「赤い荒野の闘い」= Red Lion =
いよいよ、= The Red Wilderness War =
「赤い荒野の魔物」たちとの闘いです。
赤い荒野 = The red wilderness= は、本当に魔の世界のような場所でした。
魔物が住むという岩山に近づくにつれ、空の色がおよそ見たことのない異様な色となり、「赤い荒野」と呼ばれるにふさわしく大地は、血のように赤く染まっていました。
「まがまがしい気配しかしないな」
よく訓練され、魔術にも対応するよう訓練された馬たちも、あまりの異様な空気に怯えていました。
その時でした、赤く染まった岩山の中ほどに立つ魔物の叫ぶ声が聞こえました。
その声は、まるで地面の下から湧き上がって来て、大地を引き裂くように四方に響き渡って行きました。
「開戦の合図だ、全員私に続け!」
ラファエル殿下がそう叫ばれると、先陣を切って岩山めがけで走って行かれました。
その両脇を、Holy Mageであるブルーフォレスト少佐、ステイシア准将が固め、そのすぐ後ろに各陸軍騎士、そしてアレクサンドル殿下と近衛騎士が続きました。
空には、ブルーフォレスト少佐の使徒であるドラゴンのクロヴィス。
皇子たちの使徒のトリスタンとアーサーが鷹の姿で、いつでも飛び掛かれるように旋回していました。
ラファエル殿下が魔物の岩山めがけて駆け込んで行くと、巨大な「赤い魔物」が疾風のように岩山から駆け下りて来て、ラファエル殿下めがけて飛び掛かって行きました。
魔物は、ライオンに似た姿をしており、馬ほどの大きさはあろうという巨大で不気味な生き物でした。
殿下は、馬から飛び降りると、神聖力で鍛えた聖剣を抜き、その魔物の親玉と対峙されました。
魔物は、異様な匂いが漂う黒い息を吐きながらラファエル殿下に襲いかかります。
殿下の神聖力を注ぎ込まれた聖剣は、輝く赤い炎をまといながら魔物に切りかかっていきました。
その聖剣で傷つけられた魔物は、痛みに耐えるかのように雄たけびをあげました。
すると、後ろの赤い岩山から次々と魔物たちが現れました。
「やつらは、口から黒い毒を吐くから気をつけろ!」
傷つきながらも尚、ひるまず向かって来る魔物と闘いながらラファエル殿下は皆の者に命じられました。
「口から吐かれる毒も、神聖力を注ぎ込んだ剣で防御することは可能だ!」
「それ以外の者は、毒を直接受けないように気をつけろ!」
と、ラファエル殿下が言い終える前に、ひとりの兵士が魔物の毒に当たり落馬しました。
ラファエル殿下は、魔物と闘いながら落馬した騎士に気をとられそうになると
「ラファエル!こちらは任せなさい!!」
と、いうステイシア准将の声が聞こえました。
魔物たちは、次々にスチュアートリア軍の騎士たちに襲いかかりました。
アレクサンドル殿下も、兄君から貰った聖剣に己の神聖力を注ぎ、初の実戦に臨まれました。
ラファエル殿下が、闘っている魔物が一番大きく力も強いようでした。
後から出て来た魔物たちは、それよりも一回りも二回りも小さい大きさでした。
騎士たちは、White Mageの騎士が魔物の毒息を払い、その隙に背後からを複数人で魔物に切りかかるという作戦。
空からは、イーグル達が魔物の背を攻撃し、そこに少佐のドラゴンのクロヴィスが急降下して魔物を足で掴んで持ち上げてから大地に叩きけ、その魔物が命からがら巣穴に逃げ帰って行こうとするところを騎士たちが襲い掛かるという連携プレーで魔物たちを追いつめて行きました。
ラファエル殿下は、肉体強化能力に長けており攻撃魔法も使えるHoly Mageでした。
他の魔物に複数人で立ち向かっている中、ひとりで一番大きな魔物を相手に闘っておられました。
おそらく、この魔物が、魔物たちの長だと思われました。
魔物は、口から黒い毒ガスのような息を吐きながら殿下に襲いかかり、鋭い爪で喉を狙って来ました。
それを殿下がひらりと交わし、聖剣で魔物を切りつけました。
魔物の傷からは、赤い血ではなく緑がかかったドス黒い液体が流れ出ました。
その様子を見たラファエル殿下はつぶやかれました。
「これは…、黒魔術の呪いにかけられているのか?!」
その魔物が人と同様の感情を持つ生き物であるように感じられたラファエル殿下は、闘いながら、魔物の脳に直接語りかけられました。
言葉が通じない相手にも脳へ直接アクセスすることで意志伝達が可能になるのです。
「魔物よ!降参し二度と人間を襲わないと誓え!!さすれば命までは取らん!」
