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Beyond of Cosmos =星巡りの物語=リゲル・ラナ編 第一部  作者: 詩紡まりん
リゲル歴4044年「ふたつの星の狭間」

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第2話 『時の扉』の歯車が揺れた日

 天の川銀河太陽系第三惑星、地球(テラ)。

 西暦2000年代のとある年、日本。


 世間で「闇バイト」というワードが、まだ耳に新しいものだった頃。

 黒洲田音緒(くろすだねお)は、スマートフォンの画面を見つめながら迷っていた。

「簡単で高収入!」という触れ込みに惹かれて、バイト募集に応募してみたものの、なんとなく嫌な予感がしたからだ。

 仕事内容は、マーケティングリサーチというもので、自宅に居ながらアンケートに答えれば良いというものだった。


 ただ、その際に個人情報を登録しなければならないというのだ。

 自動車免許証か、パスポート、健康保険証等の公的な身分証明書、学生なら学校の学生証の写真を送らなければならなかった。

 それが正しいと確認されるとアンケートが送られ来るという。

 そのアンケートに答えて、5日間毎日返信するだけで20万円貰える。

 アンケートに答えるだけで、日当約4万円だから、かなり楽で効率の良いバイトだ。


 音緒(ねお)は、悩みに悩んだ末、ひとりでやるのは不安なのでオンラインゲーム仲間の「ノア」を誘うことにした。


「ノア」こと本名、白峰(しらみね)希空(のあ)は、初めは断っていたが、「ネオ」があまりにもしつこく誘うので、メールでアンケートに答えるだけならと、引き受けることにした。

「ネオ」こと黒洲田音緒(ねお)は高校を中退していたが、バイクの免許を持っていたので、それを身分証明書として送った。

 希空(のあ)は、不登校ぎみではあったが、高校にはまだ在籍していたので学生証を送った。


 音緒には、翌日にそのアンケートが送られて来た。

 一方の希空には、三日ほど遅れてアンケートが送られて来た。

 どちらのアンケートも一日目、二日目…と、似た内容のアンケートだった。

 マーケティングリサーチということで、食品や衣料品、家電等の各メーカーについて自分の好きな商品を選んで、好きな理由や買わない理由等を記入する一般的なものだった。


 一日100問程度の質問になっており、ほとんどが番号から選んだり、複数回答可でチェックをつけたりするものだったが、理由を記述しないと先に進めないものもあって、ある程度の時間を要した。

 これだけで20万円貰えるのだからと思い、ふたりともそれなりに理由を考えて答えた。

 時折その中に、これは必要なのか?と思うような質問内容も含まれていたが、質問数が多いので、あまり気にせず答えた。


 先にアンケートが送られて来た黒川音緒は、五日目のアンケートを答え終わった。

 すると、相手先から、「ご苦労様でした」というタイトルのメールが届き、バイト料を取りに来てくださいという連絡が来た。

 交通費込みで支払われるということなので取りに行った。


 そこは、雑居ビルの一室で、デスクと机とロッカーしかないガランとした部屋だった。

 名前を言うと、210,000円を渡された。

  一万円は、交通費だという。


 音緒より3日ほど遅れてアンケートが送られて来た希空の方も、同様にバイト料を受け取り行った。

 音緒も希空も、こんなに簡単にお金が稼げるバイトなら、もっとやりたいと思った。


 それから二週間後、ふたりにほぼ同時に高額バイトが見つかる「バイト捜しアプリ」の宣伝が届いた。

 このお勧め無料「バイト捜しアプリ」を登録した者にだけ出来るバイトがあるということだった。

 ふたりは、無料のアプリを登録するだけなら問題ないと思い、気軽にアプリをダウンロードしてみた。


 すると、以前バイトに登録した者は、バイト料10%アップとあり「あなたはバイト料10%アップの資格があります」との表示が出ていた。

 どうやら、以前やったバイトの関連企業らしかった。

 再度、登録し直し、身分証明の写真を撮って登録すると早速お勧めのバイトが表示された。

 今回は、自宅で出来るものは、独居老人を見守りカメラでの安全監視、個人宅の様子を監視して危険があった時に通報するセキュリティ会社の手伝いの仕事を中心に、企業間の書類やデータの配達や受け渡し、軽作業手伝い等であった。


