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残響のプレリュード  作者: erg
第1部

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22/82

第1部 間奏曲 第17.4項

 六月。


 かつて軍都と呼ばれたこの街には、英霊を祀る神社ある。

 慰霊を目的に始められた音楽大行進は、今は初夏を彩る風物詩だ。

 抜けるような青空の下、音楽大行進の始点となるスポーツ公園には、色とりどりのユニフォームが集まっていた。


 「小鳥遊、緊張してるか?」


 サックスパートの先輩から声がかかる。


 「……少しだけ。でも、大丈夫です」


 私はバリトンサックスの重みを肩に感じながら、そっと視線をずらした。

 そこには、いつもと変わらない、少し不機嫌そうな顔をした拓海先輩がいた。スネアドラムを抱え、スティックの感触を確かめるその指先。


 「全団体、整列!」


 開会の合図と共に、50を超えるチームが一斉にブレスする。

 指揮者の腕が上がった瞬間、街の空に行進曲『若人の心』が鳴り響いた。

 私の隣で鳴るルナのテナー、そして後方から全体を支配するように響く、拓海先輩のスネアの刻み。


 (ああ、始まったんだ)


 私たち工業高校と商業高校の合同チームはスポーツ公園を背にして歩き出す。

 かつて軍楽隊のラッパが鳴り、音楽を愛する先人たちが繋いできたこの道を、『ライディーン』を響かせながら整然と行進する。


 シンボルの橋に差し掛かると、川を渡る風が楽器のベルを冷やした。

 拓海先輩の叩くリズムが、私の足首に心地よく響く。

 先輩の音は、迷わない。


 中央買物公園。

 それまで車道を通っていた私たちは、歩行者天国へと歩みを進める。

 その瞬間、世界が変わった。

 観客との距離が一気に縮まる。歩道の石畳から伝わる熱気。小さな子供たちが目を輝かせ、お年寄りが拍手を送ってくれる。

 さっきまで「自分のために」吹いていた音が、街の空気と混ざり合い、「誰かのための音」に変わっていく。

 ふと、拓海先輩の表情を見た。

 相変わらずの無愛想な横顔。けれど、その瞳はしっかりと、沿道で笑う人たちの顔を見据えていた。

 でも今、この人の叩く音が、沿道の笑顔を生んでいる。

 駅前までのラストスパート。

 ただ、この街で今、一緒に生きている若者たちの鼓動があるだけ。

 東駅に到着し、最後の一音を吹き抜いたとき。

 私たちの顔には、きっと同じ色が浮かんでいたはずだ。


 やり切った。


 この街の、百年の歴史の一部になれた。

 六月の西日は、少しだけ暑くて。

 けれど、私たちの行く先を、どこまでも明るく照らしていた。

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