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エピローグ

「少し見直しました、編集長。『腐っても鯛』とはこのことですね」


 帰りの新幹線、東京行き。

 田中さんからどっさりともらったワサビ漬けと鰻弁当の入った紙袋を抱えながら、猫田が云った。


「腐っても――は余計だよ。猫田君」


 はっはっは――

 堂部は、満更まんざらでもない様子だ。


「ねえ、犬山さん。犬山さんも編集長のこと見直したでしょう?」


 ふがっ、ぶふっ……ふんがっ


 犬山が、いつかのデジャブ―のように、盛大ないびきで、猫田の問いに答える。

 静岡駅を出発して、たった五分。三つ並んだ席の通路側に座る犬山は、既に深い眠りに落ちていた。

 猫田が肩をすくめ、溜息をつく。


「……。まったく、これだからウチの会社は――」

「まあまあ、猫田君。寝かせておいてやれよ。今日は、コイツもいっぱい走ったんだからさ」

 窓側席の堂部が、彼を暖かい目で見守る。


「それにしても、皮肉だな。可愛がる気持ちが強過ぎたが故に大好きなものばかり与え、それが原因で病気になってしまったのだから――」


 窓ガラスに映る堂部の表情は、硬かった。


「まあ、何事も過ぎたるは及ばざるが如しだよ。なあ、猫田君、仕事も適当に手を抜かなきゃ、ダメってことだね」

 堂部がにやつきながら、猫田を振り返る。

「はあ? それとこれは別です。明日から、バリバリ働きますからね! 来月号の締め切りなんて、またすぐに来るんですから!」

「そ、そんなあ……」 堂部が、がっくりとうな垂れる。

 犬山は、悪い夢でも見ているのか、歪んだ表情でうなされ始めた。


「でも、とにかく今日はお疲れ様でした、編集長。あ、そうだ、お弁当でも食べましょうよ。田中さんから、折角いただいたことですし」


 猫田が鰻弁当の包みを、その処凛な小顔でできた笑顔と透き通るような白い腕とともに、堂部に差し出した。


「そ、そうだね……ありがとう」


 頬を若干赤らめ、堂部が弁当を受けとった。もちろん、彼の顔の表面にそんな現象が起きていることは、猫田は気付いていない。


(その笑顔で、明日も頑張れる――)


 そんな風に堂部が考えていることも、そして、弁当の匂いを嗅ぎつけて犬山が跳び起きるのが時間の問題であることも、そのときの猫田は知る由もなかった。


 〈終〉

ライトミステリともいえないかも……

お読みいただき、ありがとうございました!

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