「新たな戦いの始まり」 =白、黒それぞれの動き=
いよいよ、スチュアートリア帝国の害虫駆除?プロジェクトが開始された。
Black Mageとそれに準ずる魔導士の動きへのTop-Secret Sur veillance Networkがスチュアートリア帝国内全体に敷かれることにより、帝国に潜む『大黒主神教』教会やその関連施設の実態が洗い出されていた。
それにより、帝国の一般国民が信者となっていたり、黒魔術により洗脳されていたりするということも判明した。
それをまとめているBlack Mageが背後にいるはずなのだが、なかなか尻尾を掴めない。
スチュアートリア帝国軍参謀長官のシオン・ミッシェル・ヴァイオレット・フィールドは、アラン総司令官の期待に応えるべく緻密な計画を立てていた。
まず、一般の帝国民への被害を抑えるべく各大黒主神教教会に信者として密偵を送り込むことにした。
黒魔術によって信者たちを洗脳している可能性が高いので、密偵は魔導士以上の者が選ばれた。
規模の大きな教会にはHoly Mageが、帝都近辺にはHoly Mageの使徒たちが送り込まれ、より確かな情報収集に努め、可能な限り洗脳解呪も試みていた。
帝国神聖力術士養成大学のHoly Mageクラスの生徒の多くは、領地を治める貴族の子息令嬢が多いので、自領地内でもそうした『大黒主神教』と黒魔術師掃討作戦の準備が行われていることを知っていた。
場合によっては、自分たちも領主の子息として掃討作戦に加わる覚悟をしていた。
今、Holy Mageクラスの授業にて、トゥルリー先生がそのことについて生徒に語っている。
「君たちも歴史で学んでいる通り、我が帝国は過去に何度もアモー・ロンド大陸からスチュア・トロア大陸への進出を狙っているBlack Mageの脅威にされされている。過去にBlack Mage達は、この大陸への進出し彼らの国を作るべく、何度も帝国周囲の国からの侵略しようとした。しかし、その野望をことごとく阻んで来たのは我が帝国である」
「しかし、君たちも肌で感じているかもしれないが、今、スチュアートリア帝国は再びBlack Mageとの闘いに直面している。奴らは、過去の失敗から周囲の国への侵略の前に、この帝国を混乱させようと画策しているようだ」
「諸君も、帝国神聖力術士養成大学のHoly Mageクラスを卒業すれば騎士の称号を賜り、帝国軍所属の騎士となるはずだ」
「今は、まだ一般の帝国民には気づかれぬようveillance Network所属騎士たちが密かに動いている段階だが、帝国軍所属のHoly Mage騎士にも限りがある。場合によっては、諸君たちにも能力に応じて協力要請が出るかもしれないので心するように」
「はい!」
Holy Mageクラスの上級生たちは、いよいよかと心を引き締めて答えた。
クリストファーとアンナのふたりも、ルートドリアナ地区で黒魔術師の怪しい動きを耳にして以来、いつかこのような日が来るのでは無いかと思っていた。
「では、本日は黒魔術に対しての防衛術と、魔術で洗脳された者の解呪術について復習と確認をしてもらう」
と、トゥルリー先生が言って合図をすると、帝国軍所属の数人のMage騎士が入室して来た。
「それぞれのグループに分かれて実践練習をしてもらう為、各部署の軍所属騎士に来て貰った。全員私の部下なので遠慮なく質問しながら、練習してくれ」
こうして、Holy Mageクラスの生徒たちは、学徒動員に向けての訓練練習に入った。
一応、Holy Mageクラス所属であるポリアンナも、祖父や兄から直接状況を聞いていたので、いよいよだなと思っていた。
すると、トゥルリー先生がポリアンナに近づいて言った。
「ポリアンナ嬢には、別の仕事を担当して貰いたい」
「えっ?私は、黒魔術師対策の練習はしなくてよろしいのですか?」
と、ポリアンナはトゥルリー先生の言葉に少し戸惑って答えた。
「いや、今日はこの授業を皆と共に受けて貰うが、明日からはWhite Mageの皆を指導する側に回って貰う?」
「私が指導する側にですか?」
ポリアンナは、自分が指導に回るほどの実力があるとは思えなかった。
