる。
そして無言で佐々木の右手首を掴んで教室を出る。
少し歩いたところにあった階段でその手を放し、立ち止まる。
「あー、何て言うか……その、すまなかったな」
「……さい……」
「は?」
佐々木が俯いているせいで、よく聞き取れなかったので聞き返す。
すると彼女は真っ赤になった顔を上げてこう言う。
「責任取ってください!!」
「待て、何故そうなる?」
――まあ、何故なのかは分かっている。きっと公衆の面前で卑猥な事をされたからもうお嫁に行けないと思っての事だろう。その気持ちは分からなくもない。俺だってもうお婿に行けないと思っている。だが責任を取る程の事とは思えない。というか取りたくない!!
「い、言わなくても分かるでしょ……春日野君のエッチ」
――ですよねー。ん?でも待てよ。これは嫌いになってもらう絶好の機会じゃないのか……?となるとここは……
「無理。つーかあれぐらいで責任取れとか言われても困るから」
ぶっきらぼうな態度で告げる。
――少し口調がキツ過ぎたか……?でも嫌われる為だから仕方ないよな?あー、でもこれで泣かれたりしたら嫌だなぁ……
「そんな……こんなのって……」
ショックを受けたかのように俯く佐々木。
その彼女が口を開くのを待つ。
そして五秒ほど経ったところで佐々木は顔を上げて言う。
「逆に萌えますね!」
――何でっ!?
「どうしましょう!?また変に体が熱くなって来ました!」
――ダメだこりゃ。
あまりのどうしようもなさにしゃがんで頭を抱える。
「あれ?どうかしましたか?」
「いや、ただ人生の不条理さを嘆いているだけだ。うん、ただそれだけだ」
「おかしな春日野君ですね」
そう言って佐々木はクスリと笑うと俺の頭に右手をポンポンと置いてこう続ける。
「ほんと、おかしな春日野君です」
「二度も言わないでくれ」
――そしていったい誰のせいだと思ってるんだ。
はぁー、とため息を吐いた後、立ち上がって佐々木の目を見据える。
「まあ、とにかくだ。クラスメートには不幸な事故だと言っておくからさっきのは忘れてくれ」
「仕方ないですね。では交換条件です」
「交換条件……?」
「はい!その交換条件とは――」
保健室とはピンク色の部屋の事を指す。
何故か?それは同人誌の舞台の定番だからだ。
あんな事やこんな事、それはもう沢山のシチュがある。
中でも特に有りがちなのは保健室の先生、もしくは生徒が相手のシチュだろう。
なかなかに萌えるというものだ。
で、どうして俺が今そんな話をしているのかと言うと――
「あっ……そこは……も、もっと優しくして……」
「ご、ごめん。これぐらいならどうだ?」
「うん、上手……あぁん!?し、しゅごいぃぃぃ!!」
「へ、変な声出すなよ!」
「だって……んんっ!本当に気持ち、良いんだも、んんんっ!?」
「だからってその声はアウトだ!」
そんな夢いっぱいの保健室で佐々木とある事をしていた。
佐々木がしきりに艶っぽい声を出しているが安心してくれ。
あくまでこの物語は健全。
故に一戦交えている内容の文面を載せる事は今のところ設定されていない。
というかこの物語は基本、下ネタではあるが官能小説じゃない。
ならどうして佐々木とこんな会話をしているのか?それは極めて単純である。
「……って!!マッサージってそんな声が出るものでしたっけ!!」
とまあ、そういう事だ。
因みに今はうつ伏せに寝る佐々木の腰に跨がり、背中をマッサージしている。
が、突っ込みを入れる為に一度中断し、佐々木の後頭部をひっぱたいたところである。
「はう、痛いです……」
「痛くしたんだよ!」
「DV……ドラマチックヴァイブというヤツですね!」
「それを言うならドメスティックバイオレンスな!」
「そうとも言います!」
――いや、それ以外ねえよ。
満面の笑みを浮かべる佐々木に呆れ、俺はため息を吐く。
そして背中のマッサージを再開しながら訊ねる。
「それで、こんな所に何の用なんだ?」
「いえ、実は折り入ってお願いがありまして……」
「エッチなことはお断りだぞ」
「そういうわけではありません。ただ……」
数秒間、躊躇うように口をパクパクさせる。
それから佐々木は意を決したように目付きを真剣なものに変え、こちらを見据える。
「実はあたし、大病を患っているんです……つい先日、寿命は約一年だと言われました……」
「っ!?」
――寿命一年って……それはあまりにも残酷過ぎるぞ。神様は何て試練を佐々木に与えたんだ……
「だから死ぬ前に女の幸せを手に入れたいんです……」
「つまり結婚か……?」
「はい。あたしの性欲が強いのは恐らくそれが原因かもしれません……」
動物は死の危機に瀕したら子孫を残そうとするらしい。
それは人間も同じで、戦争の前後は出生児が極端に増えるとの事。
その原理は佐々木にも当てはまるらしく、本人もそれは自覚しているようだ。
「で、お願いというのは?」
「あたしの寿命は残り一年。今子供を作れば死ぬまでには産む事が出来ます。だから……春日野君との愛の結晶が欲しいんです!」
至って真剣な眼差し。
それだけで彼女の必死さが伝わってくる。
ならここは彼女の願いに答えてあげるのが人間というものだろう。
でも分からない事があるから愛の結晶云々を考える前にその事について訊ねるとしよう。
「何で俺なんだ?俺のどこが良いっていうんだよ?」
「それはあんな恥ずかしい姿を見られてしまったからです。でもそれだけではありません……好きになっちゃったんです……こんなあたしに優しくしてくれる春日野君の事が……」
潤んだ瞳且つ上目遣いで訊ねる佐々木。
そんな彼女に不覚にもトキメク。
だがそれではまともに話が出来ないので、頭を振って正気に戻る。
――釈然としないな……優しくされてコロッと堕ちるって、チョロ過ぎるような気もする……となると!
「あー、何だ?取り敢えず佐々木の言い分は分かった。だが少しだけ考える時間をくれ」
「どれぐらいの時間ですか……?」
「せめて三日は欲しい」
「三日……分かりました。それと、この事は二人だけの秘密ですよ?」
「あぁ、分かっている」
――つーかこんな事誰かに言えるわけがない。
ここで授業開始のチャイムが鳴る。
「教室へ戻るぞ」
ベッドから降り、佐々木の方へ向いて右手を差し出す。
「さっきのマッサージで腰が抜けたので先に戻っておいてください」
「お、おう」
――そんなに気持ち良かったのか……将来マッサージ店を開くのもありか?
そんな事を考えながら右手を引っ込めて、保健室の扉の前へ。
そして振り返り、ベッドでうつ伏せたままの佐々木を一瞥すると、保健室を後にするのであった。




