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Beyond of cosmos = 星巡りの物語 = リゲル・ラナ編  作者: 詩紡まりん
地球編 2023年~リゲル歴4044年「ふたつの星の狭間」

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3/16

オレたち、タイムスリップ?…したのか?


 この国には珍しい服を着たふたりの若者が海で釣りをしていた。

 まだふたりとも若く、ひとりは色白で黒い目に黒い髪、ひとりは根本が少し黒くなった金髪で両耳にピアスをしていた。


「おい、釣れたか?ノア」

「うんん、さっぱりネオ君は?」

「いや、俺もだ。おまえは釣りしたことあるのか?」

「小さい頃に、釣り堀でやったくらいかな」

 浅瀬の海に糸を垂らしながら、海を見つめてネオが言う。

「俺もだ」


「海って波があるし、魚も見えないよな?ほんとに魚いるのか?」

「あ、ネオ君、なんか引っ張られてる感じがする」

 ノアの釣り糸がピンと張って、水の中に引っ張られクルクルと回っていた。


「おっ、引いてみろ!ノア」

「ネオ君、凄い引っ張られるよ、糸切れそう」

 ノアは、ピンと張った糸に釣り竿を持っていかれそうになるのを必死で抑えながら叫んだ。

「待ってろ!」


 ネオは、自分の釣り竿を置いてノアの竿を一緒に持った。

「糸が切れそう…」

 ノアが不安そうに言った。

 ネオは、竿から手を離して、海の中に入りながら糸を手繰り寄せた。

「ノア、お前はそのまま竿を持って陸へ上がれ、おれが糸を手繰り寄せる」

「うん。ネオ君、糸で手を切らないでよ」

「だいじょうぶ、軍手ある」

 ふたりは、悪戦苦闘しながらも、大きな魚を釣り上げた。


「やったね!ネオ君」

「これ、なんて魚だ?」

「見た事ないねぇ。なんか深海魚みたいな魚」

「食べられるのかなぁ?」


 ふたりが釣り上げた魚を見つめて戸惑っていると、漁師らしき男が近寄って来た。


「やべ。あそこの小屋から釣り竿パクって魚捕ってるのバレた?」

「え?また逃げないと?」

 と、ふたりが焦っていると、漁師らしき男が近づいて来て言った。


「その魚は、魔魚だから食ったら、腹壊すぞ?」

 と、男が言った。


「魔魚?何それ?焼いても駄目なのか?」

 と、ネオは魚の口を持って言った。


「お前ら、魔法は使えるのか?魔法で無毒化すれば食べられるが、そいつは、ウマイ魚じゃないぞ?黒魔術の生贄になら使えるけどな」


 ネオとノアは、頭の中が「(はてなマーク)」だらけだった。


「魔法?」

「黒魔術?」

「生贄?」

 ゲームの中でしか聞いたことのないワードばかりだった。


「ノア、おれたち転生したのか?」

「いや、ふたり一緒に同じところに転生は無いと思うし、ネオ君はネオ君のままだよ」

「そうだよな。ノアはノアのままだ。つーことは…」


 ふたり声を合わせて言った。

「タイムスリップ?」

 それぞれの顔を見合わせながらうなずいてから、その男に聞いた。

「ここってなんていう国ですか?」

「今日は、西暦何年ですか?」


 すとる男は、不可解そうな顔をして答えた。

「ここは、パドラルって国だ。今年はリゲル歴4044年だ」

 男の答えを聞いてふたりは、再び顔を見合わせた。


「パドラルなんて国、聞いたことある?」

「リゲル歴なんてあった?」

 ネオもノアもやはり、どこか知らない国の知らない時代にタイムスリップしたのだと思った。


「とりあえず、例の男たちに追われる心配は無くなったね」

「ああ、良いんだか、悪いんだかだな」


 ふたりが、ごちゃごちゃ話しているのを見ていた男が

「お前たち、変な服着ているから、別の国から来たんだろ?船でも沈没して流れ着いたか?」

 と、聞いてきた。

 とっさに二人は、男の言った設定に合わせようと思い同時に

「はい」と、答えた。


 男は、

「潮の流れの関係から、このジャンバラン村に漂流者が流れ着くことはよくあることだ」

 と、言いながらふたりに付いて来るように言った。

 ネオとノアは、渡りに船とばかりに付いて行くことにした。


 ふたりが連れて来られた先は、何かの作業小屋のような教会のような建物だった。

