第29話 七人目の足音
京王線地下改札の手前で、莉奈たちは山岸と小保内を見つけた。
正確に言えば、見つけたのではなく──山岸の方が先にこちらを検知していた。
「莉奈ちゃん! やっと来たか!」
廊下の角から金属バットを担いだ大学生が現れた時、莉奈は自分でも驚くほどホッとした。
「遅い。アンタたちの方が先に合流するかと思ってたのに」
「悪い悪い。こっちは先輩の【ハイディング】でモンスターを避けまくってたから、安全ルートが遠回りになったんだ」
山岸の背後から、いつも通り存在感の薄い小保内が姿を現した。いや、「現した」は正しくない。小保内は最初からそこにいた。莉奈の目が、無意識に彼女を素通りしていただけだ。
「小保内さん、それ──スキル使ってる?」
健一が訊くと、小保内は少し困ったように首を傾げた。
「常時発動みたいなんです。新宿に来てから、意識しないと解除できなくて」
ステータス画面を確認すると、小保内のクラス表示は相変わらず「草」だった。だが、スキル欄には二つの項目が明確に表示されていた。
【ハイディング】──自身および近接する味方の気配を希薄化する。
【バフ】──触れた対象の身体能力を一時的に強化する。
「草の者。忍者の別称。渋谷で引っかかってたの、これだったんですね」
健一が納得した顔で頷いた。
莉奈は小保内を見つめた。渋谷でモンスターに無視され続けた理由。山岸のバットが想定以上に効いていた理由。全部、この人のスキルだった。
「小保内さん。渋谷の時から、ずっと山岸を強化してたんですか」
「無自覚でしたけど。触れた後に身体能力が上がるって、新宿に来て初めてステータスに表示されたんです」
山岸が頭を掻いた。
「俺のバットが妙に効くなと思ってたら、先輩のバフだったんだな。道理で一人の時はしょぼかったわけだ」
梅田組の三人に、山岸と小保内を紹介した。
金子が「はじめまして!」と元気よく手を振り、大阪が「よろしく」と短く挨拶し、和田が「渋谷のお二人ですか」とにやりと笑った。
そして山岸が、全員の顔色を変える一言を口にした。
「俺のスキル、新宿に来て変わったんだ。【探索】が──【探知】に進化した」
【探知】。物がどこにあるかを探す【探索】から、空間がどうなっているかを把握する【探知】へ。壁の厚さ、床下の空洞、天井裏の配管、そしてモンスターの擬態ポイントまで、空間の「歪み」として検知できる。
「で、一つ報告がある」
山岸の声が硬くなった。
「この迷宮の一番深いところに、生命反応が二つある」
七人の空気が変わった。
「一つはデカい。渋谷のミノタウロスなんか比べものにならない。桁違いだ」
莉奈の指先が、無意識にポールを強く握った。
「もう一つは──人間サイズだ。デカいのすぐ傍にいる。心拍も人間のリズム。生きてる」
沈黙。
「化け物の隣に、人間がいるってこと?」
大阪が眉をひそめた。
「囚人か、人質かは分からん。でも、心拍は確かだ」
金子が小さく呟いた。
「助けなあかんやん、その人」
莉奈は七人を見回した。
渋谷では二人だった。途中で四人になった。
今は七人。
「行くわよ。下まで」
莉奈がポールを肩に担いで歩き出すと、六人が後に続いた。
莉奈が先頭。
金子が横。
健一が半歩後ろ。
大阪と和田が中衛。
山岸と小保内が後方。
七人の足音が、新宿の地下に反響していく。




