「赤いライオン領地」と「帝国神聖力術士養成大学」
若者が、男女に関係なく剣を振るい、剣術の稽古に励んでいるここは、
「帝国神聖力術士養成大学」の武道場である。
指導するのは、豊かなグレーの髭を蓄えた屈強な騎士。
見た目は、50歳前後のナイスガイのように見えるが、実は500歳をゆうに超えるHoly Mageである。
彼の名前は、イーサン・バルナバーシュ・ブルーフォレスト。
若い頃は、帝国陸軍大佐として、まだ皇太子であった現皇帝のアレクサンドルやアランの父ラファエルと共に「赤い荒野の闘い」で活躍した経験を持つ。
帝国軍の大将まで勤め、家督を息子に譲るまでは、ブルーフォレスト辺境伯として、帝国の西のブロッサン国と隣接する辺境地領を守っていた生粋の騎士である。
以前から、「帝国神聖大」の講師としても教えていたが、辺境伯領地を息子に譲った後は、帝都の邸宅に移り住み、本格的に教鞭を振るっている。
彼が主に教えているのは、馬術・剣術・柔術・肉体強化術と戦術に役立つ実践力養成がメインである。
「手綱を緩めるな! そんなに腰が引けていたら、落馬して馬に蹴り飛ばされるぞ!!」
馬に乗っての実践訓練で、自ら騎乗し上級生たちに檄を飛ばしている。
「おまえたち、剣の腕はまずまずだが、剣の腕よりまず馬術だな。」
「馬の心を掌握しろ! 敵が魔法使いか強力な術師なら、まず馬を狙われるぞ!」
言葉は強いが、その教えからは誰もが愛を感じていたし、異論を持つ者はだれひとりいなかった。
変わって、室内の教室では、ここの能力に応じて神聖力を持つHoly Mage養成クラスと白魔法を使うWhite Mage養成クラスに分かれての授業がある。
Holy Powerを持つ者の多くは、貴族の子息令嬢がほとんどで、両親の両方か、どちらかがHoly Mageなので、幼いころからHoly Powerを使う訓練を行っている。
また、Holy Mageはその神聖力のおかげで老いるのが遅い。
能力の成長もゆっくりである。
それに対して、Holy Powerを持たない魔法力を持つ者は、能力とパワーは劣る。
その分、もの成長のスピードが速いが、Holy Mageよりも老いも衰えも早い。
但し、魔力を持たない者に比べれば、十分に寿命を延ばすこと可能である。
Holy Mageの限界が1200年に対して、White mageは500年くらいである。
その為、この大学の入学に関して年齢に関しての制限はなく、試験に合格すれば、身分や年齢に関係なく入学できる。
基本的には、帝国側が公費で運営しているので学費は無料である。
Holy Mageという人材は、帝国の宝とされているそのほとんどが、このスチュアートリア帝国民なのである。
ゆえに「リゲル・ラナ」最強の帝国といえるだろう。
さて、今、新入生たちに魔法学について授業が行われているので、我々も授業内容に耳を傾けてみよう。
教壇に立つのはアグネス・イザベラ・ブレッシング女史である。
見た目は若くは無いが、背筋をピンと伸ばし姿勢よく教壇に立つ姿には、凛とした美しさがあね。
眼鏡越しに輝く瞳には力強さがある。
ブレッシング先生は、優しいがよく通る声で言った。
「今年度は、高い魔法能力を持つる30人の方が合格されまた。」
「この帝国神聖力術士養成大学で学ぶ学生として、皆さんをお迎えできて嬉しく思います」
「既にHoly Powerが使える方もおられますが、まずは、知識から共に学んで参りましょう」
「どんなに素晴らしい力があっても、それを正しく使えなければ意味がありません」
「Holy Powerを使うにあたり、一番大切なものは何だと思いますか?」
ブレッシング先生は、その大きな青い瞳をさらに大きくして生徒たちを見渡した。
そして、教壇から降りながら
「はい、そこの自信なさげうつむいているお嬢さん、答えてみなさい」
と、言いながら生徒たちの間をゆっくり進んで行った。
一番後ろの席に居たリリアーナ・サーシャ・ホワイトブランチは、思わず席を立ちあがった。
声を掛けられなければ良いと小さくなっていた彼女は、一瞬、先生に感情を読まれたかと疑った。
しかし、感情をのぞかれた時に感じる、心のざわめきは一切感じなかった。
「えっと、えっと、えっと・・・気合です」
と、答えた。