 音緒は、高校を辞めてから色々なバイトをやってみたものの、どのバイトも長くは続かなかった。

 希空も半引き篭もり生活なので、屋外に出て働くのは気が進まないインドア派だったので、ふたりともセキュリティ会社の仕事をやることにした。

 すると、セキュリティの仕事の為、別のアプリを登録するようにと指示があった。


 音緒が、そのアプリを登録すると、とある老人宅のリアルタイムの画像が映し出された。

 この画像を観察し、一日の行動を記録し送るというものだった。

 危険だと思った時は、記録し、このアプリの【通報】をタップしてセキュリティ会社に知らせるというものだった。


 音緒は、「ずっと、ジジィを見てるだけなんて、だりぃ~」と思ったが、3時間交代で、一日6時間やって18万円貰える、時給三万円の仕事なので、仕方ないなと思った。

 希空も、とりあえず、やって見るかと思った。

 一日やってみると、音緒が担当した老人も希空が担当した老人も、一人暮らしの高齢の老人なんて、そんなに動くものでもなく楽な仕事だなと思った。


 そんな日々が数日過ぎた頃、音緒と希空は、バイト先からバイト料を取りに来るように連絡が来た。

 ふたりは、前回行った会社のビルへ行った。


 今回は、前回に行った時とは別の大きな部屋に通された。

 そこには、自分たちと同じような数人の若者と、人相の悪い男たちが数人いた。

 音緒と希空は、オンラインゲームで知り合った者同士なので、お互いの顔を知らなかった。

 ただ、今日、バイト料を受け取りに行くことは話し合っていたので、この中にお互いが居るはずだと思っていた。


 バイト料を受け取りに来た者たちが部屋で待っていると、そこに数人のいかつい男たちが入って来た。

 そして、髪型をきっちりと決めて眼鏡をかけた先頭のスーツの男が言った。

「今日お集まりの皆さんには、これから一仕事をお手伝い頂きます。今日の分の仕事が終わってから、今日の分の日当20万円をプラスした全ての報酬をお支払いします」


 その場に居合わせた者たちは、お互いに知らない者同士であったが思わず顔を見合わせた。


 そして、勇気あるひとりが言った。

「あの、今までのバイト料を貰いに来ただけなので、今日は仕事をしないで帰りたいです」


 すると、それまで穏やかな口調で話していたそのスーツの男が、語気を強めて言った。

「断ることは出来ない」


 そして、スーツ男の横に立っていた、かなり人相が悪いガタイの良い男がすごんで言った。

「お前らの住所や、仕事先、学校、家族についての情報は全てわかっている。それがどういう事かわかるよな?もし、お前らが逃げたら、家族にも被害が及ぶと覚悟しろ!」


 その言葉を聞いて、集められた者が全員、心の中で「しまった」と、思っていた。

 音緒と希空も心の中で

「もしかしたら、これが闇バイトってやつか!」と、思っていた。


 どうやら、ふたりが監視していた老人は、彼らのターゲットらしかった。

 音緒も希空も、まだ車を運転した経験がなかったので、実働部隊としてハンマーやレンチを渡され、老人を締め上げて、金庫を破って金を盗む係を命じられた。


 ふたりは、そんなことはしたくなかった。

 だが、やらないと自分たちの命も危うい。

 もし、逃げたら家族に被害が及ぶ。

 やりたくない、逃げたい…でも逃げられない。


 そんな思いが、心の中でぐるぐる回ったまま、同じくバイトと称して集められた者と共に、闇バイト仲間が運転するレンタカーのワゴン車に乗せられていた。

 運転手の男は闇バイトの経験者らしく、今回が初めてでは無いようだった。


 音緒は、いかにも高校生っぽい隣の男に小声で話しかけた。

「お前オンラインゲームやってる?」

 すると、高校生らしき男は答えた。

「うん…ネオ…くん?」

「ノアか?」

「うん…。」

 音緒は希空だと確認して少しホッとした。

 ノアも知り合いを見つけて少し気が楽になった。


 しかし、本当に老人の家に押し込んで、強盗働くのかという恐怖はぬぐえなかった。

 そんな不安に駆られる中、ふたりを乗せた車は一件目のターゲットの老人宅に到着した。


 どうやら、今日中に回る家は三軒あるらしい。

 その中には、音緒と希空が監視、観察させられていた家も含まれている。

 監視カメラで見ていたので家の中の間取りはわかっていた。

 金庫が置かれている場所も確定されていた。


 セキュリティ会社と契約していると安心している老人宅は戸締りも緩く押し入るのは造作も無い。

 しかも、そのセキュリティ会社が強盗達と繋がっているのであるから防ぎようも無かった。