 そこには、数人の男たちがいて食事をするところだった。


「遅かったな」

 男たちのリーダーみたいな男が言った。


「帰りに変な男を見かけたので連れて来ました。異国からの漂流者みたいです」

「そうか」

 リーダーらしき男は、ネオとノアをじろじろと見た。


「お前たちは、どっから来た?」

 ネオとノアは、ついさっきまで追いかけられていた恐怖と、脅されていたことを思い出して、逃げるべきかとドギマギしていた。


 すると男は、ふたりが怯えていると察して優しい声で言った。

「まあ、事情は後でゆっくり話せばいい。ハラ減ってんだろ?一緒に食っていけ」

 そう言ってテーブルに招き入れた。


 ふたりを海岸から連れてきてくれた男が、

「ほら、安心して一緒に食べようぜ」

 と、言ってふたりをテーブルに連れて行き、スープとパンをくれた。


 ふたりは、腹ペコだったのでありがたく頂いた。

 スープは、魚介の出汁が効いていて具の魚や貝も美味しかった。

 魚介のスープにパン?と思ったが、不思議と合う気がした。


 ふたりともペロリと平らげてしまうと、男がおかわりをすすめた。

 少し遠慮がちに

「もうだいじょうぶです」

 と、ノアが言うと、

「若いんだから遠慮するな」

 と、言うともう一杯ずつ、お椀にてんこりもりに盛られた魚介の汁を渡してくれた。


 ふたりを連れて来てくれた男はハンス。

リーダーとみられた男はハンスの父親でジェイコブと言った。

 ジェイコブは、漁師兼教会の司祭だそうで、今日は信者に施しをしていたとのことだった。


 お腹がいっぱいになったふたりは、ハンスに連れられて遠方からの信者が寝泊りする別棟の施設に案内された。

 その途中、夜空を見上げたネオとノアは、この星が地球では無いことを悟った。


 なぜなら、夜空に月がふたつあったのだ。

 ひとつは下の方の満月に近い大きな月で、もうひとつは高い位置にある三日月だった。


 ハンスに尋ねると、ここはリゲル・ラナという星で、ここパドラルという国は、スチュア・トロアという大陸の西方下の小国であるらしい。

 リゲル・ラナ星にはいくつかの大陸があり、中でも一番大きなスチュア・トロア大陸の大半を占めるチュアートリアという帝国が君臨してるらしい。


 そのスチュアートリア帝国の西に、「ブロッサン国」「エド・ロア王国」「マニ・トバール」「パドラル」という四つの国があり、ネオとノアは今、このパドラルという国にいた。


「ブロッサン国」「エド・ロア王国」は、王が統治するひとつの国家であるが、「マニ・トバール」「パドラル」は、小さな小国が集まった集合体のような国で、統一された一国家の体を成していなかった。

 比較的温暖で土地としても豊かで、海の幸も捕れるマニ・トバールは、部族同士の小競り合いはあるものの比較的安定した国だったが、その隣のパドラルは国として不安定であり貧しい村が多い。

 そんなパドラルの海岸に近いジャンバラン村にある教会に、今、ふたりは身を寄せていた。


 この星では、電気やガスも無い代わりに魔法が使えるらしい。

 ハンスの父ジェイコブ神父も魔法が使えるとのことだった。


 生き物にも魔力を持っている「魔物」と呼ばれるものもいるとかで、それらは魔法で魔力を無効化させずに食べると、地球で言えば、フグや毒きのこを食べた時のように体に影響を及ぼすから注意するようにとのことだった。


 ふたりは、行くところも無いし、この世界のこと知らなければ何も出来ないと思い、しばらくここで働かせて貰いたいと考えた。

 幸い、教会なので、信者を寝泊りさせる施設もあり、しばら置いて貰えることになった。


 地球では、不登校で、引きこもりで、ゲームばかりしていた高校生のノアも、高校を中退してバイトをしても何ひとつ続かなかったネオも、ここでは不思議と普通に生活できていた。

 ハンスの手伝いで畑を耕すのも、海で釣りをするのも、井戸で水を汲んで洗濯するのも、食事を作る手伝いも、上手くできないことも多かったが、それほど苦では無かった。


 作業は、泥だらけになったり、力を要したり、肉体労働も多かったが、時計も無いこの村の生活では、地球よりも時間がゆっくり流れているようで、せかせかする必要が無く、のんびりマイペースに作業が出来た。