教室中の他の生徒たちがクスクスと笑った。
ブレッシング先生も、微笑みながら
「間違ってはいないですが、正解では無いですね。」
と、リリアーナの肩に優しく手を置いて、席に座るように促した。
「私たち人間は、物質的肉体と霊的な魂とそれを統合するシルバーレイヤーで構成されています。」
「Holy Powerは、肉体ではなく魂に記憶された力なのです。」
「ですから、頭ではなく『気』とも呼ばれる、魂を使う方法を身に付けなければなりません。」
「気持ち、勇気、気合ですね? ホワイトブランチさん」
「はい!!」
リリアーナは、元気にうなずいた。
「この教室には、Holy Powerの素質を持つ者と、そうではなく魔法力を持つ者がいます」
「これは男女の差と同じく、生まれ持った個性です」
「また、Holy Powerを持っていたとしても、使える種類に差があります」
「その点は、魔法も同じです」
「ここでは我々教える側と、なによりも本人が、それぞれの持つ力を見極め、最大限引き出す努力をして下さい。」
新入生たちは。大きく「はい! 」と答えた。
帝国神聖力術士養成大学、略して、帝国神聖大。
この大学に入学出来る者は、Holy Mageの子息令嬢でか、両親のどちらかが魔法力を持っている者が多い。
だが、リリアーナは、両親のどちらも無力な一般国民である。
だから、当然のようにリリアーナ自身、魔法が使えるとは思いもしなかった。
リリアーナは、子供のころから周囲の子供とは馴染めなかった。
動物の言葉が理解できたり、ついには草花の声が聞こえる気と言っては、周囲に気味悪がられていた。
初めは、自分だけでなく皆にも聞こえていると思っていたが、すぐに自分だけだと気づいた。
リリアーナ自身、他の人との違いに違和感を感じ、人と交流することが苦になっていった。
さらに成長するにつれて、他人の心の声が聞こえてくるようにもなった。
ついには、人と接することが怖くなり、家族以外の人との接触を避けるようになっていった。
スチュアートリア帝国では、一般の国民もそれぞれの能力に応じて学校へ行くことができる。
しかし、そんな調子のリリアーナだったので、徐々に学校へ行かなくなった。
両親は、リリアーナは勉強嫌いなのだろうと思い、家の手伝いをさせることにした。
リリアーナが住んでいたのは、帝都から遠く離れた、レッドリオン公国であった。
= レッドリオン公国 =
時は、4年半前にさかのぼる。
このレッドリオン公国領地は、その昔、「赤い荒野」と呼ばれていた。
そこには、「赤い魔物」と呼ばれるライオン達が住む荒野のような土地であった。
その人の住めない荒地を、現領主と現皇帝の兄弟が、「赤い荒野の闘い」において征服し、痩せたその土地をHoly Powerで豊かな土地に蘇らせ変えたという。
そこに住んでいたライオンの一族は、領主となったHoly Mageの使徒となって使えているとのことだ。
現領主とは、アランの父、ラファエル・オーエン・イデルベルト・レッドリオンである。
ラファエルは、180年前まで皇帝であった。
弟のアレクサンドル帝に皇帝の座を譲った後、レッドリオン所領地として大公国とし大公となった。
息子のアランは、帝都において執務大臣と帝国軍総司令官を兼任している。
帝国執務大臣というのは、皇帝の補佐であり皇帝に次ぐ権力を持つ。
内政では執務大臣、軍部では総司令官であるアランの権力は絶大と言える。
しかし、彼は、その権力を悪用することはない。
むしろ、帝国のために皇帝や皇太子の為のなんでも屋に徹している。
それが、アランという人の信念なのである。
ある日、リリアーナが、親の手伝いで市場に野菜を運んでいた時だった。
荷崩れをした馬車の環金具が外れ、馬が暴れて逃げ出そうとしてところに出くわした。
リリアーナは、ためらわずにその馬に話しかけ、なだめて馬を取り押えた。
そこに、お忍びで領地内を見回っていたアランが通りかかった。
アランは、何に数回レッドリオン公国内に戻り、公国内を視察していた。
「大丈夫か?怪我はなかったか?」
と、アランは思わずリリアーナに声をかけると、
リリアーナは、馬に
「よしよし、お前は怖かったよね?でも、もう大丈夫よ」
と、声をかけながら馬の頭を撫でて手綱を引き
「ご心配ありがとうございます、わたしは大丈夫です」
