野外演習
俺たちは野外演習のために、少し離れた森の中に来ていた。
俺たちというのは、ベイン、アレン、メイリ、ゼットの4人のことだ。あれからいろいろとありはしたが、結局この4人組で参加することになった。今は森の中でも開けた場所に、参加を希望した学生たちが集まっている。
野外演習の責任者と思われる年配の先生がみんなの前に立ち、挨拶をする。
「みなさん、今日は自由参加ということで、休日にも関わらずありがとうございます」
その後も、しばらく話が続いて、この野外演習の説明がなされた。
概要はこうだ、町の外れの森の中危険な猛獣たちが、畑などを荒らして回る時期なのでそれを見つけ次第駆除してほしいとのこと。実技演習と地域貢献を両立させたのがこの野外演習というわけだ。
それぞれのチームに番号が振り分けられ、それぞれ担当の道を決められる。
「それじゃ、さっそくいこうぜ」
ゼットが先頭を切って先導する。
その後ろにアレン、俺、メイリといった形だ。
道幅は広いが、左右は木々に囲まれていて森の中までは真っ暗で何も見えない。
それにしても、なぜ俺が主人公チームと一緒に行動することになっているんだ……。ゲームではベインは別のチームと一緒になっていて、アレンたちに嫌がらせをしているはずなのに。もちろん、あの場で断ればよかっただけなのだが、あの場から逃げ出したくて、完全に頭から抜けていた。なったものは仕方ない。とりあえず、俺はベインとして行動するだけだ。
「はぁ、なんでこんなのに参加することになってしまったんだ」
ひたすら悪態をつくことにした俺は、こういう演習でみんなのモチベーションを下げることをいうことにした。
「僕もこんな演習があったなんて、初めて知ったよ。なんだか新鮮で楽しいよ」
アレンはまるでピクニックにきているかのように浮かれている。
「はい、私もお友達と冒険をしているみたいでわくわくしています」
それにつられて、メイリまで楽しそうにしている。
なんだかんだとメイリの好感度がなぜか高いが、俺は隙があれば下げるような行動や発言をしようと決めているので、今回も楽しそうにしているメイリに嫌なことをいうことにした。
「楽しそうにしてるけど、わかっているのか。このチームでは一人役に立たないやつがいる。もし、猛獣に襲われたら足でまといになるだけだぞ。今からでも遅くないから、先生たちのところに戻ったらどうだ」
俺はまじめな顔をして、足手まといは勘弁だ、ということは伝えた。
「なーるほどな!お前がさっきから何か心配しているような、悩んでいるような顔をしていたのはそういうことか。くくく、大丈夫だって、俺とアレンもメイリに危険が迫ればしっかりと、壁になって守るさ。そもそも、俺たちが動くまでもなく、どこかの王子様が騎士のようにそばで張り付いてるから、心配はいらねえだろうがな」
ゼットがニヤニヤしながら俺をからかってくる。
「そ、そんなに私のことが心配なのですか、大丈夫です。私は、ご主人さまのお側からは離れませんよ」
さらに、メイリが俺の制服のすそを掴みながら距離を縮めてくる。
毎回思うが、俺がなにかメイリにいうたびにゼットが俺は分かっているなんて顔をして、正反対の意味にかえてしまう。そのせいで、どんどんメイリとの仲も縮まってきてるような気がする。
「動きにくいから、制服をつかむのはやめろ」
俺はメイリの手を力づくで制服から離させる。
「ベイン君ってほんと照れ屋だよね」
最近はいつもこんな感じだ。もうこの流れになったら俺が何しようとひどくなる一方なので、俺は沈黙を選び、ただひたすら歩いた。
ただ、予想とは違う形ではあるが、この演習に参加することは必要なことなので結果オーライだ。なにせ、この道中では悪魔が出現することになっている。その悪魔にアレンが乗っ取られるが、メイリが新しい技で助け出すという流れになっている。