「そうだ。明日、オスカー卿が、金鱗竜を数匹連れて来る。ポリアンナ嬢のお父上が、調教してくれた竜たちだが、使徒ではないので乗りこなせるのは、君たちブルーフォレスト辺境伯家の者くらいだろう」
「兄上が来られるのですか?」
「そうだ。White Mageの者たちに竜を乗りこなせるように訓練して欲しい。これは、君と君の使徒のクロエの力が必要なのだ」
「わかりました。それなら私にも出来ます!」
と、ポリアンナは、自分の役割を理解して答えた。
「いずれは、鋼竜も調教し、空軍部隊を作る予定だ。これは皇帝陛下やレッドリオン公爵の肝いりの計画なので心して欲しい」
「はい。祖父や父、兄もその為に動いています。私もブルーフォレスト辺境伯一族の一員として尽力致します。
こうして、ポリアンナはWhite Mageの騎竜担当指導者となった。
このように帝都内の黒魔術師と『大黒主神教』への包囲網が迫っているとは知らない黒魔術師ダボシムを中心とするスティビーやピート・ループ達は、ノアやポリアンナに近づきも出来ない事にイラついていた。
「どうなっいるんだ」
と、ダボシムは、スティビーに怒鳴りつけていた。
「すいやせん。ふたりとも帝国軍側に守られてしまったようで、居場所もわかりません」
「なんだと!」
と、机を叩いていらつくダボシムにピートが言った。
「おそらく、ふたりとも帝国神聖力術士養成大学の寮に居るんだと思います。ノアもWhite Mageクラスに昇格したってことでしょうね」
ピートの言葉を聞いて
「はあ?最悪じゃないか!」
と、ダボシムは頭を抱えていた。
「ガニバランさんになんと報告すれば良いやらだ」
「でも、このレイマーシャル地区に限らず、各地区の計画も思うようには進んでいないんじゃないですかい?」
「それはそうだが…」
「占いや魔術を使って金を貰うと捕まるので、資金不足に陥っている教会も増えていると聞きますぜ」
アラン達、帝国軍の『大黒主神教』施設の掃討作戦はじわじわと彼らの首を絞めていた。
「うむ。とりあえずガニバランさんには、正直に現状を報告しよう」
Black Mageバドネリアスの腹心の黒魔術師ガニバランは、ブロッサン国の『大黒主神教』教会からパドラルのジャンバラン村に居た。
そう、ネオの居るあの『大黒主神教』教会である。
ネオは、あれからもジェイコブ神父と息子ハンスの元、信者として働いていた。
地球から転移して来た頃は、インドアのゲーマでひょろひょろだった体型も、森での狩猟、海での漁、作物を育てる農業で鍛えられ、すっかり男らしい体型になっていた。
また、一年中気温が高めのパドラルでの生活で身長もスクスク伸び、肌も日焼けして浅黒くなって、まるで別人のようになっていた。
魔法の習得に関しては、ノアのように学習状況が整っているわけでは無いので、ノア程の目覚ましく伸びることはなかったが、それなりに黒魔術を身に付けていた。
黒魔術は攻撃系のものが多かったので、血の気の多いネオには向いているように思えた。
ノアが居た頃は、市場に作物や工芸品を売って金銭を得る仕事はノアの仕事だったが、ノアが逃げ出してからは、時々ネオが市場に行くようになっていた。
ノアが市場の人たちと親しくしてくれていたおかげで、市場の露店の人たちもネオには親切にしてくれた。
中でも、草や木で編んだ籠や木彫りの入れ物等を売っているマッキンリー家族は、なにくれとなくネオを気遣ってくれた。
マッキンリー家族は、ネオがノアの代わりに初めて市場に露店を出した時に、隣に店を出していた。
ひとりで、あたふたしているネオになにくれと気をつかってくれた。
そんな時に突然のスコールで商品がスプ濡れになってしまった時に、ネオが黒魔術で乾かしてあげた事がきっかけで、ぐんと距離が縮まった。
その家族のひとり娘のディアネとは気が合って、昼時に一緒にランチをする仲になっていた。
ディアネは、地球にはいないような素朴で素直で可憐な少女だった。
「ネオ君、今日はお弁当作って来たの。ネオ君の分もあるよ」
と、ディアネがお弁当の入ったバスケットを持ってネオに言った。
「へぇ~、お弁当?ディアネが作ったの?」
と、ネオは嬉しそうに言った。
「うん!お母さんと一緒にね!ネオ君にも食べて欲しいから早起きして作ったの」
「ありがとう!」
ネオは、素直に感謝の言葉を述べた。
心からこの言葉を言うのは、いつぶりだろう?