と、答えた。
リリアーナは、それがご領主様の息子だとは思ってもいなかった。
アランは、いつも平民に紛れられる服装で市場を歩くのである。
「君は、馬の言葉がわかるのか?」
リリアーナは、荷崩れをおこした馬車の持ち主に馬を返しながら言った。
「はい、少しだけわかる気がしています」
また周囲に異質なものを見る目でみられるのではないかとためらいつつ、か細い声で答えた。
アランは、うつむくリリアーナの頭に優しく手を置いて言った。
「そんなことを負い目に感じることはない」
「帝都には、そんなヤツゴロゴロいる。魔法使いとかHoly Mageとかな」
「そうなのですか?」
リリアーナは、パッと顔をあげてアランの顔を見上げた。
背の高いその若い男は、優しく彼女を見ながら言った。
「ここレッドリオン公国の首都にも数人いる」
アランは、少女のアカギレだらけの手を見て、
「手を出してみろ」
と、言った。
そして、ためらいながら、手をもぞもぞさせているリリアーナの手をそっと両手で包んだ。
すると、あっという間に彼女のアカギレは消えて、綺麗な少女らしい手になった。
リリアーナは自分の綺麗になった手を見つめて目を見張った。
そして、再び顔を上げてアランの顔を見返した。
「ほらな? こんなヤツもいるからな」
アランは、そう言って、何事もなかったかのように去って行こうとした。
リリアーナは、その背中に向かって慌てながら
「あの!」
と、声をかけた。
「ん?」
と、アランが振り返ると
「やっぱり、なんでもありません」
と、うつむいた。
「君は、いくつだ?名前は何という?」
「10歳です。リリアーナ・サーシャ・ホワイトブランチです。」
アランは、リリアーナの耳元でそっと囁いた。
「そ私はアラン・クレオ・レッドリオンだ」
その時、リリアーナは、やっと、目の前の男の正体に気づいた。
ご領主で様であるレッドリオン大公の息子の「アラン公爵」様だ!!!
侯爵は言った。
「もし、自分の能力を伸ばして、国の役に立ちたいと思うことがあれば、私のところに来い」
そう言って、アラン公爵は市場の人ごみの中へ消えて行った。
それから4年後。
リリアーナ・サーシャ・ホワイトブランチは、帝国神聖力術士養成大学の教室にいた。
13歳になったリリアーナが、勇気を出してレッドリオン公国領の宮殿を訪ねた。
その時、アランは帝都のレッドリオン邸にいた。
しかし、もし自分を訪ねて来る少女がいたら話を聞いて宮廷に迎え入れるよう家臣に伝えていた。
優秀なレッドリオン大公家の家臣が、アランの指示を守りリリアーナを宮殿に招き入れてくれた。
アランの指示を受け家臣は、まずリリアーナをレッドリオン城の侍女として雇った。
侍女としての仕事の合い間に、魔術の心得のある者の下で学ばせ、彼女に魔力あることを確認させた。
その後、アランは、リリアーナを帝都のレッドリオン公爵邸に呼び寄せた。
リリアーナは、引き続き帝都のレッドリオン公爵邸でも侍女として働いた。
アランは、彼女に帝国神聖力術士養成大学の存在を教え、魔法を学ぶことの価値を教えた。
帝都での暮らしを通して私もWhite mageを目指して学びたいと思うようになっていった。
そして、その気持ちをアランに伝えた。
すると、アランは彼女の決意を確認し、彼女に家庭教師をつけて本格的に受験勉強をさせた。
リリアーナは、水を得た魚のように生き生きと学んだ。
そして、自分の力が人から疎まれるものではなく、神から与えられた才能だと悟った。
晴れて「帝国神聖力術士養成大学」の生徒となったのである。
とはいえ「帝国神聖力術士養成大学」は、学校である。
教室の席に座ると、どうしてもコミュ障が発動してしまう。
少し落ち着いたところで、教室を見回すと、自分より年齢が高そうな人ばかりで萎縮してしまう。
しかし、レッドリオン公国の村の学校のような、他人からの負の感情は全く聞こえてこない。
以前の学校では、他人からの自分への悪意ある感情が、防ぎようもなく雪崩れ込んできて苦しかったのだ。
Holy Mageや高度な魔術を使える者は、自分の感情を周りへ伝わらないように防御したり、他人の感情を読むことも意識して操れたりもすると聞く。
学生でも、感情のシールドを張ることが、みんなも出来るのだろうか?
