11. 自己紹介するドップルゲンガー
「改めて、ご挨拶させて頂きます!相模支社から来ました古坂唯です。どうぞよろしくお願いいたします」
そう言って、問題所長と同じ顔をしたドップルゲンガーがニコリと笑い目の前でペコリと頭を下げた。その挨拶に三河安城支社の事務員達は顔を見合わせると不安げに視線を交わしあう。
「…………………………」
その一人でありながらも本来ならば一番に挨拶をしないといけない三河安城支社第三席丸山祐二も何とも言えない表情で押し黙っていた。目の前のドップルゲンガーは新しく着任した上司とは同じ顔をしているが性格は全くの正反対らしい。そう思い至った原因は朝一番での出来事が大きい。度重なるトラブルによるストレスで痛む胃を出勤してきたら問題所長のドップルゲンガーがエレベーターホールの掃除をしていたという事実に驚いて立ち竦み、あまりの衝撃にエレベーターの扉に挟まれるという経験をしたばかりなのだ。驚きのあまりに声が出なかった自分と三上が逃げるように事務室に逃亡した後も出勤してきたメンバーは掃除していた少年の姿を見て驚愕の叫びを上げていた。今も何も言わない自分の顔を部下が物言いたげに見てくるが何とも言えない。そんな祐二の思いとは他所に愛想のよく所長のドップルゲンガーはニコニコと自分達を見つめて話続ける。
「中部地方は初めてで慣れない事ばかりだとは思いますがよろしくお願いします」
そうペコリと頭を下げるドップルゲンガーに祐二は覚悟を決めて一歩前に進み出る。
「貴方が新しい第2席……でよろしいでしょうか?」
そう確認するように問いかければ目の前のドップルゲンガーが“はい”と穏やかに微笑む。
「古坂唯と言います。若輩者なので、第2席ではありますがご指導ご鞭撻の方をよろしくお願いします」
三河安城支社の事務員からのようやくの返答に唯はよそ行きの笑顔を浮かべるも…………なぜか自分の笑顔にひきつったような表情を浮かべる事務員達の姿は変わらない。自分と三河安城支社の事務員との間に溝を唯ははっきりと感じとる。そしてその予感はすぐに的中する。一歩前に進み出て自分の地位を確認した支社の中で一番の地位を持つだろう男性が厳しい表情で自分を見据えてくる。
「貴方が第2席なのは認めますが、余計なことはしないで頂きたい」
突きつけられる言葉に唯は新しい職場となった三河安城支社の事務員達を見つめるもこちらに向けられる厳しい表情は誰一人として変わらない。
「お遊びの気分で来られてはいい迷惑です。我々は我々で自分の仕事をさせて頂きますので」
そう言葉を告げると三河安城支社の中で所長や自分に次いで地位の高そうな男性はそう言い放つと自分の席に戻っていく。そのやり取りを周りで見守っていた面々も気まずそうな顔を浮かべながらも自分の席に戻っていった。
“心折れるわ………”
目の前から“ざっ”と波が引くようにいなくなった事務員達に唯は心の中で深いため息を吐く。昨夜は勤務時間が終わったら誰にも挨拶せずに事務所を後にしたがこの反応は予想出来なかった。新人は掃除からとの相模支社エースの教えを胸に今日は朝一番に来て掃除に励んだ。
「お、新人。精が出るなぁ~」
見慣れない自分が人の少ない事務室でせっせと掃除に励んでいる姿に待機室にいた夜間の待機メンバーが帰る前に声をかけてくれたのだけが唯一の救いである。
「………………………………」
今も自分を無視して始められた仕事に前途多難を想像し、唯は深いため息を吐いた。
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