第79話 ダブルストーナメント決勝 後編
スーパーアイドル 小鳥遊奏。
『アース』における超トップアイドルで、その歌声と美しさには誰もが魅了されるという。
かなりトップクラスの能力者でもあり、彼女の歌声を聞いた心の弱い人は、魅了されてしまうのだとも。
『アナザーワールド』では、その力が『ネーム・分類に関わらずコンタクト可能』という形で表現されている。
彼女に誘われたら、力のないキャラクターは魅了されてアイドルになってしまうのだという。
男性女性、ネーム関係なし。
考えれば相当に怖い能力だ。
「うっそ! シエロがアイドルになった!」
「止めてください。そういう言い方。でも、そうか……」
主力の、しかもパートナーであるシエロを奪われた店長さんは深い息を吐きだす。
「今のは完全な僕のミスだ。フォルティオスを倒すのに執着しすぎて、君を甘く見ていた。
感服したよ。まさか、そう来るとは」
悔しさ四割、反省三割、賞賛三割、というところだろうか?
「お二人には一色澄香の効果が薄いのは解っていましたから」
最終局面でのデッキ変更は、そういう意味があったのか。
手札もパワーも全て使い切っていた店長さんには、シエロさんの転職を止める術がない。
さらに雄太は、今まで動けなかった鬱憤を晴らすように動き始める。
「ドローキャラに『IPフォン』をセット。小鳥遊奏にパワーをセットして攻撃します。対象は店長」
「これは、受けるしかないか」
店長さんは二回の攻撃を本体で受ける。
スーパーアイドルだけあって高めの能力。あっという間にデッキは削られ、ダメージも溜まっていく。もう八点を超えている。
さらに軽いコンタクトを増やし、補給線を固める雄太。
怖いくらいの盤石の構えだ。
「メイン終了します」
パワーフェイズ。
小鳥遊さんは維持にコストがかかるという意味があってか、ターン終了時に自分にパワーがフルに刺さっていないと許さないキャラで、足りない時には強制的に手札からパワーを持っていく。
可能な限りチャージで力を与え、手札に二枚を残して雄太はターンを終えた。
そして、店長さんのターン。
小鳥遊さんの攻撃で出たキャラクターからのアグレッシブ攻撃で、ダメージは増えて十。
しかも、パワーが0なので何もできない。
キャラクターに手札と場にわずかに残ったチャージキャラで、新しいキャラクターを仲間にして終了。手札は一枚。
そして、私のターン。
「心配するな。おもいっきりやれ」
「ありがと」
雄太の励ましに、私は慎重に、パワーカードの支払いどころを考えながら動く。
現時点でのエーヘルシトのキャラクターは三体。
パワーカードは二枚持っているキャラクターが一体と、一枚ずつのキャラクターが二体。
青のキャラクター二体には、それぞれ一枚ずつ。
「『イースターの夜』を使用します。対象はダメージ置き場のフォルティオス!」
店長さんの手札に残った一枚が、また『マッシドアロー』の可能性がある。
だから、ファクター不足でスペルが不発にならないように、ソルシアのキャラクターからはパワーを取らない。
『イースターの夜』は、最初に雄太がデッキを作ってくれた時に入れてくれた、ソルシアの死者復活カード。
支払ったコスト分、出現したキャラクターのパワーに乗るという、これも結構チートなスペル。
だから、二枚パワーが入っているドローキャラクターを素体に使えば、出てきた時からフォルティオスは四枚のパワーを持って戦うことができる。
心配なのは、マヤヤさんの三枚目の『魔切り術』だけれど……流石にここでその流れは……。
「ええい! とっておきの『魔切り術』!」
あったか。財力のあるガチ勢って怖いなあ。
『イースターの夜』は不発。
フォルティオスの復活は叶わなかった。
でも、ある意味、これはおとりなのだ。
「では、コンタクト。堕天使オクルス。さらに上段に」
「ええっ!」
フォルティオスが落ちたことを察してか、今、手札にオクルス君が来てくれた。
下段と一緒に場に出たのは、ねこちゃんが貸してくれたパートナーカードのVFオクルス。
さっき、フォルティオスを呼び出せずに失敗した、パワーの付いているキャラクターにオクルス君を乗せれば、一回攻撃が可能だ。
「店長さんに向けて、アタック宣言します」
「受けるよ」
オクルス君は、パワー0のキャラクターにガードされない。
店長さんの場はパワー一のキャラクターしかいないので、カードを支払ってガード宣言するとパワーが0になりオクルス君をガードできない。
そこに、
「レスポンスで対象オクルスに『ダブルフュージョン』こちらの手札のスーパーアイドルの攻撃力と能力が加算されます」
「え?」
雄太が援護射撃をくれた。
これは完全に知らされていなかったサプライズだ。
『ダブルフュージョン』は一種の合体能力。
軽めのキャラクターの戦闘力を補うためのものなのかな。手札に持っているキャラクターの能力を、任意の一人のキャラクターと共有させるらしい。
結果、オクルス君の戦闘力は小鳥遊さんの攻撃力が加算されて、ほぼ倍になる。
まさか、これまで『魔切り術』してくるなんて無いよね? 無いと言ってお願い!
流石に四枚目は無かったようで、『ダブルフュージョン』は通り、一回の攻撃で攻撃力は実質倍。
元の十点にさらに七点が加算された。マヤヤさんの場にも既にダメージが二あったから、ここでダメージ十五点を超える。
「勝者! スターダスト!!!」
「やった! やったよ! 雄太! 優勝!」
「ああ。やったな」
ジャッジの宣言に、私は思わず飛び上がってしまう。
雄太も勝利を噛み締めるように微笑んでいた。
「ダブルストーナメント、優勝 『スターダスト』!」
周囲で見ていた観客、係員、そして私達の前の店長さんとマヤヤさんも、優しい笑顔で拍手してくれる。
私達は、こうして、世界大会。
チャンピオンカーニバルへの切符を手に入れた。
自分達の。
ううん。みんなの力で。




