夏休み明けと異世界の風
よろしくお願いします。
「まだ準備できないの? 今日はお母さん仕事だから、学校まで送れないよ?」
玄関から聞こえてきた母の声に、僕はリビングから返事をした。
「大丈夫だって! 今日は遅れないから!」
今日は夏休み明けの始業式。
久しぶりの学校だからこそ、僕はいつもより早く起きて準備を済ませていた。
だから遅刻なんてするはずがない。
……たぶん。
「毎回そう言ってるじゃない」
母は呆れたように笑う。
少しだけイラッとした。
「今日は本当に大丈夫だから!」
「はいはい」
信じていない顔だった。
ひどい。
「じゃあ行ってくる」
「気を付けてね」
僕は靴を履き、自転車にまたがった。
夏休みで十分に休んだ身体は軽い。
ペダルを漕ぐ足取りも自然と弾む。
僕の通う高校は私立高校だ。
バス通学もできるけれど、人混みが苦手なのでいつも自転車を使っている。
だから登下校は基本一人。
……いや、別に友達がいないわけじゃない。
小学校からの付き合いの友達が二人いる。
数は少ないけれど、親友と呼べる大切な友達だ。
だから決してぼっちではない。
決して。
――――――
「あー、校長先生の話ってなんでこんなに長いんだろう……」
始業式が終わった帰り道。
僕は思わず独り言を漏らした。
全校集会が終わり、今日はそのまま下校だ。
掃除もホームルームもほとんどない。
荷物をまとめて帰るだけ。
僕は教室を出ようとして――
その瞬間だった。
世界が変わった。
ザッ――
風が吹く。
いや、違う。
さっきまで聞こえていた生徒たちの声が消えている。
足音もない。
笑い声もない。
代わりに耳へ飛び込んできたのは、荒れ狂う風の音だった。
「……え?」
僕は立ち止まる。
そこは学校ではなかった。
灰色の大地。
草木はほとんど生えていない。
遠くまで続く荒野。
そして地面の奥から響く不気味な機械音。
ゴゴゴゴゴ……
まるで巨大な工場が地下に埋まっているような振動だった。
「なんだここ……」
見覚えがある気もする。
でも思い出せない。
知らないはずなのに懐かしい。
そんな奇妙な感覚だけが胸に残る。
「とりあえず人を探そう」
僕は歩き出した。
その時の僕はまだ知らない。
これが日常との別れになることを。
――――――
どれくらい歩いただろう。
五分かもしれない。
一時間かもしれない。
時間の感覚がおかしくなっていた。
強風が体力を奪う。
そして不思議な眠気が襲ってきた。
「なんか……眠い……」
視界が揺れる。
足元がふらつく。
そして――
僕の意識は闇へ沈んだ。
――――――
目を開ける。
鉄格子が見えた。
「……へ?」
牢屋だった。
「なんで?」
思わず声が出る。
異世界に来たと思ったら牢屋。
展開が早すぎる。
周囲を見回しても他に囚人はいない。
静かだ。
とりあえず管理人みたいな人が来るのを待つしかない。
そう思っていると暇になった。
暇すぎた。
「こういう時ってチート能力とかあるよな」
試しに手を前へ突き出してみる。
「てい」
ピカッ。
光った。
「おおっ!?」
何か出た。
期待に胸が膨らむ。
そして現れたのは――
小石だった。
「……小石?」
沈黙。
「小石?」
もう一度確認する。
どう見ても小石だった。
僕の異世界チートは小石召喚らしい。
泣きたい。
その時だった。
階段を降りてくる足音が聞こえた。
誰かが来る。
僕は慌てて鉄格子へ近づいた。
そして現れた人物を見て固まる。
黒く長い髪。
透き通るような白い肌。
整った顔立ち。
僕のストライクゾーンど真ん中だった。
「……やばい」
思わず声に出た。
少女は眉をひそめる。
「何が?」
しまった。
口に出ていた。
読んでくださりありがとうございます。以前書いたものを文章を綺麗にしてあげ直しております。今後ともよろしくお願いします。




