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Beyond of Cosmos =星巡りの物語=リゲル・ラナ編 第一部  作者: 詩紡まりん
『淀む光と影』=若者たちの選択= リゲル歴4045年

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第71話 ネオ、スチュアートリア帝国に入国する


 ネオの予想通り、パドラルの教会へ戻ってからゆっくりする間もなく、ネオはガニバランと共にパドラルの教会を出発した。

 いつもはブロッサンを目指し北に向かう船に乗っていたが、今回はスチュアートリア帝国を目指し東に向かう船に乗っていた。


 ガニバランはネオに向かって言った。

「帝国に入るには、商船の乗組員になって荷の積み下ろしをするしかない。しかも、仕事を終えても上陸できる船員は登録されている者に限られている」

 と、ガニバランが言った。


 スチュアートリア帝国が入国と、輸出入の制限をしていると、ディアネが言っていた。

 きっと、帝国側は大黒主神教関係者やBlack(ブラック) Mage( マギ )の入国を警戒している違いなかった。

 何を警戒してるって?それは俺たちなのだ!


「どうやって入国するんです?」

 と、ネオは尋ねた。


「まず、俺の入国は無理だろうから、お前だけ帝国に潜入して様子を探り、ノアを連れて来い!」

 と、ガニバランが言った。


「えっ?俺ひとりで…ですか?」

 ネオは、心の中では、願っても無いチャンスだと思っていたが、どうにも出来過ぎているように思えてならなかった。


「お前ひとりでは心細いだろうから、この男を連れて行け!」

 と、ガニバランは、ひとりの男をネオに紹介した。


 その男は、ノアをパドラルの大黒主神教から逃がしてくれたあのデイブスだった。

 ジャコバン村の大黒主神教教会で共に生活していたことがあるので、顔見知りではあった。

 ノアと共に教会から消えていたので、ジェフリーが裏切られたと怒っていたのを思い出した。


 ノアと共に大黒主神教教会から逃亡したデイブスがなぜここに?

 しかも、大黒主神教からすれば教会から脱会し棄教することは裏切り行為である。

 ノアのように信者になっていない者ならば許される行為でも、デイブスは組織の人間だ。

 絶対に許されない行為だったはず。

 なのに、そのデイブスがなぜガニバランと共に居るのだろうか?


 デイブスは、ノアとトロアジュの港で別れた後も荷夫(にお)として商船に乗り込み船員として働いていた。


 いぶかるネオにデイブスはひょうひょうとした調子で言った。

「久しぶりだな、ネオ。俺のことを覚えているか?デイブスだ」


「デイブス…さん?えっと…ジャコバンの森への狩りへ行った時に色々教えて貰いまし…たよね?

 と、ネオはリゲル・ラナへ転移して来たばかりの頃を思い出して言った。

 あの頃は、初めての体験ばかりでワクワクしていたなぁ。


「ネオ。おまえ雰囲気が変わったな?」

 と、突然デイブスが言った。


「えっ?そうっすか?」

 正直ネオは、あの頃の記憶があまりなかった。


「ああ、最初に会った頃と印象が違う。一瞬、ノアかと思ったぞ」

 と、言うデイブスの意外な言葉にネオは戸惑っていた。


「つまり、ノアに似て来たということなの…か?」


 ノアとネオは、見た目も違うし、性格なんてほぼ真逆だ。


「ノアに似ているという意味では無い。以前のお前は衝動的というか、あまり深く考えずに行動している感じだった。ノアは、好戦的な雰囲気はゼロだったのに対して、おまえは血を好むヤツという雰囲気だった」

