三十路女教師は結婚したい!
学園に到着したのでまずは職員室へ行った。
理由はこれから担任となる教師に挨拶する為だ。
取り敢えず担任とはすぐに会えた。
名前は明日葉洋子。
年齢は三十前後と思われ、見てくれは結構良い。
しかし異性である俺との接し方で分かったのだが、どうやら彼女は男性慣れしていないのようだ。
因みにどんな接し方なのかというと――
「だからですね春日野君、先生は大人な女性であるからして、そういう経験もほ、豊富なのですよ?」
とまあ、自分が処女であるを何度も否定して来るのである。
こちらからそういう話は振っていないにも関わらずだ。
そんな事があれば誰だって分かるというもの。
寧ろ分からないヤツはラノベ主人公ぐらい鈍感だ。
「ちょっと!聞いてるのですか!?」
「はい、聞いてます。そして大丈夫です、先生が経験豊富な大人の女性なのは見て分かりますので……はい」
――嗚呼、俺達は何故こんな話をしているのだろうか……馬鹿らしいにも程がある。
先導してクラスルームへ続く廊下を歩く洋子先生の大きなお尻を見ながらそう嘆く。
因みに、つい数分前までは旭が付き添ってくれていたが、いつの間にか居なくなっていた。
――旭は旭で俺を放置してどこかへ行っちゃうし……心細いっての。
「本当に聞いてますか!?」
「はい、ちゃんと聞いています。先生はとても魅力的な女性だと思いますよ。もし俺と同じ年齢だったら今頃は求婚している自信があります」
「そそそ、そんな!?先生と結婚したいだなんて……いえ、別に吝かではないのですよ?でも先生と春日野君は教師と生徒の関係なので……」
――ほんと、どこ行ったんだろうなぁ……
「でも愛さえあれば関係ありませんよね?そうですよね!?」
「そうですね、先生がもっと若ければそう思ったかもしれませんね」
「ですよね!ではこれから挙式の段取りを――」
「って、冷静になれよ!あんた教師でしょうが!!」
洋子先生が身を翻して俺の両手を掴んできたので、慌ててその手を払って正気に戻るであろう台詞を口にする。
「そ、そうですね。先生は教師で春日野君は生徒ですからね……」
どうやら洋子先生は正気に戻ってくれたらしい。
――あっぶねぇー、旭の事に気を取られていたせいで理不尽な結婚をするところだったわ……
と、安堵したのも束の間、
「では春日野君が卒業したら即結納ということで良いですね!?」
「フッ、ねえわ」
「はうぅ……冷笑しながら拒絶されたです……」
「そんな事より洋子先生、教室にはまだ着かないんですか?」
これ以上結婚の話をされたら堪ったものではない。
なので強制的に話を変えさせてもらった。
「あっ、それならとっくに着いていますよ」
「は?」
「ここがこれから春日野君が使用する教室です」
そう言ってすぐ右にある扉の取っ手に左手を掛ける洋子先生。
そして「それでは早速入りましょうか!」と言うと、すぐさま扉を開けた。
「えっ、ちょっ!?」
直後、クラスメート達と一斉に目が合い、一気に緊張に襲われる。
バクバクと心臓が早鐘を打っている。
口の中が極度に乾いている。
呼吸が荒い。
手汗の量なんて他人に手を握られたら相手がドン引きするレベルだ。
「皆さーん、おはようございまーす!」
そう言いながら洋子先生は教室へ入っていくと、こう続ける。
「早速ですが、皆さんに新しい仲間を紹介しまーす!」
次の瞬間――
「女!?女か!?」
「女だろ!」
「女だよな!?」
と、男子の声。
だが残念ながら俺は男だ。
てか扉が開いているから俺の姿は丸見えのはず。
それなのにコイツらは一体何を言っているのだろうか。
「女!?女よね!?」
「きっと女よ!」
「女だよね!?」
と、女子の声。
コイツらもコイツらで何を言っているのだろうか。
――この空気の中教室に入らないといけないのか……ハードル高いな。
鼻で空気を吸って口で長く息を吐く。
そして「よし!」と気合いを入れると室内へ。
直後、全員が残念そうな表情を浮かべる――と思ったがそうではなかった。
寧ろ宝石を見つめる女性の如く目を輝かせている。
教壇へ上がり、クラスメート達の顔を一人ずつ見て、左側からどんどん右側へ視線をやる。
で、最後の一人である、右側一番後ろの席に座る生徒を見てギョッとする。
何故か?それは旭がいたからだ。
しかもちゃっかり制服に着替えている。
――なるほど、だからいつの間にか居なくなっていたのね……って、今はそんな事どうでも良い。とにかく気の利いた自己紹介をしないとだ。だがどんな自己紹介をすれば良いんだ?ちょっとしたブラックジョークでも入れるか?いや、滑ったら居たたまれなくなるからそれは止めておこう。それならここはど直球に自己紹介するとしよう。
「えー、春日野秋好です。早くこのクラスに馴染みたいので気軽に話しかけてくれると助かります。これからよろしくお願いします」
両手を太股に添えて深々と頭を下げる。
と、洋子先生が補足としてこう言う。
「因みにですが、春日野君はあの鳳凰院厳史朗さんのご子息です。だから誰も彼には手を出さないでくださいね。出して良いのは先生だけです!」
――あんたは一番手を出しちゃいけないから!!