 押し入って、老人を縛り上げて金庫の暗証番号を問いただし、言わなければ暴行を加えてでも履かせろとの指示だった。 

 タイムリミットは5分。

 5分で盗めなかった場合や抵抗した場合は、相手を殺しても構わないので金庫ごと持って逃げろとのことだった。


 1件目のターゲット宅に着くと、レンタカーのワゴン車に運転手を残し、6人で家に向かった。

 窓の鍵の部分をレンチでたたき割り鍵を開けて、その窓から侵入。

 ターゲット宅の中に入ると、そこは希空の見覚えのある部屋だった。

 1件目のターゲット宅は、ノアが監視させられていた老人宅だった。

  経験者と思われる男の押し殺した「いくぞ!」という声とタイムウォッチを押す音が小さく聞こえた。


 希空と音緒以外の男たちは、ふたりよりも少し年上の男たちで、彼らは躊躇することなく驚く老人の口を塞いで、指示役から渡されたロープで老人を縛り上げた。

 そして、猿轡《さるぐつわ》にするタオルを片手に老人から金庫の番号を聞き出そうとした。


「おい、じぃさん、金庫の番号は?」

 そう言われた就寝前のパジャマ姿の老人は首を横に振った。

 そして、その男が老人に殴りかかろうとした時、すかさず希空が

「おれ番号わかります」

 と、言った。


 希空が監視中、たまたま老人が金庫を開け閉めした時が有った。

 誰も居ない自室なので老人も油断していたのだろう。

 金庫のダイヤルを回しながら金庫の番号を声に出して言っていたのである。

 それを希空は個人情報だと思いセキュリティ会社には報告していなかったが、記憶力の良い希空は番号を記憶していたのである。

 希空は、軍手をしたまま金庫のダイヤルに手をかけた。


 老人は猿轡《さるぐつわ》を嚙まされ転がされたが、それでもジタハダ騒いでいた。

 気が立っている男のひとりが老人の腹を蹴った。

「うっっ」

 苦しそうなうめき声が暗い部屋に響いた。


 音緒は、それを止めながら

「やめて下さい。余計な暴力は!」

 と、言うとその男が音緒の胸ぐらを掴んで殴りかかろうとした。


 その時、カチャッ!という音と共に

「開いた!」

 と、いう希空の声で音緒の胸ぐらを掴んでいた男の手も止まった。


 金庫が開くと、音緒が予め渡されていた袋に急いで現金と金塊を詰め込んだ。

「全部、袋に詰めた!」

 と、音緒が言うと6人の男達は、縛りあげた老人を放置し急いでその場を後にした。

 ストップウオッチのメモリは5分ジャスト!


 希空は、老人を観察しているうちに自分の祖父を思い出して情が移っていた。

 1件目の老人が、酷い暴行を受けずに済んで良かったと思っていた。

 同時に、これ以上老人たちが暴行されるところは見たくないと思った。

 しかし、2件目も1件目のように金庫の番号がわかっているわけでは無い。

 もうなんでも良いから逃げ出したかった。


 2件目のターゲット宅前に到着し、1件目と同じように6人が車を降りた瞬間、希空は、音緒に向かって

「音緒くん、もう、おれムリだ」

 と、言ってひとり全速力で走り出した。


「えっ?」

 音緒は一瞬迷ったが、手にした1件目の現金と金塊が入った袋を持ったまま希空の後を追った。


 残りの4人の男たちは、一瞬音緒と希空を追うべきか迷ったが、自分たちの身を考えると任務を遂行すべきと判断し、2件目のターゲットの敷地内に入っていた。


 希空は、とにかくその場から離れたいと思っていた。

 どこへ行くとも決めていなかったが、ただひたすら必死に走った。

 後ろから誰かが追って来るのに気付き怯えながら走っていると、追手の男が希空の名前を呼んだ。


「ノア、おれだ!おれ!」

「ネオくん?」


 希空は走りながら速度を緩めて振り向いた。


 音緒は、希空に追いつくと

「俺、これ持ったまま来ちゃったよ、やべー」

 はぁはぁと息を切らしながら、現金と金塊の入った袋を見せた。


「ネオくん、それマズイよ」

 希空も息を切らしながら答えた。


「どうすればいい?これを奴らのところに届けて許してもらうか?」

 音緒は、袋を地面に置いて、両手を膝に付けてハアハアと息を切らせながら言った。


「いや、奴らはそんなんじゃ許してくれないだろうし、今回は許して貰えてもまた同じようなことさせられるよ」

 希空には、闇バイトの元締めたちがそんなに簡単に許してくれる人たちには思えなかった。


 ふたりは、歩きながらどうすれば逃げられるのだろうと考えた。

 そうしているうちに、目の前に交番が見えた来た。

 交番でかくまって貰えるだろうか?