 と、デイブスに言われ、心当たりがあるだけにネオは恥ずかしい気がしていた。


「確かに、狩りもサバイバルな体験は楽しかった。出来れば本当の闘いも経験してみたいとすら思っていた。あの頃は、俺も子供だったな、経験値が低く想像力もなくて…」

 と、ネオが言うと、近くで聞いていたガニバランが言った。


「お前は、環境で大きく変わるヤツなのかもしれんな。つまり、経験から学ぶ能力があるってことだ。だから、色々経験しろ!」


「はい!」

 ネオは、「確かに、そうかもしれないな」と、思っていた。


 地球にいた頃は、ただ周りに流されて反抗期も相まって反抗ばかりしていた。

 周りの大人の言うことを信じられなかった。

 同年代の周囲の奴らも気に食わない奴らばかりだった。

 自分の未来への希望なんて、ひとつも見えなかった。

 だが、今思うと自分の悩みが、全く以って贅沢な悩みだったとわかる。


 この星(リゲル・ラナ)は、地球に比べると無い物も多く、不便な事も多い。

 ただ、その分、生きるためにしなければならない事も多く、その為に多くの体験が出来た。

 生きるために、やむなく身に付けた事も多い。

 楽に生きられることが、良いことだけとは限ら無い事を、ネオは実感していた。


 シルクガード港を目指す船の中で、ネオはデイブスから彼の身の上を聞いていた。

 大黒主神教の関係者は、黒魔術により洗脳されて信者になった者以外は、ほとんどアモー・ロンド大陸の出身者だった。

 だが、デイブスとジェフリーだけは、このスチュア・トロア大陸の出身者とのことだった。

 元々、漁師の息子だったふたりは、親と共に漁船に乗って猟をして日々の糧を得ていた。

 ある日、遠洋で猟をしている時に嵐に遭遇。

 漁船が横転し、船員は全て海に放り出された。

 子供たちだけが船の積み荷の木箱に捕まり漂流し、死を覚悟したそうだ。

 そこをたまたま通りかかったガニバラン達の船に救われたとのこと。


 その当時は、まだ大黒主神教教会もパドラル、ブロッサン、スチュアートリア帝国に一か所ずつしか存在しておらず、活動もひっそりと行われていた。


「俺は、このスチュア・トロア大陸から出たことは無い。ガニバランさんやバドネリアス様の住んでおられたアモー・ロンド大陸は、常にあちらこちらで戦争が起きてて、普通に生きることも大変らしい」

 と、デイブスが言った。


「俺が居た地球でも平和な国と、常に戦争で争いが絶えない国と差が激しかったよ。俺の生まれた国は、戦争が終わった後しばらく平和で、俺は戦争後生れで戦争を知らないから、毎日ダラダラ暮らしてた」

 と、ネオが言うとデイブスも

「俺の生まれたマニ・トバールは、国というまとまりではなく幾つもの部族に分かれていた。部族同士の小競り合いは日常茶飯事だった。国同士の戦争ほどでは無いのだろうけど。でも、スチュアートリア帝国に来て、平和で豊かなのに驚いたよ」

 と、言った。


「マニ・トバールは、パドラルの隣の国だけど俺はあまり知らない。パドラルよりもヤバイ国なの?」

 と、ネオが尋ねると、

「マニ・トバールは山や森が多くて土地的には豊かじゃないし、文字が読めない者も多いからな。それでも、俺の両親が生きていた頃は、漁村でそこそこ平和に暮らしてたんだよ」

 と、デイブスは遠い目をして自分の身の上話をしてくれた。


 デイブスの話によるとデイブスとジェフリーは幼馴染だった。

 デイブスは兄弟姉妹が多く、稼ぎ手が無くなった母親は生きるために再婚したらしい。

 ジェフリーの方は、兄弟姉妹は居なかったが、ほどなく母親も亡くなったそうだ。

 村に居ても生きるのが大変だったふたりは、ガニバランに誘われるまま仲間になったとのことだった。

 バドネリアスやガニバランが、自分たちの為に住みやすい国を作ってくれると信じて。

 そして、デイブスはネオが抱いている疑問に答えるように言った。


「ノアをジャコバン村の教会から帝都に逃したのは、ガニバランさんからの指示だったんだ」


「えっ?ノアを…どうして?」

 ネオは、デイブスの告白に驚いて聞き返した。


「ノアを帝都に逃がすことに、何の目的があって…?なのに今更連れ戻す?」

 ネオには、理由(わけ)がわからなかった。


「ノアは、大黒主神教の信者にはならなそうだったし、黒魔術にも拒否感を持っていたからさ」

 と、デイブスが答えた。


「だからって、わざわざ帝都に行かせたのには目的があったんだろ?」

 ネオは、自分が居ない間にノアが逃げ出した事に、当初はショックを受けてノアを恨む気持ちがあった。

 それだけにノアにちょっと申し訳ない気持ちになっていた。


 そんなネオの問いに答えてデイブスが言った。

「ああ、ノアには魔法の才能がある。その才能を伸ばすために、スチュアートリア帝国にある魔導士を養成する学校へ通わせるのが早いという判断だ。既にそこに数人送り込んでいるたんだが、どいつも進歩しなくて役に立ちそうもなかった。だが、ノアなら能力的にも性格的にも魔導士になれると見込んだ、バドネリアス様の指示だ」


