19話 奇想天外のオンパレード
生徒会から漏れ出した恋路部の廃部ついての一件。
それは内部が起こした引き金であり、廃部に傾けるための準備が行われていた。学生代表として君臨する生徒会長を無視した横暴が浮き彫りとなる。
(……まさか、問題がここまで拡大化するとは思ってもいなかったな)
携帯端末の画面をスライドさせる孤高の客人、新藤弥彦は冷静と潜考する。
最初は秦村先生に事実を聞かされて。
真相を知ろうとわざわさ生徒会室にやって来た。真意を確かめるための時間潰しの行動が、生徒会の一部のメンバーが仕向けた暴走であると判断。そして、核心に迫る由々しき事態にまで至る結果となった。
雲行きが怪しくなるばかりの不条理な展開。
核心に迫る緊迫感の張り詰めた雰囲気は言葉にならない重圧がのし掛かる。
「……犯人は生徒会の一部のメンバーで違いないのね、伊丹くん」
清らかな表情を湛えていた生徒会長の常盤美咲。
普段から温厚で誰に対しても柔和な態度を取る彼女に笑みが消えている。深刻な事態に真面目に問い質すただならぬ風格を備える。テーブルの向こう側でチェアに腰掛ける美咲は混迷した現状でも本筋を見逃さない。
一方で真実に辿り着いている生徒会長の雑務、伊丹和樹は肩を落として落胆。
身内の起こした愚味に心底呆れていた。
「間違いない。間違えるハズがない。これは内部からの失脚だ……」
「その張本人は私達が知っている人物なのかな」
「まあ、多分会長先輩はよく知ってますよ。何せ副会長の神式しか居ないんで」
「……彼女の性格上、可能性が非常に高いことは確かだろう」
そういえば副会長の姿を見掛けていなかった弥彦。
恋路部を廃部にしようと企むのが副会長と理解した今、その理由と根拠を問い質すことができる。だが現在ではメリットが非常に少なく、一体誰が神式なのか全く分からないので無闇に動けない。
むしろ生徒会長から微動にしないのが賢明であると把握している。
だから弥彦は余計な雑念を消した。
「……つーか馬鹿野郎だろ。勝手な正当化で黙って活動してんじゃねーよ」
あってはならぬ非常事態。それも権限なしに一つの部活を廃部にさせようとしている。明白に暴走している証拠として、生徒会のメンバーに何も報告せずに実行を着実に移行する段階が、時間が進むことで形になろうとしている事だ。
信頼する仲間の心境は期待を裏切られたもの。
規律を守る立場が個人的な横暴で、貫き続けた正義が傾いてしまうのだから。
後味が悪過ぎる。
「その副会長が一件の原因の発端で合っているのか」
「むしろアイツしか考えられないな。自分から執行部に名乗り出た辺りから怪しいと思っていたが、まさか部活動を粛清するために志願したんだな」
「努力の方向性が間違っていると、そう言うべきだろう」
悪質として決め手のとなった単独行動が痛手を負うものに。
規律を守り風紀を保つ。
そんな正義と秩序を兼ね備えた組織で活動する手本のような存在が自らの判断で破綻を迎える結末に見舞われるとは思わない。
「生徒会長の代理になる奴が何やらかしてんだが……」
何かしらの経緯で恋路部を気付いた神式という名前の少女。
伊丹の痛感した反応を見る限りどうやら副会長とは同年代の可能性が浮かぶ。
クラスメイトだって有り得るかもしれない。
(……恋路部の印象が不純に思えたから、副会長は行動に実行したのか)
物事を推し量ることに無理がある弥彦は全くもって理解出来ないでいる。常識人離れをした副会長の行動は、明らかに共感できるものではない。
対立する恋路部の部長として。
この一件について決して黙認できるほど容認できない。副会長の行動には遺憾を募らせるのが当然で、誰もが口を揃えて批難するだろう。
けれど。
この場にいる生徒の代表達と孤高の客人だけは違う。
急変する時局でも、顔色を変えるほどの深刻な問題ではないと悟っていた。
「問題ないですよ。生徒会で起こした不祥事は私達の手で決着を付けますから」
「我々は誉れある生徒会。全力で解決の岐路に進むまでだ」
ただ静かに。ただ強かに。
正しいと言える心強き執念。それは何も間違っていなかった。
常識的な答えは正義だ。
だからこそ人類は当然と呼べる解答を探し続けていく。
もしも本当に選択肢に迷いがある瞬間に立ちはだかる時、自身の執念を貫き通した人達は本物の強さを振るう。
本音を言える人は限られている。
嘘が蔓延するこの世界に信頼できる人は誰一人居ない。他人を傷付けてしまわないように、真実を隠す優しさは自分自身でさえ救えない。全ては夢であると言い聞かせながら、厳しい現実から逃避するちっぽけな本心は何もかも裏切ってしまう。
そんな行き場のない苦しみの呪縛を解くことの出来る数少ない人間は。
大切なものを捨てられる覚悟を背負う。
例えば、仲間の信頼そのものを。
「この失態に合う面白そうな罰ゲームを、副会長さんには体験させないと後で後悔すると思うから、是非楽しんで貰いたいわね」
返ってくるのは澄み切った微笑みだった。
