アルバイト
上島は2階建て計60打席のゴルフセンターでアルバイトをしている。大学入学後すぐに働きだしたのでもう1年になる。お客さんが帰った後の机を拭いたり、紙コップおしぼりの回収などをしている。時には簡単な機械の故障なども直したりしていた。1年にもなると常連客の顔も覚えてくる。大学ではほとんど人と話す事はないが、ここでは「にいちゃん、学生か?」とちょくちょくお客さんから声をかけてくるので世間話をする時があった。
1階2階の空いてる打席の整理清掃を終えたので、上島は1階端で待機していた。お客さん打っている姿を見たり、飛んでいくゴルフボールを見ていた。日が暮れると辺りは暗くなり照明に照らされた白いゴルフボールが一際目立って飛んでいくようだった。1球約10円。飛んでいくゴルフボールを10円玉が飛んでいくように想像して頭で数えてみた。
(10えーん。はい、10えーん)
数秒で100円分が奥のネットに当たって下におちた。あっという間に自分の時給分のボールが飛んでいきそうである。何故かわからないけどため息がでた。視線を打席方向に向けた。6番打席に女性が来ている。何回か見た事があるなあっと思った。束ねられた髪に赤と白のスポーツウエア。20代後半ぐらいだと予想した。
(きれいな人だなあ。うまく付き合える状況にならないかな)
そんなことばかりが頭に働いた。従業員は数人いるけど、同じ年代は男性だけしかいない。大学と同じように気にしなかったらそれまでだが、寂しい思いはあった。
(あーどうしたらいいかなあ)
上島には望みと現実の葛藤があった。お客さんの移動がないので待機が続いた。時間がたつのが遅い。仕事中のなので携帯を堂々と見ることはできない。上島は時計を見た。やっと閉店1時間だ。
(掃除しようか)
上島は倉庫に掃除機をとりに行った。適当にかけることもできるが、早く終わっても時間をもて余すだけなので自然と丁寧にかけるようになった。
(自分にあったバイトだなあ)
タイミングよく入れた事は常にラッキーだと思っていた。1階2階の掃除が終わったと同時に「蛍の光」が館内に流れた。急いで残りの球を打ち出すお客さんや、ゆっくりと各クラブにケースを被せてゴルフバッグになおしていくお客さんを見ながら(早く帰ってくれー)と思っていた。
お客さんが全員帰った後にあとに一仕事残っている。打たれたゴルフは傾斜で転がり自動で回収できるようになっているが、平面のフェアウェイとネット際はボールが残ってしまう。社員の1人と上島はトンボを使いゴルフボールを傾斜に転がし、すべてのゴルフボールが地面からなくなった。上島は用具を元の場所に戻して事務室に入った。一番下にある「上島了」と手書きされたタイムカードを手にとり機械に入れた。