「そうなのか!ノアは白魔術師にならなりそうだしな」

 ネオも当初は、黒魔術と白魔術の区別もつかず、なんでも良いから魔法が使えるようになりたいと思っていた。


 サバゲ―気分で、猟も楽しんでいた時期だったので攻撃力のある黒魔術にも憧れがあった。

 だが、魔導書まで読めるようになった今のネオには、そのふたつの魔術の違いを理解していた。

 自分はやっと理解したところなのに、それをノアは、あの時点で理解していたとは…。


 しかし、魔術が使えないデイブスには、その違いも曖昧のようだった。

「基本的には、黒魔術も白魔術も活用するエネルギーが違うだけで技術的には近いとの話だ。俺は、ろくに字も読めないからよくわからんが…」

 と、言うデイブスにネオは再び尋ねた。

「ノアの居場所は、わかっているのか?」


「ああ連絡が途絶えた帝都の仲間からの情報によると、、帝都のその魔導士を養成する学校の寮に居るとの話だ」


 スチュアートリア帝国の帝都にノアがいる。

 しかも魔導士を養成する学校の寮に。


「学校の寮か…」

 と、ネオはつぶやきながら不思議な気分になっていた。


 元々、ネオもノアも地球では学校制度に乗れない落ちこぼれだった。

 ネオは、高校を中退していたし、ノアも不登校気味だった。

 そんな時にオンラインゲームで知り合ったふたりが、全く地球とは違う異世界のこの星で、ノアは学校の寮に入って学んでいる。

 ネオはネオで、この星の文字を独学で学び、本が手に入ると読み漁っている。

 識字率の低いこの国では、本を手に入れるだけでも一苦労なのに、である。


 教科書は落書きするもので、買ってまで本を読むことが無かった地球のネオが、リゲル・ラナの自分を見たらなんて言うだろう?

 自分で自分が信じられないだろうなと思っていた。


 パドラルから一番近いスチュアートリア帝国の港は、ルイスキャロル港だった。

 しかし、帝国軍は、Black(ブラック) Mage( マギ )や黒魔術師、大黒主神教関係者の入国を厳しく取り締まっているとのことだった、

 しかも、ルイスキャロル港は、ブルーフォレスト辺境伯と並び称される勇猛な騎士であるベイリー伯爵領地内であり、ルイスガードナー基地からも近い。

 ルイスキャロル港は帝都から離れているとはいえ、ベイリー伯のお膝元から帝都に入るのは危険だ。

 帝都に一番近いトロアジュ港は、さらに監視が厳しいだろう。

 そこで、トロアジュ港の手前のシルクガード港から潜入させる判断となった。


 デイブスは、ガニバランの命令でノアを帝都に送ってからは、そのまま船に乗り込み一年間船員として働いていた。

 各港で顔を売り、スチュアートリア帝国の商船で船員としての身分を手に入れていた。

 先ごろスチュアートリア帝国全土で早朝に短時間で完遂された「黒い害虫掃討作戦」については、ほとんどの一般の国民に気づかれぬうちに完遂されたので、幻の出来事として一部で噂されている程度である。

 ゆえに、常に船に乗っているデイブスも「黒い害虫掃討作戦」が実施されたことを知らなかった。


 デイブスとガニバランの作戦はこうだ。

 ネオとデイブスたけで、シルクガード港で船を降り陸路で帝都に入る。

 タイミング良く、まもなく帝都の各地で新年の祭りが開催される。

 観光客として帝都に入りやすいその時期を狙って帝都に潜入する。

 港での帝国への入国検査は厳しいが、出国に関しては比較的容易なので、ノアと接触出来たらトロアジュ港に寄港して待つガニバランの船にノアと共に乗る、というものだった。


「でも、ノアが簡単に俺について来るとは思えないけど…」

 と、ネオが言うと


「君には、ジャコバン村に大切な人達が居るんじゃないのかい?」

 と、ガニバランが冷ややかに言った。


 ネオは、ディアネ達マッキンリー家族のことを言っているのだと察した。

 きっとネオが市場にディアネ達に会いに行った時に見られていたのだろう。

 ディアネ達に危害を加えるつもりなのだろうか?


 ネオは、ガニバランのことを好意的に思うようになっていただけにショックだった。

 やはり、Black Mageや黒魔術師は、悪なのだろうか?


