第八十三話 なんで説明しないんだ?
「メクル・スズクが結界外へ転送されたのを確認した! よって勝者はフェレライ・ローラル!」
ゴルキ先生のそう宣言すると、結界の中にいたフェレライさんも結界の外に転送される。
「よし、それでは講評を行うから二人とも…「「「すげぇぇぇ!」」」
そしてゴルキ先生がフェレライさんとメクルを自分の所に呼ぼうとした瞬間、ライアやドリアド達がかなりの勢いで結界の外に転送されたばかりのフェレライさんの所へ駆け寄って行った。
「すごいよフェレライさん! あのメクル君に勝っちゃうなんてさ!」
「ああ、本当にその通りだ! 俺もよく分からんがメクルは『ゼンゾクテキセイ』と『フクホウカクジャ』……? という珍しい物を二つも持った強者なんだぞ! そのメクルを倒してしまうなどな!」
「ははっ、すげぇ! こりゃ普通にSクラスに入れるぐらいの強さだろ!」
「あ、ああ……ありがとう」
みんなのそのあまりの勢いに、フェレライさんは少し戸惑いながらも嬉しそうな反応を見せていた。
まあ、最初にあれだけ盛り上がったとはいえそれでも転校してきてまだ全然時間が経ってないからな。あんな様子をしててもクラス馴染めるのか不安だったんだと思う。
……ただアイツら、テンションが上がるのは分かるけどいくら何でも上り過ぎだろ。何人かはもはや先生達すら押しのけてフェレライさんに駆け寄ってるじゃん。ゴルキ先生の顔を見てみろ、滅多に戸惑わないあの人が珍しく戸惑ってるじゃん。
それにどうでもいいけどドリアドの奴はまだ『全属適正』と『複法覚者』の事覚えてなかったのかよ、お前はいい加減覚えろよ。
「いや〜、本当にすげぇな。まさかあのメクルに勝っちまうなんて」
みんなが集まっている方を見ながら、俺の隣に残っていたソウは言葉をこぼした。
「あれ、ソウも駆け寄って行かないのか?」
そんなソウに、俺は意外そうに聞く。
「いや〜、純粋に乗り遅れたんだよ。そういうお前こそ珍しいな、いつもならこういう時に一番テンションあがってたろ」
「へへっ、実は俺も驚き過ぎてて乗り遅れちゃったんだよ。テヘペロ☆!」
そう言って俺は片目を閉じ、右手で頭をコツンと叩きながら口から少し舌を覗かせた。
「……ナツ、二度とそれをやらないでくれ。本当に殺意が湧いてくるから」
「思ってた以上に辛辣な言葉が来た!」
ツッコミが来る事は分かってたけどまさかそこまで言われるとは思ってなかった。えっ、今の俺そんなに気持ち悪かった?
「ああ、いや悪い。そこまで正直に言うつもりは無かった。ただ今はどうしてもフェレライさんの事が気になってな」
そう言いながら、ソウは再びフェレライさんの方を真剣な表情で見つめた。
まあ皆のテンションに乗り遅れたとはいえ、そりゃソウもフェレライさんの事は気になるよな。正直俺でもフェレライさんが最後に何をやったのかまったく分からなかったし。
ただ、気付いて無いんだと思うけど今の全然フォローになって無いぞ。むしろ受ける俺のダメージが増えただけなんだけど。
「それにしても最後はどうやってメクル君を倒したの!? フェレライさん防御魔法を使ってたよね!?」
ソウと同じ様に俺もフェレライさん達の方に耳を傾けてみると、ちょうどライアが俺の気になってる事を聞いている所だった。
「ああ、それは防御魔法でメクル君の魔法を防いだ後に土埃に紛れて攻撃魔法を撃ったんだよ」
ライアの質問に対してフェレライさんは
しながら答えた。
まあ、たしかにそうとしか考えられない。ただ、そうなると一つ分からない問題が起きて来るんだ……。
「え、でもそれっておかしくないですか?」
「ん? 何がだい?」
俺と同じように疑問に思う事があったサイエスがフェレライさんに聞き始める。
「恐らくですけど、フェレライさんの適正属性は土魔法ですよね?」
「うん、そうだよ」
「土魔法と言えば速度と隠密性がすべての属性の中で最弱の属性です。つまり、あの様な敵の不意を突く攻撃にもっとも向かない属性の筈なんですよ。いくら土埃に紛れていたとはいえ、そんな属性の魔法を使ってメクル君を倒せるとは思えないんですが……」
「ああ、そういう事ね。それなら簡単な話だよ、僕は最後メクル君に攻撃する時に雷魔法を使ったんだ」
「え、雷魔法を? でもそれってフェレライさんの……」
サイエスさんの疑問に納得が行ったフェレライさんは簡単に概要を説明して、その返答にサイエスさんは少し首を傾げた。
「うん、適正魔法じゃ無いよ。だから僕の撃った雷魔法は威力も速度も本来の物より格段に落ちてた。ただ、それでも意識外からメクル君を倒すには十分な威力だったんだよ。別に適正魔法じゃないってだけで、雷魔法が一切使えないって訳じゃ無かったしね」
「な、なるほど……! たしかに適正魔法は威力などが上がるだけで、決して他の属性が使えなくなる訳ではありませんでしたね、盲点でした……!!」
フェレライさんの説明にサイエスさんは手を顎にやりながら、新たな発見に少し興奮した様に納得した。
たしかにサイエスさんの言う通り適正魔法っていうのはその属性を撃つときの威力や速度、そして質が他の属性に比べて上がるだけで別にそれ以外の魔法を使えなくなる訳じゃない。だからフェレライさんが雷魔法を使ってメクルを倒したっていうのは納得出来る。
ただ、足りてない。フェレライさんの今の説明には圧倒的に足りてない部分があるんだ。
攻撃の隠密性からして、フェレライさんが雷魔法か風魔法のどちらかを使ったんだろうっていうのは俺も分かってた。ただ問題は、俺でもその攻撃魔法を認識出来なかったっていう点だ。
この際だから言っちゃうけど、俺の身体能力は普通の人に比べて尋常じゃなく高い。だから、たとえどんな見えにくい状態で撃たれた魔法であっても、その魔法によって起こった周りの僅かな変化とかから絶対に気付けるっていう自信があるんだ。
なのに今回、俺はフェレライさんの攻撃魔法にまったく気付けなかった。
たしかに土埃によって結界の中の様子は見づらかった。けど、それでも攻撃魔法を撃ったんだからその土埃にも多少は変化があった筈なんだ。
でもその土埃は一切変化しなかった。ていう事は十中八九フェレライさんが何かやったって事になるんだ。それなのに何でフェレライさんはその事について説明しないんだ?