自分も感情のシールドの勉強は多少したので大丈夫だろうか?
と、そんなことを考えていたら入学初日の1日が終わってしまった。
ほとんどの生徒は、帝都にある自宅から通っているか、大学が用意した寮から通っている。
寮と言っても小宮殿をまるごと寮として利用しており、帝国が雇った執事が管理しており専属の侍女や侍従もいる。
食事も専属の料理人が、貴族の子女の口にも合うレベルのものを出してくれる。
リリアーナは、入学まではレッドリオン邸で侍女の仕事をしながら、帝都での一般常識や貴族のマナーを学んでいた。
レッドリオン邸の人は、レッドリオン公国の人も帝都の公爵邸の人も、みな親切で優しい。
しかし、このままレッドリオン邸に居て侍女をしながら学生を続けるのは厳しい気もする。
寮費は、帝国が出してくれるので全て無料だと聞いた。
「レッドリオン邸に戻ったら、アラン様に相談しよう」
と、思ったら、なぜか涙が出た。
若くは見えても、父親のような存在感のアランの元を離れるのは、寂しいのだった。
リリアーナの二度目の親離れである。
そして、村に残した両親のことも気になった。
レッドリオン邸で侍女として働いた給金は、両親へ送って貰っていたからだ。
レッドリオン邸に戻るとアランが、執事と数人の侍女と共に迎えてくれた。
「お帰り、リリアーナ。疲れただろう?」
「ただ今戻りました。アラン様」
リリアーナは、アランの顔を見て肩の力が抜けるのを感じた。
「着替えたら、食事をしながら今日のことを聞かせておくれ」
部屋に戻って着替えてから、食堂へ行くと笑顔のアランが待っていた。
「リリアーナ、初日はどうだった?」
「はい。緊張しまたが、先生たちは優しかったです」
「続けられそうか?」
アランは、リリアーナが村の学校へは通えなかったことを知っていた。
しかし、それは人とは違った能力ゆえに馴染めなかっただけなのだろうと思っていた。
「たぶん、村の学校とは違うと思うので、大丈夫だと思います。」
「リリアーナも、最初に会った頃より、表情が明るくなったな」
「そうですか?」
リリアーナは、少し頬を赤らめながら言った。
「アラン様もお屋敷の皆様も本当にお優しくて、みなさま良くしてくれますから」
「そうか」
リリアーナの言葉を聞いて満足そうに、グラスを手にとり、給仕に食前酒の果樹酒を注がせた。
そんなご公爵様を見つめながらリリアーナは、一番の気がかりをHoly Mageであるアランに尋ねた。
「あの、アラン様。あの学校の人たちは、みなさんHoly Powerか魔法が使える方たちなのですよね? 」
「他人の感情を読んだりもできるのですか?」
アランは、果樹酒をゆっくり飲みながら
「そうだね。君と同じ程度は使えるだろうけれど、人によって差はあるかな?」
リリアーナの表情が変化するのを確認しながら続けた。
「でもね。リリアーナ」
「君は、私がHoly Mageだって知っているよね? 」
「しかも自分で言うのもなんだが、かなりHoly Powerの強い、一流の」
と、自慢しているのか、照れているのかわからないような顔で言った。
「その私と一緒にいてどうだい?」
くすっと、笑いながら優しく語るアランの言葉にハッとしたリリアーナが恥ずかしそうに言う。
「そうでした。アラン様と一緒に居てもなんの心配もありませんでした。」
「そうだろう? 」
「Holy Mageというのはね。魂も鍛えられた人間のことなんだよ。」
「力をセーブするのも、人に寄り添うのもHoly Powerなんだ。感情というものは、川の水流れのように常に流れているもので、そこから水を少し、くみ上げるだけなら問題はない」
「けれど、水を自分の方へ引き込もうとするなら、一気にあふれ出してしまうだろ?」
