第八十四話 はぁ、対処しきれねぇって……
竜胆達が転校生であるフェレライ・ローラルの実力に驚いていた頃。『黙示録のラップ吹き』の団員でありながらリークレッド王国の国王にもなっていたダグラス・グルは城の中にある自分の執務室で、同じく『黙示録のラッパ吹き』の団員であるメリア・グレイシアの弟子のギンラからとある報告を受けていた。
「以上が、ここ数日で自分が掴んだ情報になりますね」
「……そうか、ありがとう」
ギンラの報告を一通り聞いたダグラスは腕を頭の後ろに回しながら背もたれに寄り掛かった。
「……どう、思いますかね?」
「……今の情報についてか?」
「はいっす」
確認を取るように聞くギンラの問いに、ダグラスは少し頭の中で情報を整理してから答え始める。
「……正直、なんとも言えねえかなぁ。何か判断を下すには情報が少なすぎる……」
「やっぱそうっすよね」
「ああ、それに加えてあの魔王陣営は七人いた魔王の中でも一番分からなかった奴等だからな。今回の行動も俺たちに対する敵対なのかそうじゃないのか判断が付かねぇ。……はあ、ここ2年ぐらいは結構静かだったのに何でこんな立て続けに問題が起きるんだよ。しかも二つともかなり大きいやつだし……」
ギンラが先程ダグラスにした報告、それは先日ダグラスやメリアなど多数の『黙示録のラッパ吹き』関係者が集まっていた時にされた報告の続きだった。
あの時メリアやメイゲル達にも情報を伝えた後にある程度の情報を集めたギンラは再びダグラスの元に報告に来ていたのだ。
「やっぱりそうっすよね、情報を必死に集めようとはしたんですけどそれが中々難航して……」
「やっぱりって……お前情報が足りないって分かった上で報告に来てたのか?」
ギンラの思わぬ言葉に驚いたダグラスは、反射的に背もたれに寄り掛かっていた自分の体を起こした。
「ええ、そもそも自分がここに来たのは別の報告をする為っすから」
「別の……?」
「先日自分がしたもう一つの報告についてです」
「……ああ、というとあれか。イリーネ・ユグドラシルの母親についてだったか」
思い出す様に言ったダグラスに軽く頷いてからギンラは続ける。
「はい、この報告はいち早くしておいた方がいいと思ったんで」
「そうか、続けてくれ」
「はい、私が持ってきたのはイリーネ・ユグドラシルの母親の母国である『教皇国ルキアス』の教皇の動きについての情報です」
「教皇が……?」
『教皇』という言葉にダグラスは少し眉を動かした。このタイミングでその言葉が出て来た事に少なからず悪い予感を覚えたのだ。
「……近々、『ラーンベルト学園』で大会が催されるのは知ってますか?」
「あ、ああ……たしか今度のは個人戦だったよな」
悪い予感のせいか言葉が途切れ途切れになっているダグラスの様子を確認しながらギンラは続ける。
「はい、ただ今回重要なのは大会その物じゃ無いんっす。クラス対抗戦の時は基本的に一般客の人がメインだったんで学園からの招待客はいなかったんっすけど、この大会では各国に『ラーンベルト学園』の魔法師のレベルを外にアピールする為に様々な国から人を招待しているんっすよ。そこで招待する人は今まで同じような国の人達ばかりだったんで今年もそのままだったらよかったんっすけど……」
「ああ…………」
ギンラの報告の内容がどんどん自分の嫌な予感に近付いている事に一抹の不安を覚えながら、ダグラスは静かに耳を傾ける。
「……実は今回、新たな国から招待された人がいるんっすよ」
「…………えっ、おい。それってまさか……!」
「はい……お察しの通り『教皇国ルキアス』の教皇、チャールズ・カタロフです」
「……くそっ、マジかよ!」
自分の嫌な予感が当たってしまい驚きと共に苛立ちを覚えたダグラスは右手で目の前にある執務机を大きく叩いた。
チャールズ・カタロフ教皇が『ラーンベルト学園』に訪れる、それは今のダグラスがもっとも起きて欲しくない出来事の一つだった。その理由はいくつかあるが、最大の理由は何と言っても彼が所属している『黙示録のラッパ吹き』の団長、竜胆夏についてだ。
ダグラスを含めた『黙示録のラッパ吹き』の団員たちは彼等にとって大切な存在である筈の竜胆夏の記憶を一度……いや、二度消してしまっている。そんな行動を取る事になった最大の原因の一つはチャールズ・カタロフにあるのだ。
つまり、記憶の消去に深く関わっているチャールズが竜胆夏と接触してしまうと、彼がもう一度記憶を取り戻してしまう可能性があるという事になる。
しかも記憶を消す唯一の手段であるメリアの固有魔術はあと一回しか使えない。そんな中、記憶を消したばかりの彼に元凶の一つであるチャールズが近付くのは非常にマズイのである。
「……い、いやでも! そもそも何で『ラーンベルト学園』がアイツを招待すんだ!? 今の学園長はレグリアのはずだろ!」
「……すみません、それについてはまだ確認が取れてない状況っす。この情報を得て真っ先にここに来たもんですから……」
「……そ、それにチャールズ・カタロフって言えばほとんど国から出ない事で有名だったじゃねえか! そんな奴がわざわざ学園から招待されたからって国を出るとは考えられねえぞ! その情報がデマって可能性は無えか!?」
「はい……今まで彼が外国に赴いたのは数えるほどしか記録されて無かったので自分もその可能性は疑ったんっすけど、今回『ラーンベルト学園』に行く事に関してはすでに全国民に伝えているそうなのでデマの可能性はほとんど無いっす」
もしかしたら情報がデマなのかもしれない、そんな淡い希望も消えてしまったダグラスはため息を吐きながら後ろにあった自分の椅子に倒れる様に座った。
「はあぁあ、何で今なんだよ。今はあの人が不安定だからなるべくそういう要素は遠ざけたかったのによ……!」
「レグリアに言って招待を取り消しにしてもらっていうのは……」
「……馬鹿言え、ルキアス教は世界中の人間が信仰してる世界宗教だ。そんな所の教皇の招待を取り消しなんてしたらどうなるか分かったもんじゃねぇぞ……!」
ルキアス教とは今世界でもっとも信仰されている宗教である。そのトップである教皇をわざわざ招待しておきながら勝手に取り消してしまったら、世界中の人々から反発を招きかねないのである。
その事を理解できていたダグラスはギンラの意見を一蹴した。
「っすよね……」
「はあぁぁ、なんでこんな立て続けに問題が起き続けるんだよ。対処しきれねえって……」
部屋中に鳴り響いたダグラスの深い深いため息は、彼の困り具合をかなり鮮明に表していた。