「それは、脅し?」

 と、ネオはガニバランに聞いた。


「そう思ってくれて構わない」

 ガニバランはいつもの口調よりも少し厳しい調子で言った。

「我々は、何年もかけ、命をかけて大志の為に動いてきた。今さら計画は変えられない。多くの者を救うには多少の犠牲はやむを得ない」


「多くの者を救う?それはどこの誰…?」

 と、ネオは思ったことをそのまま口に出してしまった。


 するとガニバランは、何を今さらというように言った。

「前に言ったろ?「俺たちはこの大陸に俺たちの国を作る。そして、自分の仲間と家族を移住させるんだ」


 ああ、そうか。

 アモー・ロンド大陸は常に日本の戦国時代のような状況だと言っていた。

 彼らは彼らで、彼らの大義があるのだった。

 しかし、それはネオの大義とは反する。

 ネオはそう思っていたが、今は素直に受け入れるしかない。


「そうだったな。俺は別の星から来た人間なので、まだよくわからないけど、唯一の同星人のノアと再会してみたいので、頑張って探してくるよ」

 と、ネオはなるべく動揺せずに淡々とガニバランに答えた。


 商船を装ったガニバラン達の帆船は、彼の魔力で少し早めにシルクガード港に到着した。

 そして、寄港許可を得ようとしたが、寄港前に積み荷のチェックが有るという情報が入った。

 この船は、実際に商用の積み荷をほとんど積んでいないかったので入港審査をパスすることは厳しいと思われた。

 そこで、船は一旦遠洋に出てから、ノアと共にデイブスが手漕ぎ漁船でシルクガード港の近くの漁村まで行くこととなった。


 デイブスは元漁師の経験を生かし、各漁村に知り合いを作っていたのだった。

 ガニバランが魔法で釣り上げた魚と網を乗せた手漕ぎ船を帆船から降ろし、それにネオとデイブスが乗った。

 海が凪ぎの時を見計らって船を降ろしたのでデイブスは慣れた手つきでスイスイと船を漕ぎ出した。

 船を降ろした場所から漁村は見えなかったが、デイブスは迷わず陸に向けて船を進めていた。


 途中、大きな魚が船の底にぶつかって来たらしく、船が大きく揺れ危うく転覆しそうになった。

 その時、ネオは危険を回避する為に、魔導書で覚えた船を操る魔法を使ってみた。

 なんとか上手く行ったようで、船は転覆しなかった。


 そういえば…と、ネオは思いついたようにデイブスに言った。

「あのさ、デイブス?漕ぐの俺も手伝おうか?」


 デイブスは驚いたように聞き返した。

「おまえ船を漕いだことあるのか?」


「いや無い」


「じゃあ、黙って座ってろ」

 と、デイブスに断られたネオだが続けて言った。

「俺、ちょっとだけ魔法が使えるんだ」


「魔法?」


「ああ、たぶん、船も漕げる」

 ネオは、長い船旅の間に魔導書を読み込み、物体操作の魔法や、魔法で風を読む方法、水の抵抗を低くして船を早く進める魔法を勉強していた。


「ほんとうか?」


「しかも、早く漕げると思う」

 と、ネオが言うので、デイブスが予備のオール二本をネオに渡して言った。

「そんなに言うなら試してみろ」


 ネオはデイブスから渡されたオールを持ち、詠唱を唱えて漕ぎ始めた。

 すると、ネオが全く力を入れていないのにオールが力強く海水を捉えた。

 そして、水しぶきも波も立てずに船がぐんぐん進んで行った。


 デイブスは驚きつつ、

「おいおい、進む方向を間違えるなよ!もう少し右方向だ!」

 と、慌てて言った。


 結局、漕ぐのはネオに任せデイブスは水先案内に徹した。

 そして、帆船から降りてから半時ほどで目的地の漁村に到着した。


「お前、いつの間にそんな力をつけたんだ?」

 と、船を岸に上げながらデイブスが言った。


 一緒に船を引っ張りっながらネオは、デイブスに答えて言った。

「ブロッサン教会までの往復の船旅が長すぎて暇だったので、ちょっと勉強したんだ。前に居た星で多少、物の理(ことわり)も学んでたし、多少計算も出来るし、文字も読めたからさ」


 引き上げた船のロープを杭に縛り付けながら

「そうか良いな。字が読めて」

 と、デイブスが言った。


 地球の日本では、字が読めるのも計算ができるのも当たり前だった。

 地球では、勉強が出来る方では無い俺ですら、ここ(リゲル・ラナ)では知的能力が高い方になる。

 今さらながらに、日本の義務教育に有難さを感じていた。


「俺の漁師仲間の家に行って、今日はそこに泊めて貰おう」

 と、船から荷物を降ろしながらデイブスが言った。


「案外、簡単に上陸できちゃいましたね」

 と、ネオは意外にも簡単に入国できた事に驚いていた。


「大きな港は、入国審査があるが、地元の漁師まで毎日チェックされない。漁村までは、めったに監視員も回って来ないから安心だ」

 と、言いながら辺りを見回したが、浜辺にはひとっこひとり見当たらなかった。


 ネオも安心してはいたが、あっさり入国が出来すぎて気が抜けていた。

 実は、帝国内では「黒い害虫討伐作戦」が成功し、帝国内の各陸海軍基地に張られていたTop-Secret(トップシークレット) Surveill(監視)ance Network(ネットワーク)が解除され、各港の監視も緩められたことをデイブス達は知らなかった。


 もちろん、各港の船や人、陸路からの入国に関しては引き続き厳しい審査が行われていた。



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