【外伝】魔女エルサ・フェルム⑤
第五話
水に指先を触れ魔法陣を展開。
A型、B型、C型?
そんなぬるいことやってるから、どいつも凡人なんだよ。
ーーー
ーーエルサは一度見ただけの魔法陣を完璧に展開できた。
正確にはその魔法陣に一度自身の魔力を這わせることで、その型をコピーと等しく記憶できるのだ。
森の魔女、ネシカに単独での勝機は薄いと踏んだ彼女は、かつてブルーシアの図書館でコピーした自身の意識のみを肉体から離脱させる魔法陣を展開する。
この魔法陣は地続きの二カ所に陣を同時展開させ、意識を「入り口」の陣から「出口」の陣に移動させることで成立する。
無論、意識が離れている最中は喪失状態に陥るので、本来ならば、単独時あるいは戦闘時には決して使えない魔法であった。エルサは専らこの魔法を、男の弱みを見ぎるために宿舎で使用するのみであった。しかし、それ故に、エルサの「得意」な魔法の一つでもあった。
ーーー
まずはここ。
もう一つはあの家の手前。
展開。
成立。
(成功。さて、まず銀髪の居場所は…。
ーー呑気に煙草吸ってやがる。
今のうちに書庫を探そう。
ーーどこだ。
ーーどこだ。
ーーどこだ。
ーー。
ーーここは、銀髪の寝室?)
『隠り世との狭間に残滓する魔の子に捧ぐ詩』
(これは……なんだ?
つまり死んだ魔女の魔力が狭間?を漂っていて、それを使役できるというわけか。
間違いない。
魔女殺しの規格外の破壊力はこれだ。
やっと見つけた。
ーーいただくよ。)
ーーー
ふぅ。
よかった、銀髪はまだ戻ってない。
「あんなもの見て満足かね?」
嘘だろ…。
いつの間に…そこに。
「私、何も…」
「あれは確かにお前の探していた書かもしれないね。でも、あれは私の意味でもある。娘。お前には無縁極まりない代物」
なんだと。
「そんな顔…。ひとつ教えておくよ、娘。あれは呪いそのものさね。地獄の門を数ミリだけ開き、また閉じる。溢れた呪いをここで浄化する。私はそのためにここで祈りを捧げているのさ。それを何万回と繰り返す。一端の魔女が背負うには、重すぎる。どうしてもあの書が欲しいのなら、最低百人の魔女を、死ぬつもりでここに連れきてきな」
あーうるさい。
もういいんだよ。
「…ごめんなさい。森の魔女様。そんな大業だとは知らずに…。それで、私は、どうなるのでしょうか」
「軍に連絡したからもう少しの辛抱さ。娘。その後のことは私の預かり知ることではないね」
これは痛いから、あんまりやりたくないんだけど。
「分かったよ。じゃあな、クソババア」
ーー魔法陣同時展開。
意識転送にB型を重ね物理介入。
肉体転送。
ーーー
森だ。
成功した。
森の魔女を出し抜いてやった!
車まで!
走れ!
早く!
ーーー
ーーエルサの表情は狂気と歓喜に歪んでいた。
ネシカは、力無く湖に手を浸し、魔力の分子を見つめる。
ミレイの影がよぎり、同じ頃の娘に手を下せなかったことを、そっと後悔した。