 自分たちは騙されて仕事をさせられたのだ。

 未成年だし、もし捕まっても軽くて済むのでは?

 そんな考えで交番を覗いて見た。

 しかし、交番の中に人の気配は無く

【ただ今、巡回中】と、いうスタンドメッセージが置かれており、その下に【緊急時はこちらへ】と電話番号が書かれていた。


 希空は、それを見て音緒に言った。

「この袋をここへ置いて行こう。そして、別の安全な場所から電話しよう」


 音緒は、希空の提案に賛成ではなかったが、持ってきてしまったのは自分である。

 このまま持っていては、どちらにしも危険と判断して交番の奥の隅に袋を置いた。


 ふたりは、そのまま交番を後にして【緊急時はこちらへ】の電話番号に電話をした。

 その電話は警察本部の通信指令室に繋がっていた。


「あの、若葉町二丁目の老人宅に強盗が入りました。現金と金塊が盗まれたんですが、それを取り戻して、双葉公園の横の交番の奥に置いてあります。他にも二件強盗に入ると言ってました」

 と、希空が電話に出た者に伝えると

「あなたのお名前は?どこから得た情報ですか?」

 と、聞かれた。


 希空は、名前を聞かれて自分が疑われると思うと急に怖くなって来た。

 そして、ついつい

「通りすがりの者です。たまたま強盗に出くわして、そいつらが持っていた袋を落としたのでそれを持って逃げて来ました。それをここに置いておきます。」

 と、とっさに嘘をついていた。


 なんとマヌケな辻褄の合わない内容だろう。

 相手は警察なんだからすぐにバレるだろうとは思ったが、本当のことを言う勇気が出なかった。


「では、後はよろしくお願いします」

 と、言って一方的に電話を切った。


 これからどうすればいいのだろうか?


「ネオくん、どうしよう。保護して欲しいって言えなかった」

「できれば、捕まりたくないもんな」

「いまの通報でヤツラが捕まってくれればよいけど…」

「でも、捕まるとしてもバイトで雇われた俺たちみたいに騙されたヤツらだけで、あのビルに居た奴らは逃げてまた同じことするよな?」

「だとすると、俺たち危ないよね?」

「今なら、まだあのビルにあいつら居るだろうから、そこに警察に踏み込んでもらえたら捕まるんじゃね?」

 と、話している彼らの背後から声がした。


「いたぞ!」


 どうやら、盗んだものを音緒がネコババして逃げたと、誰かが指示役に報告したらしい。

「闇バイト」の指示役の男たちが、ふたりを捜して追って来たようだった。


 音緒と希空は、殺されると思って再び必死に走って逃げた。

 引き篭もりとはいえ、若い彼らなので追っ手よりは体力がある。

 走って、走って、走って、走って…町はずれの神社まで来た。


 希空は、この大黒主神社に見覚えがあった。

 子供の頃によく遊んでいた場所だったからだ。


 外灯も無い境内は、真っ暗で不気味だった。

 希空は、子供の頃の記憶を頼りに音緒の手を引いて言った。

「音緒くん、ここ、子供の頃に遊んでたところなんだけど、裏の森のところに秘密基地にしていた洞穴があるんだ。崖崩れで入り口が埋もれちゃってたんだけど、子供の頃にみんなで掘り出したんだ。そこに隠れよう!」

