第19話 デーモンロード撃退
サキュバス型デーモンロードが、ムチを振る構えを取った。
攻撃が来る前に、僕は相手の脇腹を蹴り上げる。
「ごほ!?」
何をされたかわかっていないらしく、サキュバスは困惑していた。
「【レインフォース】のレベルが、尋常じゃないわね。スキルを魔改造した?」
「自分でもできると思っていなかったよ」
もっとも時間制限付きで、一定時間が過ぎると強制的に魔力が枯渇するが。
変化したのは、肉体だけではない。装備も変質している。ミスリルなどの希少金属を採用した、特殊な全身ヨロイをまとっていた。武器のサーベルも、常に紫電を放つ。
「自分の装備を魔改造して、特殊なスキルを持たせているのね?」
「そうだ。これによって、負担が軽くなる」
自身の肉体強化に加えて、全身を覆う武装も魔改造にて変形させた。
「電光石火!」
僕は雷そのものとなり、サキュバスデーモンロードを切り刻む。
もはや電光石火は、自然界の雷と同レベルの速度と威力を誇った。
それでも倒れないサキュバスも大概だが。さすがデーモンロード、と言ったところか。
「凄まじいわ。それだけの力があれば、民を先導することも。自分が魔王に、取って代わることもできたでしょうに!」
「いや。僕のような異端児は、影に徹するべきだ。どうしてバリナンの王妃が、うちにカレーを食べに来ると思う?」
カレーの発祥は、バリナン王国の方である。なのに、バリナン王妃たる姉さんは、嫁ぎ先のバリナンではなく我がシンクレーグまで足を運ぶ。カレーを食べるためだけに。
「それはあなたが、弟のディートヘルムだからでしょ? 顔を見せに来ているだけだと思うけど?」
「違う。うちのカレーの味が、子ども向けからだ」
バリナンのカレーは、辛すぎる。そのため、娘には食べさせにくいのだ。実際、娘は現地でカレーを食べないという。
対して、シンクレーグのカレーは、子どもが作っている。そのため、誰でも食べやすい。辛味を欲するなら、専用のソースをかけるように指示している。
「いいか。世界を支えるべきは、普通の人たちなんだ。変わり者や異端者は、奥に引っ込んでいればいい。普通の人たちが快適に生きていけるような環境を、作ってやるべきだ」
カリスマなんて、いらない。そんな奴が頂点に立てば、民がトップに依存する。国を維持するのは、一握りの天才ではない。普通の民衆だ。
「理解できないわね。民は魔王に先導されて、初めて幸福を得るのよ」
「お前たち魔族が、魔王信仰にとらわれて、民衆を食い物にすると言うなら、僕は領主として、全力で排除する」
こいつらは魔王を言い訳にして、好き勝手暴れたいだけだ。
「やれるものな――」
デーモンロードが攻撃を仕掛ける前に、勝負はついた。
僕は紫電となり、サキュバスの心臓を斬り裂く。
サキュバスの核を破壊して、魔力が僕へと注ぎ込まれていくのがわかった。ここまでくると、とんでもない量の魔力である。それが、僕の力となっていった。
キレイだったサキュバスの肉体が、ただの砂へと変わる。
「ふうううう」
大きく息を吐き、僕はヒザをつく。
肉体も武装も、もとに戻っていた。
相手に何もさせないで勝ったが、決して楽勝ってわけじゃない。攻撃されたら、こちらが終わっていた。できるだけ、相手になにもさせないことが重要だったのである。
「でも、帰れるかな?」
ヒザが笑っていた。立つことさえできない。救援でも待つか? しかし、このダンジョンは放棄する予定のはず。魔王の陣営とつながっているなら、塞ぐだろう。
なんとか自力で脱出を……。
サーベルを杖代わりにして歩こうとした。しかし、すぐにつまづく。
みんな、待っていてくれているのに。
「なにをやっとるです。ダンナ様」
不意に、僕は肩を抱かれた。
「どうして、リユ?」
「アタシは、ダンナ様の帰りを待たん薄情な妻ではありません」




