そして結末はこうなるのであった
朝、ふと目を覚ますと、隣で佐々木が横になっていた。
どうやら眠っているようなのだが、一体いつの間に俺の部屋に来たのだろうか。
「…………ん?」
何か違和感を覚える。
どことなく佐々木が苦しそうにしている気がする。
視線を佐々木の顔から下へ下へと移動させる。
そしてその原因に気付く。
佐々木の両手両足には手錠が掛けられていた。
そして胸元にはプレートが張り付けられていて、「セカンド専属メイドの佐々木です。ご自由にお召し上がりください」と書かれていた。
「……って、セカンド専属メイドってなんだよ!?」
枕元に置かれている旭を呼び出す為のベルを右手に取り、それを力の限り振る。すると秒を待たずして扉が三回ノックされた。
「朝比奈です。如何されましたか?」
すぐに扉の方へ行き、引き戸に手を掛けて勢い良く扉を引く。そしてガシッと旭の両肩を掴み、体を前後に揺する。
「これはどういう事だ!?これはどういう事なんだああああ!?」
「気でも狂いましたか?」
「狂ってねえ!!狂いそうだけど辛うじて狂っては……いねえからあああ!!」
嘲笑するかのような声音で俺の頭を心配する旭にそう返しながら、その軽い体をベッドへ放り投げる。
「わぁ~~」と言いながら放物線を描き、「びよ~ん、びよ~ん」と言いながらベッドの上で二回バウンド。それから「シュタッ!」と言って正座で着地し、俺の顔を見るとフッと笑う。
そんなどや顔旭に突発的な憤りを感じ、地団駄を踏みながらベッドへ歩を進める。
そしてベッドに上って旭の前で立ち止まり、ため息を吐きながら正座する。
「……佐々木が俺のセカンド専属メイドになったってのは本当か?」
俺が訊ねると、旭は一度瞬きしてコクリと頷いた。
「何故そうなった?経緯は?」
「それは彼女がホームレスになってしまったからです」
「…………」
あまりの衝撃発言に思考が停止する。が――
「……アベェッシ!?」
旭に右頬を叩かれ、即座に強制再起動した。
「て、めぇ……何しやがるっ!?」
目に涙を溜め、右手で右頬を押さえながら旭に凄む。
だがどうやら格好が付いていないらしい。
無表情のまま俺の目を見つめるだけだった。
――クソッ、この冷血女がっ!!
心の中で罵倒した後、自らの後頭部に右手を回し、髪の毛をボリボリと引っ掻く。
数秒続けていると、少しだけ心が落ち着いた。
なので最後に怒りの感情を吹き飛ばすべく、短くため息を吐き、両手で自分の両頬を叩く。
そして両手を下ろし、顔を上げて視線を旭の方へ。
「……で、どうしてホームレスになったんだ?佐々木の親父さんの会社は倒産してないと思うのだが?」
「秋好様、ここは『佐々木のお父さんの会社は倒産してないと思うのだが?』と言った方がユーモラスでイかしていますよ?」
右手の人差し指を立ててアドバイスする旭。
その手を無言のまま左手で叩き落とし、彼女を睨み付ける。
「真・面・目・に・は・な・せ!」
「かしこまりました」
そして旭は小さく頭を下げた後、説明を開始するのであった。
「佐々木未来……彼女がセカンド専属メイドとなった経緯はこうです。話は昨日に遡るのですが――」
旭の話が長くなり過ぎたのでなるべく省略して説明すると、まず、昨日の午後ぐらいに佐々木家で家族会議があったらしい。内容は遺産相続について。
集まったのは、佐々木未来。
病院で会った時俺が違和感を覚えたあの未来の叔母。
祖父母の四人の計六人。
これで明史氏の家族は全てだ。
最初は穏和に進んでいた会議。
だが財産分与の話になった瞬間、修羅場へと変化したらしい。
理由は、何故か財産は全て未来の叔母が貰う事になっていたからだ。
何故そんな事になっていたのか?
