年の瀬に向けて…それぞれの選択
時にリゲル歴4045年12ノ月。
一年が14ヶ月あるリゲル・ラナもあと三ヶ月弱で激動の一年を終えようとしていた。
ピートやダボシムから聞き出し情報により、今回のBlack Mageの企みがある程度判明した。
これから何をしようとしているのかも、だいだいの予想は出来た。
アランは、この情報を元に皇帝や皇太子、他の重臣と共に今後の対策を話し合うことにした。
一方、帝国神聖力術士養成大学内でも年の瀬に向かい校内は騒がしくなっていた。
「帝国神聖力術士養成大学」の新学期は、新年の祭りと休暇が明けた1ノ月の末である。
昨年入学したリリアーナにとっては、初めての長期休暇だ。
ノアは、昨年は魔導士クラスに居たし、ポリアンナも途中入学だったので、三人とって初めてのミラ・ローズ寮で迎える年末となる。
例年、年末年始の長期休暇には、ほとんどの生徒か実家帰省し家族と共に新年を迎えることが通例だった。
だが、今年は、大学の敷地内で鋼竜の子供を飼育しているのでその担当の生徒たちは帰省すべきか悩んでいた。
また、ポリアンナもブルーフォレスト辺境伯領から連れてきている金鱗竜を連れて帰省するか、帝都内の辺境伯邸に一時的に戻るか、リリアーナ達とミラ・ローズ宮に留まるか迷っていた。
「みんなは、今度の休暇はミラ・ローズに残るの?」
と、ポリアンナが三人に聞いた。
リリアーナとアイラはそれぞれが休暇を待ち遠しそうに
「うん!ミラ・ローズで年を越すつもり」
「わたしも!」
「それで、新年際はレイマーシャロル地区のカーニバルも見てみたいなって思ってるの」
と、答えた。
「ノア君は?」
「俺も、やっと落ち着いたから久しぶりに宿に戻って親父さんの手伝いをするわ」
と、ノアが答えるとポリアンナは、自分の悩ましい状況をみんなに告白した。
「そっかぁ。私は悩み中」
「ここに残って竜たちの面倒を見るか、うちの金鱗竜を連れてブルーフォレスト辺境伯領に戻るか…家族会議中なの」
「ああ、そっか、俺もエディの面倒を見に毎日、大学に来ないとだなぁ」
「他の人はどうするんだろう?」
と、3人が談話室で話しているとHoly Mageクラスの先輩たち通りかかった。
今年度で無事に卒業の許可が出た現寮長のキース、副寮長のプリシラ、そして、時期寮長と副寮長候補のクリストファーとアンナの揃い踏みだった。
すると、先頭を歩いていたキースが四人を見つけて話しかけ来た。
「四人揃ってなんの相談だい?」
と、いうキースの問いかけにアイラが元気に
「今度の長期休暇について、それぞれの過ごし方について話してました」
と、答えた。
「大黒主神教の脅威も無くなったことですし、皆さん安心して自由にお出かけできますものね」
と、プリシラが言うと
「みんなは、年末には帰省するのかしら?」
と、アンナもみんなに尋ねた。
「私とリリアちゃんは、ミラ・ローズ寮に残るつもりです。ね?リリアちゃん」
「はい!私はアイラちゃんと寮に残って新年祭を楽しむつもりです」
と、リリアーナが言った。
アイラとリリアーナがウキウキと答えるのとは対照的に、ちょっと憂鬱そうにポリアンナが
「私は、家族会議中です。竜たちがいるので…」
と、言うと
「そっか、金鱗竜部隊の世話と、鋼竜の子供たちの飼育があるからなぁ」
と、キースはちょっと思案するような口調で言った。
キースが本気で心配してくれるモードになったのを察したポリアンナは、寮長のキースに迷惑をかけるつもりではなかったので慌てて付け加えて言った。
「いえ、うちの竜たちの世話に関しては、我が家の竜専用の飼育担当たちが居るので、ブルーフォレスト辺境伯領から来て世話して貰うことは可能なんです」
「ただ、鋼竜の方は、まだ訓練も途中ですし、担当の係の子達に寮に残って貰うわけにもいかないので、祖父が軍部と話し合い中なのです」
と、ポリアンナは説明した。
すると、ミラ・ローズ寮の寮長であり、間もなく卒業を控えているキースが言った。
「僕は、今年度で卒業になるのだが、レッドリオン総司令官から正式な帝国空軍発足までは、卒業しても大学内で竜部隊のパイロット訓練を続けて、後輩の指導にあたるように言われているんだ」
「それに、僕は母のことで長期帰省したからね」
「今年の休暇は、寮に残るつもりだから僕に出来ることがあったら言ってくれ」
そんなポリアンナとキースの話を聞いていた時期寮長候補のクリストファーが、
「俺もアンナも帰省はしないつもりだから、同じく手伝えることがあれば言ってくれ」
と、言うとアンナが大きく頷いて言った。
「そうよ?出来ることは協力するので遠慮なく言ってね」
そんな先輩たちに続き、ポリアンナの力になりたいノアも
