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い静寂の刃――闇に潜むもの



 新たに発見されたダンジョンは、地図にすら名前がなかった。


 王都から北、旧街道を外れた岩山の裂け目。

 人工物の痕跡は明らかだが、様式が一致しない。

 古代魔法文明――だが、どの系譜にも属さない。


「……嫌な感じがする」


 マリーは剣を握り直した。


『同意。魔力反応が薄すぎる』


 それが、逆に異常だった。


 背後では、ルシアンが珍しく黙って歩いている。

 セリアは一言も発さず、周囲を警戒していた。


『警告。音響反射が不自然だ』


 フルプレートの声が低く響く。


「罠?」


『否。吸われている』


 音が、消えていた。


 足音、装備の擦れる音、呼吸。

 すべてが、闇に溶けていく。


 探索は慎重に進められた。

 だが、戦闘は起きなかった。


 ――その夜までは。


 野営地。

 焚き火は最小限。

 交代で見張りを立てていた。


 マリーが瞬間的に違和感を覚えたのは、

 音が戻った時だった。


「……?」


 次の瞬間。


 ――衝撃。


 視界が回転し、地面が迫る。


「ぐっ……!」


『被弾! 方向、特定不能!』


 マリーは転がりながら立ち上がる。

 そこには、何もいない。


「姿が見えない!」


 セリアが剣を抜く。


『索敵、失敗』


「そんな馬鹿な」


 ルシアンが一歩踏み出した、その時。


 ぴしっ


 何かが、彼の肩を裂いた。


「……っ!」


 音がない。

 衝撃だけが遅れて来る。


『これは……』


 ビキニアーマーの声が、硬くなる。


『インテリジェント・アーマーだ。

 隠密特化型』


 闇が、動いた。


 否、動いたように見えただけだ。


 マリーが剣を振る。

 手応えはない。


「当たらない……!」


『予測不能。敵は“存在を消している”』


 次の瞬間、セリアの盾が弾かれた。


「くっ……!」


 火花すら、音を立てずに散る。


『攻撃角度、毎回違う。

 意思ではなく、演算で動いている』


 空気が、裂ける。


 マリーの背後。

 反射的に身を伏せる。


 何かが通過した。


 地面に、深い切り痕。


「……これ、真正面からは無理よ」


『同意』


 ルシアンが息を整える。


「美しくない……

 だが、厄介だ」


 彼が仮面に手を伸ばした瞬間――


「やめろ!」


 マリーが叫んだ。


「位置が分からない今、派手に動いたら終わる!」


 沈黙。


 闇が、圧力を持って迫る。


『敵、こちらの反応を学習している』


「時間をかければ、不利になる」


 マリーは歯を食いしばった。


 勝機が、見えない。


 攻撃しても当たらない。

 防御しても方向が読めない。

 撤退しようにも、追撃される。


 ――完璧な殺し場。


 その時。


 気配が、止まった。


 誰も動かない。

 呼吸すら、意識的に抑える。


 数秒。

 十秒。


 そして――


『……敵、距離を取った』


「逃げた?」


『否。待っている』


 闇の中で、何かが確かに存在している。


 マリーは剣を構えたまま、低く言った。


「……これ、長引くわ」


 誰も否定しなかった。


 焚き火は、いつの間にか消えていた。

 夜は、まだ深い。


 そして、

 見えない敵は、そこにいる。


 膠着は破られない。

 ただ、静かに――

 命を削る時間だけが、流れていく。

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