本来ならこの時が、悪魔との初対面になるはずだったのだが、俺もメイリもすでに遭遇してしまったせいで、対悪魔用の戦い方も準備してしまっている。対悪魔用といっても、単に威力が強すぎて人間相手には使いづらいってだけだが、アレンとの対決の時に使ったように、かすっただけであの威力だからな。
「おい、気をつけろ。猛獣だ」
ちょうど、道が曲がり角になっているところで、先頭のゼットが何か見つけたようだ。視線をたどってみると、正面の森の中から、光る目が複数見えるのを確認した瞬間、襲ってきた。数は5匹。猫を大きくしたような見た目だ。
「おらああああ」
ゼットが正面からやってきた一匹を右ストレートでダウンさせると、ほかの4匹はゼットを避けるように左右に分かれ後ろの俺たちを狙ってきた。
アレンがすでに刀を構えて左から襲ってきた猫にむけて踏み込み一閃。
「はああああ、後ろにはいかせないよ」
一匹を倒したところで、2匹目が進路を変えようとしたのを見逃さず、返す刀で後ろから切りつけた。
「あとは頼んだよベイン君」
残りは右側から迫ってくる2匹だ。メイリは俺の後ろに隠れている。ふと、俺はこの状況はチャンスなんじゃないかとひらめく、ここで、メイリを盾にすれば、今までの俺への好感度は全員なくなって、元通りになるのでは、思い立ったが吉日、俺は後ろで隠れているメイリの手を取り猫たちの前へ放り投げる。
「えっ、ご主人さま?」
予想以上に力が入ってしまったようで、右から来た猫たちよりも後ろに放り投げてしまったが、まあ問題ないだろう。あとは、こいつらを倒して、盾としても役立たずが。と言うことにしよう。と思っていたが、メイリを投げた瞬間に俺の背中から気配を感じた。俺は後ろを振り返ると、後ろの森の中からもう一匹の猫が飛び出してきたところだった。右側からくる猫に気を取られていて、左側からくる猫に気づいていなかった。
そもそも、猫は5匹じゃなくて6匹いたのだ。俺はあわてて、電気玉を展開するも、その程度じゃ動きは止まらない。そのまま俺の背中を爪で切り裂く。瞬時に前方に飛ぶことで、迫ってきた2匹の下を転がり回避する。制服は切り裂かれ血が出ているがかすった程度だ。
「くそっ、サンダーアロー」
とっさに3つの矢を展開し、3匹の猫をしとめる。
するとメイリが慌ててよってきた。
「ご主人さま!大丈夫ですか!私をかばったばっかりに」
メイリが背中の切り傷に対して、持ってきていた、傷止めを塗ってくれる。
多少しみるが仕方ない。
「おい、ベイン!大丈夫か」
「ベイン君!」
今までの余裕は消え、ゼットやアレンも駆け寄ってくる。
「ああ、大丈夫だ。ただのかすり傷だからな」
「メイリさんも、背中ぶつけたんじゃない?痛みは平気?」
一部始終を見ていたアレンは俺が投げ飛ばしたところも見ていたんだろう。
メイリにも気に掛けている。
「私はちょっとぶつけただけだよ。ご主人さまがいなかったら、今頃どうなってたか……」
涙目になりながら、俺を心配するように見てくる。
結果的に、俺が助けたことになったけれど、やろうとしてたことは真逆なので、なんだか罪悪感でまともに顔が見れず顔をそらしてしまう。
「ちょっと、油断してたな。こりゃ、集中してかかったほうがいいな」
「うん、そうだね。僕もこのメンバーなら、なんとかなると思って、甘い対処をしてしまった」
二人とも、油断してたことを認めて気を引き締めている。
ふと、俺は疑問を覚えたのでゼットに聞くことにする。
「おい、ゼット。この演習かなり危険なんじゃないか?俺だったからあの程度で済んだけど、そうじゃなければ、今頃やられてたぞ」
「ああ、今まではもっと楽だった。正直あんなに連携とってくる猛獣には初めて出会った」