「俺も手伝えることがあれば、なんでも手伝うからね!」
と、言った。
そんな、みんなの話を黙って聞いていたプリシラは、
「私は、帰省させて頂くので戦力外でお願い致しますわ」
と、淡々とした調子で言った。
だが、内心は皆に申し訳ないと思っていた。
皆もプリシラがモントレーヌ伯爵家の令嬢として戻らないわけにはいかない事情があるのを理解していた。
「僕が実家に長期帰省した際には、プリシラ副寮長にはご負担をおかけしたからね」
「今回は、その分を僕が挽回しないとだ」
「プリシラは、帰省してモントレーヌ家の為にお嬢様して来てくれ」
と、笑うと、皆も何も言わずただ頷いていた。
言葉にならない皆の友情が嬉しいく感じるプリシラ嬢であった。
そして、この選択がそれぞれの運命を変えるということを今は、誰も知らずにいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
スチュア・トロア大陸の、北西部に位置するブロッサン国は早くも冬の様相を呈していた。
そのブロッサン国にある『大黒主神教』教会では、スチュアートリア帝国で恙無く遂行された「黒い害虫掃討作戦」の成功を知らぬBlack Mageバドネリアスが、いつに無く非常にいら立っていた。
なぜなら、帝国内へ送り込んでいる黒魔術達からの連絡が、ある日を境にプツリと途絶えたからである。
スチュアートリア帝国各地へ、連絡の為に送った魔鳥は一羽も戻らず、一切の反応が無い。
魔鳥は、呪術に支配された存在なので、Holy Mage達の使徒とは異なり、自らの意思で状況を把握して報告する能力は持たない。
戻らぬということは、届ける相手が見つからず迷っている可能性が高い。
それは、受取手が生存していないか、魔力が遮断された環境に居るということだ。
ゆえに、バドネリアスの不安といら立ちはピークに達していた。
その様子を見ていたガニバランが、八つ当たりをされるのを覚悟で言った。
「バドネリアス様、私がダボシムに使わした魔鳥も行方知らずで、戻って来ていません」
「これは有り得ないことです。おそらくは…」
ガニバランの言葉に頷いて、込み上げるいら立ちを抑えながらバドネリアスが言った。
「ああ、これは帝国内で何かあったということだ」
「考えたくは無いが、我々の計画がバレて何かしらマズイ状況になっているのだろう」
「つまり、何年もかけた我々の計画は失敗したということだ」
バドネリアスは憔悴したようにガックリと椅子に座り込んで、椅子の背もたれに背中をつけて天を仰いだ。
そして、額に手を置きながら言った。
「まあ、過去にもBlack Mage達が何度も試みて失敗していることだ。俺に限った事ではない」
「しっかり計画を練り時間を掛ければ、我々だけでも実現できると思ったのが浅はかだったな」
反省とも受け取れる弱気な発言をして落ち込むバドネリアスを見ながら
「Black Mageが数名力を合わせて挑めれば…」
「せめて、私がBlack Mage並みの力があれば良かったのですが…」
と、ガニバランも力なく言った。
「基本Black Mageとは、我こそが一番!の個人主義の奴らばかりだからな」
「手を携える気持ちがあれば、アモー・ロンド全体が、常に荒れ続けるような事にならぬだろう」
と、自分たちの祖国がある大陸の状況を嘆いた。
「それは、そうですね。バドネリアス様のようなBlack Mageは珍しい」
「だからこそ、我々もついてきたんですが…」
と、ガニバランも残念そうに言った。
そして、しばらく沈黙が続いた後、バドネリアスは思い直したように言った。
「だが、ここで引き返すわけにもいかん!」
「俺は、わが身と刺し違えてでも帝国のGrate Mageに一泡吹かせてやりたい!!」
「だから、例の計画は継続して進める!」
気持ちを取り直して、力強く言うバドネリアスに少し安心したガニバランが言った。
「ですが、バドネリアス様」
「このブロッサン国はスチュアートリア帝国には逆らえません!」
「大黒主神教の教祖であるバドネリアス様が、この教会に居ることが帝国側に伝われば、帝国側からブロッサン国側に大黒主神教を取り締まるよう圧力をかけて来る可能性があります」
「今のうちに、移動された方が良いのではないでしょうか?」
と、ガニバランはブロッサン教会に迫る危機感についてバドネリアスに進言した。
帝国内からの黒魔術師達からの連絡が一斉に途絶えた今、このブロッサンの教会に留まることの危険性を感じていたバドネリアスも
「うーむ。せっかく、あそこまで作り上げたのに放棄するのはもったいないが、やむを得ないな」
と、苦渋の決断をした。