 日が昇ったら起き、日が暮れたら食事をして風呂に入って寝る。

 昼間の肉体労働で心地よく疲れており、お腹いっぱいご飯を食べてベッドに入るので、すぐにぐっすり眠れた。


 覚えることも多かったが、学校の勉強のように机に座って、お経のような先生の話を聞く必要は無い。

 ひとつひとつ教わりながらやってみて、わからなければ聞く。

失敗したら、また聞いてやり直す。

それが、この星での学びだった。

 何のバイトをしても続かなかったネオだったが、自分が育てた作物が収穫でき、それを食べた時には感動した。

 地球に戻れたら、農家をしてみたいと思ったほどだ。


 ノアも、あんなに上手く釣れなかった魚も上手く釣れるようになっていた。

 しかも、ここにはリールなんて便利なものは無く、針も骨の釣り針を使用しているのに、それぞれの魚の習性を上手く利用していることに感心した。


 ふたりが、何よりも興味関心を持ったのは「魔法」だった。

 この星には、魔法が生きているとかで魔法という言葉が度々出て来る。

 どうやら、修業を積めば魔法が使えるようになる者もいるらしいのだ。

 ネオも、ノアも、「魔法」に非常に興味を持っていた。


 そんな暮らしがたいぶ過ぎた。

 時計も無いし、スマホもとっくに充電切れで、どれだけの日数が経過したのかわからなかったが、ネオもノアもすっかり、ここの暮らしに慣れた。

 地球では、ほとんどオンラインゲーム上の友達しか居なかったふたりだったが、すっかり村の人と打ち解けていた。

 あんなに毎日夢中でやっていたゲームができなくなっても、スマホが使えなくなっても全く気にならなくなっていた。

 ただ、毎日生きるために作物を作り、魚を釣り、時折、山や森に木の実や山菜を採りに行く日々だったが、飽きることはなかった。


 ある日、ハンスがふたりに言った。

「そろそろお前たちも山で獣を狩ってみるか?」

 ネオもノアも、まだ狩りには連れて行って貰ったことはなかった。

「その前に、武器の使い方を覚えないとな」

 そう言ってハンスはふたりに弓と矢の作り方から教えてくれた。


弓と矢ができると、今度は木の株で作った的に当てる練習からだった。

最初は、なかなか的に当たらなかったが、ふたりとも楽しくて夢中で練習した。

 ネオは、以前サバゲ―なるものをやった事があるが、銃ではなく弓矢も楽しいように思えた。

 何よりも自分で作った武器で獲物を狙うと思うとワクワクした。


 ノアは、的に矢を当てるのは楽しかったが、元々動物が好きだったので動物を殺すのはちょっと胸が痛む気がして嫌だった。

 そして、なぜか闇バイトで老人を襲わされた時のことを思い出してしまっていた。

 彼は、心優しき男だったので、他人を傷つけてまで自分が良い思いをしたいとも思わないし、誰かを踏み台にしてまで出世しようなんて思わない性格なのである。


 しかし、人間は家畜を殺して食する生き物である。

 家畜がいなければ、ジビエを食するのも止む無しなのだろう。

 ハンスも一生懸命教えてくれたし、ネオもやる気満々である。

 自分だけ、「狩りはしたくない」「行きたくない」とは言えなかった。


 そして、いよいよ山の中に入って狩りをすることとなった。

 ターゲットは、地球でいう、うさぎや鹿のような動物だった。

 うさぎを飼っていたこともあるノアは、うさぎだけは狙いたくなかった。


 ノアは、ふたりがうさぎのような動物を追っていく後姿を見送りながら、ふと自分たちが飛ばされて来た魔法陣がある洞窟を思い出していた。

「確か、この辺りだったような…」

 ノアは、魔法陣のあった洞窟を捜してみたが、見つからなかった。

 それどころか、山で迷子になっていた。


 どうしたのものかと途方に暮れていると、遠くからノアを呼ぶネオの声が聞こえた。

「ノア―!どこだー!」

「ネオくーん。ここだよー。どこー?」

 と、ノアが叫ぶと間もなくハンスとネオの声が近づいてきた。

「ごめん、迷っちゃった」

「だめじゃないか!まだ山に不慣れなんだから、しつかりついて来ないと」

 と、ハンスに叱られた。

「ごめんなさい。よそ見してたら遅れてしまって」

 と、ノアはふたりに謝った。


「今日は、俺たちしか山に入ってないみたいだから良いが、他に猟に入っているグループがいたら、流れ矢に刺さることもあるから気をつけろよ」

 お怒りのハンスに謝るノア。

「はい、すみません」

 すると、得意げにネオが

「まぁ、いいさ、ほら!」

 と、獲物のうさぎのような動物を見せた。


「あ…」

 ノアは、うさぎ似た姿の獣の死骸を見せられて声が詰まってしまった。

 ハンスも、もう一匹の獣を仕留めていた。

 自分も一緒に居たら、この獣を矢で打って殺していたのだろうか?

 ノアは、心の中ではぐれて良かったと思っていた。

 そして、それまではここの生活も悪くは無いと思っていたが、やはり元の世界に戻りたいと思ってしまった。


 一体自分は、どうしてここに居るのだろう?

 どこから間違ってしまったのだろう?

 あの魔法陣で呪文を唱えたら元の世界に戻れるのだろうか?


 ノアは、あの日のことを思い返していた。




挿絵(By みてみん)

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