最初は柔和で温厚な性格だと思っていた彼女の印象は乖離を覚える。屈託のない年相応の反応の中に忍ばせた鋭い美しさは、常盤美咲そのものを映し出しており、たとえ身内の失態だろうが関係ない。
綺麗な薔薇には棘あるように、現実はあまりにも非情だ。
「恋路部の廃部について私は賛成しませんし。むしろこれから期待している側なので、もしかしたら突飛的な派閥を生んでしまうかもしれませんけど」
「笑顔のまま物騒なことを言わんで下さいますかね……」
完全に雑務をこなす身内の伊丹は顔面真っ青。
支援に微力を尽くす及川はメガネを掛け直すだけで一言も言わない。
生徒会長が望む最善の答え。たとえそれが亀裂が走ろうとも、根本的な方向性は変わらない。軋轢の溝に生まれた勘違いを堂々と訂正してみせる美咲。
彼女が率いる生徒会は、選択を迷わない。
「内部の告発を教えてくれてありがとう。新藤くんには何かお礼をしなきゃね」
「謝礼は要りません。副会長を見付けた方が先決だと俺は思いますけと」
「確かにそうだな。あの馬鹿から真相を問い質さないと……!」
断る形で手を振る弥彦は頑なに生徒会長の感謝を断っていく。
今は副会長の発言が必要としている。是非を問う真相を確かめるためには些細なお礼は余計だと考えた弥彦は神式の捜索を促す。
手放しにしたままでは意気揚々と手段を選ばない乱用を振る舞い、沢山の人達に一方的な迷惑を掛けてしまう。
罪もない部活動を邪魔を企て廃部に貶めようとする前に。
これ以上の犠牲を増やすまいと、恋路部の部長は生徒会長に加担する。
「あの野郎。携帯の電源を切ってやがるな。校内か?」
「もしも校内にいるなら部活動をしている場所を徹底的に探った方が効率に良い。それに今日は生憎の雨天だ。雨に濡れるのが嫌なら、室内にいる可能性は高い」
「なるほど。地の利を得た素晴らしい見解だ」
昼休みの時間を潰すために散々校内を回ってきた。
退屈だった時間を何とかして、弥彦は沢山の景色を見てきた。時々道を迷ったりしたが昼休みを越すには無駄な悪あがきも手段を選ばない。
そんな泥を啜った底辺の学生の生き方を誰が真似をするのだろうか。
見下す景色の先は何もないと知りながら。
孤高の転校生というレッテルを貼られた新藤弥彦は、何度も青春を折り続ける。
ただ、それだけの学校生活だ。
「あくまでも執行部だからな……。徹底的に探し回るか!」
「それなら二手に別れた方が効率化が進む。伊丹氏はこの棟を詮索してくれ」
「書記先輩は別棟を頼みます!」
早速メンバーの伊丹と及川は詮索の行動を開始。機敏な連動力は流石に生徒会に入部しているだけあって、互いの長所を生かすのが得意の様子だ。
こうしている内に鼻を高くして廃部に移ろうとする副会長。
何故彼女の心境が合致したのか。その真相を深淵の底まで突き止めてみせる。
「あれ、君は捜さないのかな?」
「手数を増やしても結果は変わらないのなら、居座った方が有利だと思いますよ。まあ、勝手に向こうから来ると思いますが」
「……? ……?」
静かに指定された椅子に腰掛けるだけの弥彦に、頭上にクエスチョンマークを浮かばせながら首を傾げている生徒会長の美咲。動作がソワソワしている。
対照的に温度差が歴然と違っていた。
「こういうのアレなんだけど、私達結構暇になるんだよね」
「真面目に待機して下さい」
「えー、新藤くんは意地悪さんだね。ちょっとだけ聞かせてよ。恋路部の話を」
(なんだコイツ。妙に馴れ馴れしい……)
面白そうに寄って隣に座る美咲。
完全にこちらの様子を伺う。弥彦の話を聞かずに距離は縮めるばかりに。携帯端末を弄る弥彦の直ぐ横で眼をキラキラさせながら期待を待つ生徒会長の姿が。
近い近い近い近い近い。制服が触れるだけでラベンダーの香水がよく分かる。
「……帰ってもいいですか」
「じゃあ、私と一緒に帰ることになるけど、君はそれでいいのかな」
「それは職務放棄でしょうに」
「当分の仕事は済ませちゃったから暇なんだよー。楽しいゲームとかしない?」
「アンタ今年で受験生だろ」
長方形のテーブルで踞る生徒会長は見る影もない。
というか先程の威圧感が台無しで、今や風格が見るに耐えなかった。
このまま眠ってしまいそうな勢いの美咲に弥彦は単純に無視するだけだが、反応しないためか美咲はこちらに振り向き、じーっと見詰めてくる。
「暇なの! ちょっとだけオセロの相手してよ!」
嫌です。
見てられないと深いため息を吐く弥彦。
対して、むすっと不機嫌そうな表情をして眺める生徒会長は相変わらずのよう。というか、そのだらしなさが副会長の行動に引き金を起こしているのではないかと思うと、ある意味共感できるものがあった。
そんな手の施しようがない自由奔放のままに活動していく生徒会に。
閉じていた扉が開くと共に、新たなメンバーが顔を出す。
「あんの~、炭酸水来ないんですけど。おっと、見かけない客人すね。転校生?」
炭酸飲料水に目がないその人物というのは。
だらさなそうにジャージを着た、おへそが丸見えの美少女だった。