 そう言って、雲に消え隠れする月明りの中、ふたりは境内の裏へと回り込んだ。


 境内の裏は、うっそうとした木々が茂っており、一見すると森のように見える。

 その木の間の茂みをかき分けると、小さな穴が開いていた。

 とても人が入れそうな穴ではなかったが、手に持ったままだったスパナで穴の周りを掘ると、ばらばらと穴の周辺の土が崩れて、人ひとりが入れる穴が開いた。


「あった!ここだよネオくん」

 そう言って希空は迷わず中に入って行った。

 音緒は、ちょっと恐怖を感じたが、後ろに迫る現実の恐怖の方が勝っていたので、希空の後についてその穴に入った。


 一メートル四方の岩穴の道をスマホのライトで照らしながら歩いた。

 時折背中に垂れる水滴にヒヤリとして声を出しそうになったが、追っ手に聞かれたらマズイので、必死でこらえた。

 腰をかがめながら数メートルほど歩くと、入り口からは想像できないほど広い場所に出た。

 希空は、スマホのライトで照らしながら、黒闇の中をずんずん奥へ歩いて行く。


 すると、行き止まりのような場所に祭壇のようなものがあった。

 希空は、その前でごそごそ捜していたが

「あった!あった!」

 と、言ってから

「ネオくん、もしかしたらライター持ってる?」

 と、祭壇らしきものの前に立った希空が振り返りながら尋ねた。


「ああ、ここにある」

 音緒はポケットからオイルライターを取り出して言った。

 希空は、手探りで見つけた祭壇に倒れていた埃だらけのろうそくに息を吹きかけた。

 そして、残りの埃を手で払い、それを立てて音緒から受け取ったライターで火を灯した。

 埃だらけだったろうそくは、ジュッという音を立てながらその灯りで辺りをぼんやりと照らした。


「何ここ?」


 薄暗く照らし出された洞窟の中には、神棚のような大きな祭壇があった。

 彼らの足元の大きな丸い石には、何やら記号や文字が刻まれていた。


「子供の頃に遊んで見つけたんだ。なんかの昔、宗教儀式に使われていた場所らしい」

 と、希空が答えると、音緒はちょっと身震いしながら言った。

「なんか不気味なところだな」


 すると、足元の大きな丸い石がかすかに青白く光った気がした。


 希空が、しゃがんでスマホで記号や文字が刻まれているものを照らし、のぞき込んでじっと見ながら言った。

「ああ、これ魔法陣って言うんだよね。子供の頃に見つけて気になって調べてみたんだ。陰陽師とか、霊媒師みたいな人が使っていたものに似ているみたいでさ。えっと…呪文が書いてあるはずなんだ」

 希空は、そう言いながら、スマホのライトに照らし出された魔法陣の文字を読んだ。


「我、ここに光と闇の力と聖なる力を呼び出す者なり」

「Lodahaou Exjubivi Wowo Unanabe Kijona Farilo Hagogugo …」


 すると、足元の魔法陣からスマホのライトの光をかき消すほどのまぶしい光が放たれた。

 その光の魔法陣が竜巻のように巻き上がり、ふたりを飲み込んでいった。


「わぁ~」


 ふたりは、追っ手に聞かれてはマズイことも忘れて大声をあげた。

 そのまま渦巻く光に飲み込まれたふたりは、魔法陣の中に吸い込まれるようにして消えた。


 辺りは再び闇に包まれて何も見えなくなった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 そして、しばらくすると二人は目覚めた。


 先に目覚めたのは、希空の方だった。


「ネオ君、ネオ君」

 希空は、音緒が息をしているのを確かめて少し安心した。


 そして、音緒の体を揺すってみた。

 しばらくすると音緒も目を覚ました。


「うん…ここはどこだ?さっきの神社の洞窟に似ているけど、なんだかちょっと違うみたい?」


 確かに、同じような洞窟であった。

 足元に同じように魔法陣が刻まれていた。

 やはり、入り口から魔法陣がある場所まで距離があったが、ふたりが入り込んだ穴より大きく、外からの光がふたりいる場所まで届いていた。

 何よりも違うのは、神社の裏ではなく森の中のようであり、遠くから波音が聞こえることだった。


 ふたりは、とにかくこの場所から離れた方が良いと考え、ぼんやりと届く光を頼りに洞窟の出口に向かって歩き出した。

 歩いて行くうちに光がどんどん明るくなった。

 そして洞窟の出口に立ったふたりは、外の光のまぶしさに一瞬目が眩んだ。

 ふたりは、唖然としてあたりを見回した。

 いつの間に夜が明けていたのだろうか?


 洞窟の外は、深い森だったが、遠くから聞こえる波の音を頼りに歩いた。

 森を抜けると、そこには海があった。

 海は、陽の光キラキラと輝いていた。


 そして、ふたりは、とてつもなく空腹を覚えていた。




♡登場人物の紹介♡


黒須田音緒 17歳

白 峰 希 空 16歳


挿絵(By みてみん)

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