ネオは、この市場での仕事が今は一番好きだった。
正直言って『大黒主神教』教会での生活は、以前ほど楽しくは無かった。
むしろ苦痛だった。
最初の頃は、地球に居たら経験が出来ないことを経験することが出き、新しく色々な能力を身に付けられることが楽しかった。
だが、『大黒主神教』という宗教組織の実態を知ってからは、居心地が悪くて仕方なかった。
「なんで、ノアと一緒に逃げ出さなかったんでろう?」
と、後悔していた。
昼過ぎに客足が途切れる時間頃にディアネの母であるマッキンリー夫人がネオに
「私が店番しててあげるから、ディアネと一緒にお昼食べておいで」
と、声をかけてくれた。
ネオは、お言葉に甘店番をマッキンリー夫人にお任せして、ディアナと昼食をとることにした。
市場がある通りから少し外れた小高い丘の木の下にふたり仲良く座っていた。
「はい、ネオくん」
ディアネはバスケットから、パンに野菜や肉を挟んだサンドイッチのようなものを取り出してネオに渡した。
「うわ、うまそう」
ネオは、パンを受け取って言った。
「なんか懐かしいなぁ」
ネオは、地球で食べていた総菜パンを思い出していた。
ディアネは。不思議そうな顔をしてネオの横顔を見つめていた。
「ネオ君、聞いてもいいのかなぁ?」
「なに?」
ネオはパンに食いつきながら答えた。
「あの、ネオ君ってあそこの教会の人なんだよね?」
「うん」
ああ、このジャンバラン村の人には、『大黒主神教』ってあまり良いイメージは無いはず。
なのにマッキンリー一家は、最初から俺に優しかったなと持っていた。
「ネオ君ってノア君の知り合い?」
「えっ?」
なぜ、ディアネがノアのことを知っているんだ?
「ディアネ、ノアを知っているの?」
「うん。私が転んで着こんでいた商品を道にバラまいちゃった時に拾って、店まで運んでくれたの。膝をすりむいてるって自分の持っていた布を割いて巻いてくれたりして。でも、突然いなくなっちゃったんだよねぇ」
と、いうディアナの話を聞いてネオはノアらしいなと思っていた。
「ノアは、俺が神父様たちと船で布教活動に出かけている間に居なくなってたんだよ。どこに居るんだろうなぁ」
「そうなのね。ネオ君はずっと教会に居るの?」
「居たら駄目?」
ノアの返事に困った表情のディアナは
「こめん。そんなことないよ。ネオ君にはずっとここに居て欲しい」
と言った。
「でも…居て欲しいんだけど、あそこの教会の評判聞くと心配になるの」
ディアナは本当に心配そうな顔でネオを見つめた。
ネオも彼女の言いたいことは理解していた。
「ああ、村での評判が悪いのは知っているよ。それなのに君たち家族や市場の人は、俺に親切にしてくれるのはなぜ?」
ネオは、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。
「初めはね。ノア君のお友達だからって感じだったの」
「市場の人たちはノア君にお世話になった人もいて、みんなノア君には好感を持っていたのよ」
「そのノア君が、『僕の代わりにネオって人が来ることがあったらよろしくお願いします』って言っていたのよ」
ネオは、初めて聞く話だった。
ノアが自分に黙って、居ない間に消えていた事を恨む気持ちがあった。
あの時の自分は、自分の事しか考えていなかったのに、ノアはちゃんと自分のことも考えてくれていたんだ。
「最初はね、ノア君に言われていたからって人も多かったと思うけれど、今はみんなネオ君自身のことを見ていると思うわ」
「少なくとも、私やお父さんお母さんは、ネオ君だから親しくしているのよ?」
と、ディアナがにっこり笑って言った。
「そっか、嬉しいな」
と、ネオは言った。
「やっぱり、あの教会に居るってことで、俺を警戒する人もいるよね?」