リリアーナは素直に納得して答えた。
「はい」
「どうしても、必要な時以外は、他人の感情に触れないのが鉄則だ。」
「じゃないと自分が相手の感情に溺れてしまうからね?」
「そうですね。」
「私は自分の能力に気づいて無くて、勝手に人の感情が流れ込んで来て、いつも溺れていました」
アランは、リリアーナのその言葉で、愉快そうに昔を思いだしていた。
「そういえば、市場で馬と話していた時に、君は、そんな顔をしていたんだよな」
「だから、思わず声をかけてしまったよ」
「はい、覚えています」
「あの時は、アラン様がご領主様のご子息だなんて思わず、失礼を致しました。」
「ははは、そりゃ~、わからないような恰好をしていたからね」
「でも、あの時は、ちょっとだけ君の感情をのぞいたよ。すまない」
「わかっています。」
「他人に感情を読まれた時って、なんとなくわかるものなだとあの時、初めて知りました。」
「いつもは自分から、無意識に相手の感情を引き込んでしまっていて、自分の感情を読まれた経験がありませんでしたから。」
「でも、アラン様は、私の感情の流れを引き込んだのではなく、落ち込んだ感情だけを汲んで下さったなと感じました」
そして、いつものリリアーナに戻り、自分自身を納得させるかのように言った。
「そうですよね」
「みなさん感応力の扱いもお上手な方ばかりのようで、今日は、全く心が騒めきませんでした」
アランは、空のグラスを給仕の者に示して、果実酒を注がせながら
「Holy Powerは魂に宿るので、魔力の素質だけでなくその魂も見られている」
「それに合格した者しか入学できないし、私もあの大学で学んだだよ」
「先生たちもさほど変わってないから、何か心配事があれば遠慮なく先生たちに相談しなさい」
そういうと、アランは待ちかねたように
「さて」
「そろそろ腹も減ったし、リリアーナも食べよう」
と、グラスを置いて前菜に手をつけた。
リリアーナもフォークを手にとって言った。
「それと」
「大学の寮へ入るべきか悩んでいるのですが、勉強に集中するには寮に入る方が良いでしょうか」
既に前菜を食べ終えたアランが
「そうだな」
「私も、これから西の国境付近まで行く仕事があって、しばらく帝都から離れる」
「リリアーナが寮から通学するなら、その方が安心だ」
「実家には今までと同じく、侍女の給金を送っておくから安心して勉強して来なさい。」
リリアーナは、『アラン様は、心を読まなくても私のことをちゃんと理解してくれている』
と、思い感謝した。
「アラン様、本当に何から何までありがとうございます。」
Holy Powerや魔力の力を借りずとも、人は思いやりの心で相手の気持ちを察する能力があるからだろうと、また目頭が熱くなった。
アランは、領主の息子として、いつも領民のことを考えている。
帝国の重臣として国民のことを考えている。
村により貧富の差が生まれることにも心を痛めている。
問題の全てを解決することは出来ないことも、身に染みて理解している。
それでも、少しでも領民全てに寄り添いたいと、日々考えている。
どんなに力と権力を持っていても、全ての民を幸せにすることは難しい。
だが『国民の幸せ無くして、国家の幸せ、皇帝の幸せはない』
という、スチュアートリア帝国皇帝一族の家訓は間違っていないと確信している。
それが、この星に生まれ、皇帝の息子、Holy Mageとして生まれた意義だと考えていた。
Holy Mageとして魂を磨き、いつかツインレイと巡り合えればと思っていた。
そんなアランにとって、リリアーナの成長は嬉しいものでもあり、心の癒しでもあった。
そんな自国の公国民と、スチュアートリア帝国民全ての平和を守らねばと思うアランであった。