それは叔母がそうなるように仕組んだから。
詳細に話すとこちらも長くなるから略させてもらうが、どうやら叔母は、明史氏が入院している時、みんなに隠れて明史氏に遺書を書かせたらしい。
その内容は言わずもがなで、叔母はその遺書を明史氏が死ぬまで隠し持っていた。
で、明史氏が無くなった後、筆跡鑑定済みのそれをみんなの前に出し、彼女は勝ち誇った。
だが当然の如く他の親族が納得するわけもなく修羅場が始まった。
未来はそうなった時点で財産の受け取りを諦めて会議を抜けた。
修羅場に巻き込まれるのが嫌だったからというのもあるが、理由は佐々木が明史氏の本当の娘じゃなかったからだ。
さらっと説明されただけから詳しくは言えないが、どうやら佐々木は明史氏の養子だったようだ。
それは佐々木自身も分かっていた。
なので彼女は修羅場になった時点で、自分には遺産を受け取る権利が無いと責められるだろうと判断し、会議を抜けたというわけだ。
そして行き場を失った佐々木は『そうだ!春日野君の奴隷になったんだからあそこへ行けば良いじゃない!』と思い、俺の屋敷を訪れ、旭と交渉し、結果としてここでセカンド専属メイドとして住む事となった。
まあ、旭の説明内容は大体そんな感じだった。
「お前はそれで良かったのか?」
『遺産を諦めて良かったのか?』という意味で訊ねる。
すると佐々木は困ったように眉を撓ませて微笑した。
「良いんです」
「どうしてだ?結構な額が手に入るんだぞ?それにあの会社はお前の親父さんが一生懸命経営してきたものだろ?」
「そんなのどうでも良いんです。だって……」
そこまで言うと、佐々木はこちらへゆっくりと近付き、眼前で止まった。
そして俺の背中に両手を回すと――
「ちょっ、一体何を……っ!?」
そのまま俺にキスをした。
――な、何だ!?こいつ何でいきなり!?てかこいつは俺に好意を寄せていないはずなのだが!?
そして酸欠で苦しくなってきたところで佐々木は「ぷはぁっ!」と息を吸いながら俺から離れると、右目を閉じながら言うのであった。
「ここに未来の旦那様がいるんだもの……お金と幸せ、どちらかを選べと言われたら私は後者を選ぶ。だからちゃんと私を幸せにしてね、春日野君♪」
期待の言葉を口にした佐々木。
その表情は今まで見た中で一番生き生きとしていて、それでいて妖艶だったため、不覚にも俺はときめいた。
だがそれを気取られるのは恥ずかしいので、浅く息を吐いて気を落ち着けると、フッと笑い、仕方ないなと言わんばかりの表情でこう言う。
「そっか、じゃあ幸せに出来るように努力しないといけないな!」
「うん、努力してね!」
「あっ、でも嫁にするつもりは今のところないから。それだけは覚えておいてくれ」
「それってただのキープじゃない!」
「そのとおりっ!」
「キィ~!!」
佐々木はポケットからハンカチを取り出すと、悔しそうにそれを咥えた。
そして咥えたまま言う。
「童貞顔のくせにぃ~!!」
「ちょっ!?」
佐々木未来がセカンド専属メイド兼性奴隷として俺の屋敷に住む事となった。
これが原因でこの先どんな生活になるのかは分からない。
けれどこれまで以上に大変な事になるのだけは分かっている。
嫁候補となりうる女性と同じ屋敷に住む。
しかもセカンド専属メイドとして。
男なら色々期待して嬉々とするその状況だが俺にとってそれは災難でしかない。
何せ高校卒業までに運命の相手を決めないといけないのだから……
『だったら佐々木未来をその相手にすれば良くね?』
そう思う人も中にはいるだろうが考えてみて欲しい。
相手の事を十分に理解していない状態で簡単に決めてしまうのは相手にとって失礼ではないだろうか。
それに後々になって相手を傷付ける事になったら本末転倒である。
もし佐々木がそうなってしまったらと思うと気が気じゃない。
俺が災難でしかないと言ったのはつまりそういう事である。
とはいえ、この先どうなるかはまだ誰もわからないこと。
だから今は何も考えないでおく。
代わりに佐々木と真摯に向き合う事だけは忘れないようにしよう。
それが彼女の将来の幸せに繋がると信じて――