「ええ、そういう人も多いと思うわ。ノア君とネオ君以外の教会関連者に対しては、みな警戒しているもの」
とディアナは厳しい表情で言った。
ネオは、既にわかっていた事であったが、現実を突きつけられて久しぶりに悩んでいた。
地球では、嫌なことがあるといつも逃げていた。
誰かがなんとかしてくれると思っていることも多かった。
だが、ここに来て、目の前に与えられた課題をクリアしなければ死活問題で、頑張るしかくなくてここまで来た。
しかし、今、自分の生きる場所を選択しなければいけないような気がする。
「俺もね、あそこに居てはいけない気はしているんだが、逃げる場所が無いから仕方なく居る感じなんだよね。今は、ノアと一緒に逃げれば良かったと思っている」
と、本音を打ち明けた。
「そっか、変な事を言ってごめんね。私は、ネオ君とずっとこうして居たいんだけれど、ネオ君の為には、あそこに居たらいけない気もしているの」
「うん。君の気持ちはわかるし有難いよ」
と、言いながらネオもなんとかしなければならない時期に来たように思っていた。
「あのさ、村の人にあの教会って迷惑かけてる?」
ネオは、今まで目を背けていたことを見ようと思った。
「ええ、あそこの教会の信者に取り込まれた人は、人格が変わってしまって家族に暴力を振るうようになったり、家のお金を教会に全部募金しちゃったりと 信者になって家庭が崩壊した人もいるみたい」
それは、ネオは、薄々知っていることだった。
「そっか、他にも色々悪い噂はあるよね?」
「ええ、なのに信者が増えていて不気味なの。みんな怖がっているわ」
「そっか、ごめんね。なのに、みんな俺には優しくしてくれて…俺がなんとかできればいいのに」
「いいえ!ネオ君は無理をして危険なことはしないでね!何かあったら逃げて欲しい」
と、ディアネは懇願するように言った。
ネオは、本気で自分のことを心配してくれるこの娘を愛おしく思った。
そして、村の為に自分が何か出来ないのか?と本気で思っていた。
そんな気持ちで、『大黒主神教』教会にネオが戻るとジェイコブ神父が言った。
「ネオ、再び布教活動に出かけるぞ!ついて来るか?」
ネオは、今回は残って、神父達が居ぬ間に逃げ出そうかと考えていた。
「また、船で行くんですか?」
と、ネオが尋ねると
「そうだ。船で行く」
「どこへ行くのですか?」
ネオの質問に神父に答えて言った。
「ブロッサン国からスチュアートリア帝国内に入る。ノアもきっと帝国内に居るぞ?」
神父の言葉を聞いてネオは、悩んだ。
残って、神父達が居ない間に逃げですか?
逃げ出しても、逃げて行く場所が無い。
神父達に付いて帝国内に入って、そこで逃げ出すか?
例え、帝国内に逃げ出しても行く場所は無い。
ノアが、帝国内に逃げていたとしても広い帝国のどこに居るかもわからない。
でも、なぜ神父は、ノアが帝国内に居ると知っているのだろうか?
「神父様はノアの居場所を知っているのですか?」
「だいたいの居場所はわかっている。帝国内の『大黒主神教』からの情報があるからな」
『大黒主神教』側はノアの居場所を知っているということは、ノアを捜しているということでもある。
ノアが危険にさらされているのだろうか?
ネオは、ノアのことも気になったし、自分がノアを助けられるのでは無いかとも思った。
ネオは、腹を決めて言った。
「いつ出発ですか?」
「帝都に入るのは簡単ではない。色々と準備もあるので二週間後くらいになる」
「わかりました。俺も準備します」
ネオの頭には、ディアネの自分を心配する顔を浮かんでいた。
自分が、神父達と布教に出かけたら、信者として行動したと思うだろう。
もしかしたら、このままパドラルに戻れないかもしれない。
ネオの心は揺らいでいた。




