二十歳
機械から出てきたタイムカードを自分の場所に戻した。そして更衣室へ向かった。ロッカーを開き制服である作業着のうえをハンガーにかけた。そして薄手のダウンを着た福寺栄子はロッカーの内側にある鏡で自分を見た。朝から働いているが、肩ぐらいまで伸びた髪はそんなに乱れてはいなかった。
(終わった終わった)
ロッカーを閉めて会社を後にした。従業員100名規模の金属プレス工場。残業はほとんどないので、17時半すぎには会社をあとにする。イヤフォンをつけ音楽を聞きながら今日は1人で駅に向かった。会社から駅までは歩いておよそ10分。働きだしてはや1年たった。会社で失敗した日などはこの道が特に長く感じた。営業ノルマとかはとくになく、指示された商品の検品と数を数えての梱包。そして出荷作業が主な福寺の仕事内容である。何も失敗がない日が続くと淡々と1日1日が過ぎ去っていくようだった。見馴れた景色にはもう関心がなく、ただ前を見て歩いた。
駅に到着した福寺は電車に乗った。帰りの電車は仕事終わりだということで力がぬけるような思いだった。私服でリュックサックを膝の上において携帯を見ている男性が対面に座っていた。
(私と同い年の20才ぐらい…大学生かな…)
福寺はその人を見ておもった。大学に行くことができなかった悔しさはまだ残っている。志望した大学に合格できるという自信があったので、その大学だけしか受験しなかった。結果は不合格。
(どうして…)
届いた合否の通知が書かれた紙を握ったまましゃがみこんだ。すぐに涙が出てきた。しばらく何も考えられなかったが、涙をふいて立ち上がった。他の大学を受験する選択は残っていたが、自分はこの大学だという思いは強かった。1年間アルバイトをしながら勉強した。そして再び受験。しかしまた叶わなかった。この1年は何なんたんだろう。苦労は報われるものだと思っていた。1年間続いた合格へのプレッシャーと蓄積した疲労が福寺に一気におしかかった。
(もう悲しむのはいやだ)
福寺は進学をあきらめることにした。広告の求人情報に今の会社が記載していた。女性多数活躍とかかれているところに目がいった。そして無事に採用が決まり今に至っている。
(大学は楽しいのかなあ)
福寺には分からなかった。高校でいつも一緒にいた4人の友達は全員が大学に進学した。誰か1人でも就職していれば同じ境遇だったのだが、自分だけが取り残されたかんが多少あった。今の会社をやめたいとは思わなかった。勤続年数が長い人も多く、続けやすい会社だということは1年働いてみて感じた。
(20才か…)
何かの資格に挑戦するか、それとも今のままでいいのかどうか。悩むところだが福寺は考えたくなかった。