「ネオの話では、やつらはパドラルの教会付近に現れたそうですから、そちらを再利用することが出来るかもしれません」
ネオとノアが引き込まれたあの魔法陣は、やはりBlack Mage達に関連しているようだった。
「そうだな。ここは、ジェイコブ達に任せて、我々があちらに移動するか!」
バドネリアス達は、ブロッサンの教会がスチュアートリア帝国に見つかる前に、パドラルの教会へ移動することにした。
『大黒主神教』の幹部たちの話し合いが行われていた頃、ネオはガニバランから貰った魔導書を使って、脱走する為に必要な魔道具を創り出そうと頑張っていた。
これから北国の真冬を迎えるブロッサン国。
そこから脱出して帝国内に潜入するにはどうしても『魔の森』を抜けるしかなかった。
ネオ自身は、その噂の森に入ったことは一度も無い。
だが、人から聞いた話だけでも、かなり厳しく険しい道のりになることは容易に想像できた。
夏場ならまだしも、これから冬に向かうこの時期にチャレンジするのは、あまりにも無謀であることを百も承知だった。
だが、チャンスは一度しかない。
やつらは、何らかの形でネオを利用しようとしている。
そうでなければ、ネオをここまで同行させるはずが無いからだ。
その前になんとか『大黒主神教』から逃げ出し、スチュアートリア帝国へ入国してノアに再会したい。
案の定、食堂でブロッサン『大黒主神教』教会の者が全員集まっているところで、ガニバランから配置移動の発表があった。
「スチュアートリア帝国の各教会施設に異変があったと思われる」
「よって、計画を変更し、教会本部をパドラルに移す」
「私とバドネリアス様と一部の者はパドラルへ向う」
「残りの者とパドラルから来た者は、このブロッサン教会に残るように」
食堂内は、一瞬ザワザワとしたが教祖であるバドネリアスの命令は絶対だ。
ガニバランの一睨みですぐに、食堂内はしーんとなった。
「それと…」
「ネオは、我々と共にパドラルへ戻るように。以上だ!」
ネオは、「やはりな…」と、思っていた。
そして、再び迷っていた。
今、このブロッサン国から脱出を試みて帝国へ向かうか?
バドネリアス達と共にパドラルへ戻ってから脱出すべきか?
共に船に乗っていれば、さらに彼らの情報を手に入れることができるだろう。
だが、パドラルから帝国へ向かう陸路は、ブロッサンから帝国へより更に厳しい。
ネオは、悩みに悩んでいた。
すると、ガニバランがネオの元に来て言った。
「ネオ、おまえ俺と一緒にスチュアートリア帝国へ偵察に行かないか?」
ネオは、ガニバランの突然の提案に面食らっていた。
「えっ?」
もしや、自分の腹の内がバレているのかと思って焦っていた。
ガニバランは続けて言った。
「バドネリアス様が、帝国内の様子を知りたいそうなのだ」
「それと、出来ればノアを連れ帰りたい」
やはり、彼らの計画にノアは必要な存在のようだ。
「ノアをですか?」
と、ネオは言いながら考えていた。
今、ここを脱走するよりも彼らと共に行動する方が、ノアに会える確率が高くなるのではないだろうか?
「そうだ。それには、お前がノアを説得するが一番適役だろう?」
と、ガニバラン言った。
ネオは、ノアと自分の関係はガニバラン達が思っているほど、懇意な仲では無いと思ったが
「はい、まぁ・・・たぶん」
と、答えた。
地球に居た時は、お互いに顔も知らないオンラインゲーム仲間であった。
実際にお互いの顔を合わせたのは、リゲル・ラナへ転移することになったその日、一度きりだった。
この星に転移してからは、たったふたりの同星人として支え合ってはいたが、性格も感じ方も価値観も考え方も全く違う者同士、すれ違いも多く、一緒に過ごした期間は僅かだった。
それでも今は、どうしてもノアに会いたい。
これは、そんなノアに会える、またとないチャンスだ。
そう思ったネオは、
「わかりました」
と、言ってガニバランとパドラルのジャコバン村にある大黒主神教教会に戻ることにした。
長い船旅を終え、やっとブロッサンの教会にたどり着いたのに、滞在日数が両手にも満たないうちに再び来た場所に戻ることとなった。
地球に居た頃は、手漕ぎボートにすら乗ったことが無かったのに。
こんなに船に乗ることになるとは、海賊になった気分で帰りの船旅を楽しむしか無いなと思っていた。
本物の海賊なら、敵と刃を交えるなど命の危険もあるだろうが、それが無いだけマシではある。
こうして、ネオは再び船の旅に戻った。
今回は、ガニバランに貰った魔導書を使って外気を遮断する魔法をかけた上着を着ていたので、冬の寒い船上でも快適だった。
パドラルに戻る船旅が来た時よりも短く感じたのは、Black Mageのバドネリアスも同行しているからだろうか?
