↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/10

プロローグ 〜天才になりたい〜

スポーツ、勉強、音楽、芸術。


世の中には、あらゆる分野において「天才」と呼ばれる人間がいる。


誰よりも速く走れる者。


一度見ただけで、すべてを記憶できる者。


初めて触った楽器で、美しい音を奏でる者。


誰にも思いつかないものを生み出す者。


努力だけでは説明できない、圧倒的な「何か」を持った人間。


人はそんな者たちを、


天才


と呼ぶ。


そして俺は、ずっと天才になりたかった。


「将来の夢はなんですか?」


幼稚園の先生にそう聞かれた日のことを、今でも覚えている。


周りの子どもたちは元気よく手を挙げた。


「サッカーせんしゅ!」


「ケーキやさん!」


「けいさつかん!」


「アイドル!」


教室のあちこちから夢が飛び交う。


けれど、俺にはなりたい職業なんてなかった。


サッカー選手でも、警察官でも、宇宙飛行士でもない。


だから俺は、少し考えてから答えた。


「ぼく、天才になりたい!」


先生は一瞬きょとんとして、それから笑った。


「そっか。じゃあ、いっぱい頑張らないとね」


「うん!」


このときの俺は知らなかった。


頑張れば、誰でも天才になれる。


本気でそう思っていた。


その日の自由時間。


園庭で遊んでいると、一人の男の子が俺の横をものすごい勢いで走り抜けていった。


「はやっ……!」


追いかけてみた。


けれど、まったく追いつけない。


俺が全力で走っているのに、そいつは笑いながら何度もこちらを振り返っていた。


「おまえ、おそいな!」


「うるさい! もういっかい!」


何度やっても勝てなかった。


悔しくて、何度も何度も挑んだ。


それでも一度も勝てなかった。


やがて先生がやってきて、その男の子の頭を撫でた。


「ほんとに足が速いね。先生びっくりしちゃった」


男の子は得意げに笑った。


その瞬間、俺は思った。


こいつはきっと、


『走る天才』なんだ。


それが、俺が初めて出会った「天才」だった。


そして、もう一人。


その男の子と遊んでいると、いつも少し離れた場所から俺たちを見ている女の子がいた。


あまり喋らない子だった。


みんなが遊んでいるときも、絵を描いたり、本を読んだりしていることが多かった。


ある日、俺と男の子が積み木で遊んでいると、その子が近づいてきた。


「それ、そこじゃないよ」


「え?」


女の子は積み木を一つ手に取ると、俺たちが何度やっても崩していた塔を、あっという間に組み直してしまった。


「こうしたら、倒れないよ」


「……なんでわかったの?」


「見たらわかるよ?」


当たり前のように答えた。


俺と男の子は顔を見合わせた。


俺には、まったく分からなかった。


でも、この子には分かる。


そのときはまだ、その才能に名前なんて付けられなかった。


ただ一つだけ思った。


この子もきっと、


俺とは違う。


それから三人で遊ぶことが増えた。


走るのが誰よりも速い男の子。


俺には見えないものが見えているような女の子。


そして、


何者でもない俺。


それでも、あの頃は楽しかった。


二人ができることを見るたびにワクワクした。


俺も何かを見つければ、いつか二人みたいになれる。


そう信じていた。


だから俺は、いろいろなことを始めた。


走った。


泳いだ。


ボールを投げた。


勉強した。


絵を描いた。


楽器にも触った。


そのたびに思った。


今度こそ。


これなら俺も、天才になれるかもしれない。


けれど。


そのたびに、出会ってしまった。


俺より速いやつ。


俺より頭のいいやつ。


俺より器用なやつ。


俺より音を理解しているやつ。


俺が何ヶ月もかけてできるようになったことを、


たった一日でやってしまうやつ。


天才になりたくて世界を広げるほど、


そこには必ず、


本物の天才がいた。


だから、俺は諦めた。


また別のことを始めた。


そして、また天才に出会った。


諦めた。


始めた。


出会った。


また、諦めた。


いつしか俺は、


「天才になりたい」


と言わなくなっていた。


俺には才能がない。


何をやっても普通。


何をやっても、誰かの下。


それが俺なんだと思うようになった。


だけど、このときの俺はまだ知らなかった。


走る天才。


見る天才。


考える天才。


跳ぶ天才。


操る天才。


騙す天才。


守る天才。


そして、まだ見ぬ数え切れないほどの天才たち。


本来なら、決して同じ場所に集まるはずのなかった才能が、


やがて一つのボールを追いかけることになる。


そして俺もまた、


その中心に立つことになる。


これは、


天才になれなかった一人の少年と、


各分野の天才たちがサッカーに集う物語。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。