と、精神感応術《テレパシー》で語り掛けられました。
すると魔物は、
「人間よ!なぜ我らが領地に踏み込んできた。長年なにもしなかったではないか!」
と、肩で息をしながら答えました。
ラファエル殿下は、ひらりと後ろに飛んで、その魔物から少し離れた位置の岩に飛び乗られました。
そして、聖剣を構えたままおっしゃいました。
「お前たちが、人間を襲って食っていると聞いたのだ。それは聞き捨てならんから退治しに来た!」
すると魔物の親玉は、憤慨したように大地を這うような声で叫びました。
「なにを言う!!人間よ!」
「われらの子供をさらい、我らをこのような姿にしたのは人間ではないか!」
「何を言っている?!そんな事実は知らん!」
ラファエル殿下は、魔物の答えに驚かれました。
「お前たちは、西から来たようだが西の国のものか?」
「われらの子をさらって行ったのは東の国の者たちだ!!」
魔物のいう東の国とは、シャバラリオを指すと思われます。
「お前たちは、その復讐で人間を襲っているのか?」
と、ラファエル殿下は魔物に尋ねられました。
「それだけではない!!あいつらが我々をこんな姿にしたのだ!」
魔物は、怒りの中に悲しみと悲哀を滲ませていました。
「あいつらは、われらが人間を食わないと死ぬという呪いをかけたのだ!」
魔物は、人間ではありませんが、その強い感情は殿下の元に十分に届きました。
ラファエル殿下は、魔物の深い悲しみを感じ取られたのです。
ラファエル殿下は、再び魔物の脳に直接語られました。
「私は、荒野の西にある帝国の王子だ。おまえの話を聞こう!」
「我々は、長年友好的に暮らしてきた歴史があるはずだ」
「おまえたちも、長年、我が国の国民を襲わなかったのは知っている」
「おまえたちが二度と人間を襲わないという約束するなら、おまえたちにかけられた呪いを解き、討伐はしないと約束しよう!」
戦況は、スチュアートリア軍に有利な状況でした。
既に魔物の数頭が大地に倒れていました。
ラファエル殿下の語り掛けに魔物は冷静に返答しました。
「わかった、我々の家族を守ってくれ!おれの望みはそれだけだ」
魔物の望みを聞かれたラファエル殿下は、
「皆の者、停戦だ!」
と、は闘いを止めるように命令されました。
ラファエル殿下のその命令と同時に魔物の長も、ひと際大きな雄たけびを上げました。
その雄たけびを聞き動ける魔物たちは、次々と長の後ろへ退いて行きました。
魔物の長は、地面に倒れている仲間を悲しげに見つめていました。
その様子を見たラファエル殿下は、倒れている魔物に近づくと
「息の根は止まっていない」
「が…、やはり黒魔術の呪いがかけられているな」
と、言うとその魔物に触れられました。
Holy Mageは、その神聖力応じてオーブカラーが現れます。
ラファエル殿下の神聖力のオーブカラーは赤でした。
殿下から赤いオーラを帯びた光が優しく魔物を包むように注がれました。
その赤い光が魔物を取り巻いていた黒い霧を切り裂き、黒魔術の呪いが解かれました。
続けて、
「呪いのおかげで生命力は維持されていたな」
と、おっしゃってヒーリング魔法で傍に倒れていた魔物にヒーリング術を施されました。
すると、今まで大地に横たわっていたその魔物が、まだ若いライオンの姿となり立ち上がったのです。
その様子を見ていたスチュアートリア軍の方々も驚かれました。
そして、すぐさま反応したのはステイシア准将でした。
ステイシア准将も、優れたHoly Mageであらせられます。
肉体強化能力とヒーリング能力に長けておられ、呪いを解く力もお持ちでした。
すぐに、近くに転がっていた魔物にご自分の神聖力を使って解呪と治癒術を施されました。
そして、ラファエル殿下、ステイシア准将、ブルーフォレスト少佐のお三人で次々と魔物達に解呪を施されました。
その後に続くようにヒーリング能力のあるHoly Mage達が全ての魔物を治癒。
最後にラファエル殿下が、魔物の長の呪いを解くと赤い立派なたてがみを持った大きなライオンの姿に戻りました。
元の姿に戻った赤いライオンの長は、殿下たちに深々と礼をして言いました。
「西の帝国の皇子よ、感謝する」
「お前とお前の国の者は、東から来た人間とは違うことが良くわかった」
「私は、スチユーアートリア帝国の皇子、ラファエルと言う」
「お前にも名前があるのだろう?聞かせてくれるか?」
と、殿下が言うと、ライオン戻った魔物の長は、ちょうどラファエル殿下顔の前に自分の顔が位置するよう猫のように伏せて言いました。