Black Mageクラスになると、天候を読んで航路を選択したり風向きを変えたりすることが出来ると聞く。
Grate Mageともなると、さらに加速の魔法が使えるらしいが、さすがにこんな大きな船を操ることは不可能だろう。
それでも、航海日数は確実に短縮されていた。
パドラルに戻ったネオは、久しぶりにジャンバラン村の市場に向かっていた。
もちろん、ディアネに会うためだ。
久しぶりに戻ったジャンバラン村の市場は、相変わらずだったが、少しだけ活気が無いように思った。
「ディアネ!」
「あ、ネオ君!!」
マッキンリー家族が営む露店の前に現れたネオに気づいたディアネがネオの名を叫んだ。
「おや、ネオ君、パドラルに戻って来たのかい?」
と、ディアネの父親が言った。
「元気そうで良かったわ。心配していたのよ」
と、ディアネの母親も言った。
相変わらずマッキンリー家族は、ネオに優しかった。
「一時的に戻ったんだけど、また出発します」
「今度こそノアに会えるんじゃないかと思ってるので、その前に皆に会いに来たんだ」
「ジャコバン村には変わりない?」
と、言うとネオに対して、マッキンリー氏は言った。
「ネオ君が元気で良かったよ。我々も話したいところだが仕事がある」
「ディアネとふたりでゆっくり話しておいで」
と、父親に言われたディアネは喜んで
「行こう!ネオ君」
と、言ってネオと共にいつもの場所に向かった。
「ネオ君、少し痩せた?」
と、ディアネが言うと
「ほとんど船の上が多くて、食事は限られてたから」
「あちらに到着したと思ったら、ほぼとんぼ返りでこっちに戻ることになったんだよ」
と、ネオが答えた。
「ネオ君、無理してない?私たちの為に無理しないでね」
と、ディアネが心配そうに言った。
「心配してくれて嬉しいよ」
「でも、これは俺自身の為にもやらねばならないことなんだ」
「だから、無理してでも、できるだけのことをする!これは俺の成長の為でもある」
「俺さ、ちょっと前までは、ヘナチョコだっただろ?」
「でも…自分で言うのもなんだけど…俺、少し強くなった気がするんだ」
と、ネオは誇らしげに言った。
「うん!ネオ君、前から男らしかったけど、さらに男らしくなったと思う」
と、ディアネに言われ、ネオは自分から言ったのに少し照れくさくなにった。
「へへ…、ディアネに言われると、やっぱり照れるな」
「でも、俺も、昔の自分より、今の自分の方が好きなんだ」
「間もなくまた出かける。今度こそノアに会える気がする」
「だから、もう少し待ってて、必ずこの村から『大黒主神教』を追い出してみせるよ」
と、力強く言うネオをディアネも頼もしく見ていた。
「ところでさ、市場の活気が少し無い気がするんだけど、気のせい?」
ネオの問いにディアネは少し顔を曇らせて言った。
「パドラルの冬はいつももっと暖かいんだけど、今年は寒い日もあってそれが影響しているのかもしれないわ」
「元々、作物の種類が少ないし他国からの輸入に頼っているけれど、経済が滞っているから品物もあまり入って来ないの」
「あと、スチュアートリア帝国が入国と輸出入の制限をしていた影響もあるのかな?」
スチュアートリア帝国の入国と輸出入の制限。
それは、『大黒主神教』のせいなのだろうとネオは思っていた。
「そうなのか。ディアネ達は何か困っていることないのか?」
と、ネオに聞かれてディアネは、笑顔で答えた。
「私たちは相変わらずよ!豊かではないけれど、日々生活できてるだけで満足よ」
ディアネの答えを聞いてネオは、どこまで本音なのかはわからないなと思った。
だが、今の自分には何も出来ないのでそのまま素直に受け取ることしかできなかった。
そんな非力な自分に不甲斐なさを感じたが、今はまずノアと合流して力を合わせなければならない。
ネオはしばらくディアネと話してから、大黒主神教教会に戻った。
そんなネオの行動をこっそり監視している者が居た事に、ネオは気づいていなかった。
運命の歯車は音を立てて、そのスピードを早めだした。