「よ〜し、そんじゃあそろそろさっきの試合の講評をやってくぞ〜」
俺が心の中で自分の持った疑問について考えていると、みんながある程度落ち着いたのを見計らったオーズスタン先生が講評に移ろうとする。
「まずはナツ、お前から言っていけ」
そして、今までの講評の順番を無視していきなり俺から行けと言ってきた。
「えっ、俺からですか!? さっきまで先生からでしたよね?」
「何言ってんだ? いつも俺からだと変わり映えがなくてつまらないだろ」
「ええ、そんな急な……」
そんな当然だろみたいな感じで言われても困るんですけど……。まあ、そこまで問題がある訳じゃないしやるけどさ。
……とりあえずフェレライさんの攻撃についてそこまで確信材料がある訳じゃないから、一旦その事は置いといて別の事を話しといた方がいいな。
「……まあ、俺が模擬戦中に一番思ったのはフェレライさんの戦い方がかなり面白いって事だな」
「面白い? それってどういう事ですか?」
俺の言葉に対して、いつの間にか隣に立っていたクララさんが聞いてくる。
「クララさん、さっきの二人の試合を見てまずどんな事を思った?」
「えっ、それは……メクル君がずっと有利だったなあって」
「まあ、メクルがずっと攻撃してたしそう思うのは普通だよな。ただ、もしその状況がフェレライさんの狙いだったらどうする?」
「え、それって……?」
クララさんはピンと来てないのか、キョトンとした顔をしながら首を傾げた。
「たしかに、さっきの試合でのメクルの攻撃は凄かったな。あいつが大会の後からどれだけ自主練習を重ねていたのか簡単に想像できるぐらいだ」
「えへへ、照れるのであるよ」
俺に突然褒められたことに、メクルは頭を掻きながら照れた。
「ただ忘れちゃいけないのが、大会から練習を重ねて自分の持ってる特性を数段も上手く使いこなせる様になったそのメクルの攻撃を、フェレライさんは綺麗に防ぎ続けたっていう事だ。あれだけの攻撃を受けてんだ、本来ならすぐにやられるのが普通な筈だ。それなのにフェレライさんはそんな攻撃を一切喰らわなかった、この事からフェレライさんの防御力の高さは尋常じゃないって事が分かるよな」
「た、たしかに……」
「言われてみればそうだな……」
俺の説明に、クラスメイトのみんなはさっきの試合の事を思い返しながら納得した表情を見せた。
そんなみんなの様子を確認しながら俺は続ける。
「そして最後、攻撃を防がれ続けて痺れを切らしたメクルは大きな隙の出来る最大威力の魔法を撃っちまい、その大きな隙を狙ってフェレライさんはメクルに攻撃して見事メクルを倒して見せたんだ」
「じゃあナツが面白いと思ったフェレライさんの戦い方ってのは……」
確認する様に言ったソウの方を見ながら俺は自分の結論を口にする。
「ああ……つまり俺の予想だと、フェレライさんは持ち前の防御力を使ってメクルの攻撃を防ぎ続けて、その先に出来るだろう大きな隙ををずっと狙ってたんだと思うんだけど……どう、フェレライさん。俺の言ってる事はあってる?」
「うん、さすがはリンドウ君だね。なにもかも正解だよ」
「そっか、それならよかったよ」
正直自分の予想にはかなり自信を持ってたけど、それでも間違ってた場合はフェレライさんに失礼に当っちゃうからな、合っててよかったよ。
「なんかさ、ナツっていつもはふざけた奴なのにこういう時だけはすげぇ真面目だよな。やっぱ変だろ」
「うむ、まったく同感なのである」
そして説明を終えた俺を見て、少し遠くにいたソウとメクルが俺に聞こえない様にするためか小声で話し始めた。
……お前ら、言っとくけどこの距離でも十分聞こえてるからな?