ゼットは右手で顎をさすりながら、過去の出来事を思い返しながら言う。
「配置をかえよう。メアリさんを真ん中、ゼットさんを正面に僕とベイン君で三角形を作ろう」
アレンからの的確な指示が出て、その配置で行動するようにした。
配置を変えてからは、猛獣を発見しても、ゼットが正面でさばいて、倒しきれなかった分は俺とアレンの二人がかりで対処することで、危なげなく進んでいった。
ちょうど、決められた道の半分をすぎた所で、天候が怪しくなってきた。
「さっきまで、快晴だったのに、雨がふりそうだな」
先頭のゼットが少し陰りを見せかけている空に気が付く。
「少し、スピードをあげるぞ」
太陽が隠れると、ただでさえ周りを木に囲まれているので視界が制限されてしまう。
それを経験で知っているのか、ゼットは歩く速度を速めるように言う。
「ねえ、前方に人がいない?」
メイリが目を凝らして何か見つけたようだ。
俺も視線を追うと、確かに人の形をした影のような……
「うーん、少し遠いからわかりづらいけど、確かに人のような気がするね、だけど木の影のせいか暗くてよくわからないね」
アレンも何かに気付いたようだ。
おそらく、ゲーム通りならあれは悪魔だ、道中でアレンが襲われることになっている。だが、俺はどう動くべきか、このままの人数で戦ったら、普通に倒せてしまいそうだ。
「よくわからねえが、近づけば何かわかるだろ」
ゼットがそういい、俺たちは少し歩みを速めた。
ある程度近づくとゼットもなにかおかしいと気づいたようだ
「あれは……人じゃねえな」
「僕もそう思う、さっきから一歩も動かずにじっとしてる。それになにか鎌のようなものをもってる。そもそも、人の形をしているだけで、よく見ると、実体がないようにみえる」
2人が警戒を強めているところ、メイリが俺に近寄ってきた。
「ねえ、あれって、もしかして、悪魔なんじゃない?」
メイリも思い出したのか、少し顔が青ざめながら、確認してきた。
「ああ、おそらくな」
俺がうなずくと、後ろから何かが小石を蹴飛ばしたような音がした。
振り向くと、人の形をした影のようなものが2体もいた。
それにゼットたちも気づいたのか。前方にゼットとアレン、後方に俺とメイリで背中合わせのような格好になった。
「おい、ベイン、お前あれをなにか知ってそうだな。教えろ」
ゼットが苛立ちながら、俺に聞いてきた。
「その言い方はむかつくが、今はそう言ってる場合じゃねえな。あれは、悪魔だ、相当強いぞ」
悪魔という単語を聞いて、ゼットが武者震いをした。
「ほう、あれが悪魔か話には聞いていたが。実際あったことねえな」
口角をあげて、楽しそうに言う。
「ゼットさん、関心している場合じゃない、前にも2体いる、連携しながら戦おう。後ろは二人に任せるよ、ベイン君は経験があるようだし、メイリさんも悪魔なら魔法が通じるんだよね」
アレンはゼットと前方の2体を相手にし、俺たちに後方を任せるようだ。
「ああ、問題ない。むしろ、お前たちのほうが心配だ。この中で一番強いのは俺だからな」
俺は冷静を装っているが、かなり動揺していた。なぜなら、ゲームでは悪魔は2体しかでてこなかったはずだ。それが4体だと、いくら俺が一人イレギュラー的に加わっているといっても、それで悪魔2体追加はどうかしてる。これじゃ、アレンがどうとか言ってる場合じゃない、俺の命もかかわってくる。
「はっ、だれが最強だって?最強はこの俺ゼットだろうが」
俺に軽口をたたいてゼットは自分自身に発破をかける。
「行くよ、ゼットさん。任せたよベイン君」
ゼットとアレンが悪魔に向かっていった。
「私今度は最初から戦えます。絶対、ご主人さまを傷つけさせません」
「ああ、本気でいくぞ」
悪魔に対して、怒りの目を向けるメイリ。
太陽は完全に隠れて、水滴がぽつぽつと降り始めていた。