全力で叫んで突っ込みを入れたかった。
しかしここでそれをしてしまうとクラスメート達に怖がられてしまいそうだ。
なので、心の中でするだけに留める。
直後――
「「「えぇーっ!?」」」
室内が絶叫に包まれた。
この絶叫は処女先生の問題発言に対するものではない。
俺が厳史朗さんの息子である事に驚いたからだ。
それを証明するようにクラスメート達は意外そうな言葉を口にする。
「あの鳳凰院厳史朗の息子って……大物じゃね!?」
「あんな冴えない人が厳史朗様の!?」
「あり得ない……あり得ないわ!」
ふと、旭と目が合った。
彼女は無表情で軽い会釈をするとそっぽを向く。
――相変わらず感情の読めないヤツだ。
俺がそう思ったのは言うまでもない。
自己紹介が終わるとすぐに休み時間となった。
その瞬間、クラスメート達が俺に群がり質問責めをしてきたので、俺は全ての質問に真摯に答えた。
それが良かったのだろう。
それから昼休みになるまでの間、休み時間はひっきりなしに声を掛けられた。
で、昼休みになるとやはり皆に『一緒に昼食を食べないか?』と誘われた。
俺は承諾しようとしたが、ここで旭がモーゼのようにクラスメート達を退けて現れる。
そしてこう言うのであった。
「ご主人様、昼食をお供してもよろしいでしょうか?デザートは今朝のように私の唇ですが……」
「「「えっ!?」」」
俺以外の全員が唖然した。
俺はというと、やりやがった!と言わんばかりに頭を抱える。
――つか、今朝俺がキスしようとした時起きてたんかい!!
「ご主人様ってどういう……」
「そう言えば朝比奈さんって鳳凰院グループでメイドをしてるんだった……」
「て事は朝比奈さんは春日野君の専属メイドって事!?」
「てか今のどういう事だよ!?これじゃあまるで毎食後、おやつとして朝比奈さんの唇を食べているみたいじゃ……」
「クズよ!人間のクズよ!」
そして一斉にクラスメート達は俺から距離を置く。
その目はそれぞれ違うが、女子から向けられるのは明らかに軽蔑とドン引き混じりのもの。
男子の一部に関してもそれは同じだった。
しかしそれ以外は羨望に似た何かのように思える。
「ま、待ってくれ!今のは旭の冗談なんだ! だろ!? そうだよな、旭!?」
必死に誤解を解こうとするが――
「酷い!?昨夜は一緒にお風呂にも入ったのに!!」
更なる悪ノリをされてしまった。
そのせいで完全にクラスメート達にドン引きされてしまった。
――マズい、このままじゃ更に俺の立場が悪くなりそうだ……となれば!
「わ、分かった!一緒に食べよう!」
「はい、食後は是非とも私の唇を!」
「あー、もう!どうしてそうなるんだよ!!」
これ以上旭が何かを言う前に、俺は彼女の右手首を左手で掴んで教室を出る。
それから俺達は食堂へ行き、昼食を摂った。
備考として、当然俺がおやつとして旭の唇を召し上がる事はなかった。
旭が問題発言をした後から、クラスメート達の俺に対する態度が激変していた。
女子からは明らかなる軽蔑の視線。
男子からは嫉妬の視線を向けられ、休み時間になっても誰も話し掛けて来ない。
まるで奈落の底に落とされたようだ、と俺が思ったのは言うまでもない。
そして放課後、旭と一緒に帰ろうと正門まで来た。
が、ここで俺は机に筆箱を忘れてしまっている事に気付いた。
なので旭が迎えを呼んでいる間に教室へ戻る事にした。
その最中、俺は衝撃的なイベントに遭遇する。