「我が名はアイザック。この赤い大地の長だ」
「一緒に居るのは、アイザック、お前の家族なのだろう?」
「そうだ。私の家族、一族だ!」
「アイザック、どうして、こんなことになったのか詳しい話を聞かせてくれるか?」
ラファエル殿下がそうお尋ねになると、赤いライオンのアザックは語り始めました。
我々の一族は、古の頃からこの地に生まれ、この地で生きて来た。
家族を育み、平和に暮らしていた。
この地も今のように枯れ果てていることもなく、川も流れており草原もあった。
ところが、ある時期を境に川が枯れ、大地の草木も枯れた。
それでも、数年前まではオアシスもあった。
我々にとって生まれ育った場所だから、ここで生きていたのだ。
そんなある日、東から数名の人間がやって来た。
初めは、食べ物をくれたり、子供たちを可愛がってくれたりしていたので良い人間なのだと思った。
ところが、ある日、我が子の数匹が連れ去られていた。
その事に気づいた時には、我々も、奴らがくれた食べ物から徐々に侵されていた。
日に日に声が枯れ魔物の姿に変えられていた。
気づいた時には遅かったのだ。
そして、「ひと月に一度は人間を捉えて食べないと死ぬ」と、言われた。
私は怒り狂ったが、我が子を人質に取られているので逆らえなかった。
そして、人間を食するうち徐々に心も魔物化していたのだ。
「そなたの剣を受けているうちに徐々に正常な気持ちを取り戻していたように思う」
アイザックの話を聞いていた一行は、同じ人間として、申し訳ない気持ちと怒りの気持ちでいっぱいになっておられました。
若いアレクサンドル殿下は怒り心頭で
「なんて奴らだ!同じ人間として許せん!!そいつらこそ討伐せねばならん相手だ!」
と、叫ぶようにおっしゃいました。
一同もアレクサンドル殿下の言葉にうなずき、さらなる敵の存在を感じたのでした。
ラファエル殿下は、アイザックとよく話し合われ、
「帝国は、おまえたちの味方だ。我々は、おまえたちの住処を侵さないことを約束しよう」
「人間の勝手だが、ここは帝国領ということになっている」
「つまり、お前たちもわが帝国民で、私たちが守るべき存在だ」
「なにかあれば、我々に助けを求めて欲しい」
と、おっしゃいました。
その言葉に、アイザックは安堵したように
「皇子よ。そなたが皇帝になった暁には、我々もそなたの臣下として役立とう」
「だから、我が子を頼む!」
と、言いました。
こうして「赤い荒野の闘い」は終わりました。
しかし、ラファエル殿下たちの本当の闘いは、これからだったのです。
ラファエル殿下のスチュアートリア軍は、一旦リルクガーラント駐屯地に帰還されました。
赤いライオンの長であるアイザックから聞いた話から「赤い嵐作戦」を立て直されることになりました。
「やはり、敵はシャバラリオ側にいるようだから、あちら側に行くしかないな」
と、ラファエル殿下がおっしゃると
「魔物たちは黒魔術をかけられていましたから、敵は黒魔術を使う者で間違いないでしょう」
と、ブルーフォレスト少佐がおっしゃいました。
「何が目的なのでしょう?」
と、アレクサンドル殿下が疑問を投げかけられました。
ステイシア閣下は、
「ライオン達の岩山には、私の使徒を使わして結界を張っておいたけれど、魔物の術が解かれたと敵が気づいたら…、攫われたライオンの子供たちの命が心配だわ」
と、さらわれたという子ライオンのことを心配されていました。
ラファエル殿下はしばらく試案すると、ブルーフォレスト少佐に向かって
「少佐の竜は、人を何名乗せられますか?」
と、尋ねられました。
「クロヴィスなら、成人男性三名は余裕です」
少佐は、自分の懐に手を当てながらおっしゃいました。
主人に視線を送られた少佐の懐のクロヴィスは小さく頷きました。
「そうか、まずは我々の使徒と四人で乗り込む!」
「取り急ぎ私とアレクサンドルをシャバラリオ側に運んで欲しい」
「少佐は、『赤い荒野』馬で突っ切ってシャバラリオに近いライオン達の岩山付近で待機していて欲しい」
と、ラファエル殿下が命令を下されました。
「かしこまりました」
「クロヴィスも闘いの疲れはとれているようですから、いつでも行けます!!」
懐の小さなドラゴンは、再び、うんうんと頷いていました。
「では、ここからは、作戦名を変更して『黒い嵐作戦』だ!!!」
ラファエル殿下は、作成名変更と共に決意を新たにされたのでした。




