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Beyond of Cosmos =星巡りの物語=リゲル・ラナ編  作者: 詩紡まりん
『スチュアートリア帝国とその歴史』=赤い荒野の闘いとレッドリオン公国= リゲル歴3594年

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20/92

「謎の黒魔術師」= 再びシャバラリオへ=

今話は、「赤い荒野の闘い」が終わりシャバラリオでの

「赤いライオン子供の救出」のお話です。


今回の語り部も引き続き

ガブリエラ・サーシャ・ラング先生です。



 「赤い荒野の闘い」が終わりましたが、レッドリオン公国の設立までは、まだまだ時が必要となります。


 その前に、謎の黒魔術師 Black(ブラック) Mage( マギ )との闘いです。


 まず、黒魔術とはなんなのか、神聖力(Holy Power)の違いを確認しておきましょう。

 このリゲル・ラナという星には、神聖力(ホーリーパワー)と魔力の両方が存在します。

 神聖力(ホーリーパワー)は、その人の魂に宿る力なので、元々生まれ持った能力に差があります。


 運動神経が良いものが鍛錬によりさらに上達していくのと同じように神聖力(ホーリーパワー)は鍛錬によって開花していくものでもあります。

 それに対して、みなさんもご存じの通り、魔術は、この星の大地の力、大気の力、闇と光の力を利用するもので、力というよりは術と呼ばれるものです。

 黒魔術師も白魔術師、Black(ブラック) Mage( マギ )White (ホワイト)Mage(マギ)も基本的には力に差は無いと言われています。


 スチュアートリアのように絶対的な神聖力(ホーリーパワー)を持つ者がいない国は、この黒魔術師と白魔術、Black(ブラック) MageとWhite(ホワイト) Mageとの間で価値観による争いが起こり、魔力をもっぱら利己的に活用し、武力に活用する者をBlack(ブラック) Mage、利他的に人を助けることに力を善しとする者をWhite(ホワイト) Mageと呼んでいます。


 但し、その力を用いて人を呪ったり、命を奪おうとしたりする者たちは、黒魔術を使うと認知して自らを「黒魔術師」またはBlack(ブラック) Mageと名乗っています。


 しかし、これらは一面から見ての偏った呼び方なので、スチュアートリア帝国内では、神聖力(ホーリーパワー)を有している魔術師をWhite(ホワイト) Mageと呼び、神聖力(ホーリーパワー)を持たない魔術師を「魔導士」と呼ぶようにしています。

 そして、強い神聖力(ホーリーパワー)を持ちそれを活用できる者をWhite (ホワイト)Mage(マギ)と呼びますが、これは帝国のトップシークレットで、Holy Mageの存在を公言してはならないことになっています。帝国以外ではHoly MageのことをGrate(グレート) Mageまたは、Grate White Mageと呼んでいるようです。


 帝国外の諸国の人の認識では、これらは、力の差というよも単に寿命の差だと思われているようです。

 それだけに、我が帝国神聖力術師養成大学は、最高機密機関でもあり、そうした人材を養成する重要な場所であります。

 皆さんも、そこに集い学べることを誇りに思って下さい。

 


「赤い荒野」のライオン達を魔物に変えるという呪いをかけた者は、明らかに黒魔術師または、Black(ブラック) Mageだと思われました。


 ラファエル殿下たちは、使徒のトリスタン、アーサーを従えてシャバラリオ国の繁華街におられました。

 前回、使徒たちが情報収集に訪れた町とは異なる町です。

 出来る限り、「赤い荒野」のライオン達の住む岩山に近い町を選んだのです。


「やはりお前は目立つなぁ。これでも被っておけ」

 と、ラファエル殿下はアレクサンドル殿下の美しい金髪に帽子を被せられました。


「兄上こそ、目立ちますよ」

 兄君に頭に乗せられた帽子を被り直しながら、ちょっと不満げにおっしゃられました。


「おれは、いざとなれば、相手の記憶を消す」

 ラファエル殿下のお言葉に、ふたりの使徒のトリスタンとアーサーは顔を見合わせて、ほくそ笑みました。

 そうおっしゃりながらも、ふたりの皇子は目立ちます。

 まず、佇まいから育ちの違いが溢れ出てしまいますので、帝都の市街ならまだしも、シャバラリオのような貧しい廃れた街中では、どうしても浮いてしまうのです。

 そこで、まずは使徒たちが偵察に町へ向うこととなりました。


 前回同様に、酒場を回ったり、裏路地を歩き回ったり、時には空からも偵察をしたりしては主人である殿下達に報告へ戻りました。


 シャバラリオの町の情勢をある程度掴んだところで、殿下たちも古着屋で調達した服を着こみ、無精ひげを生やし、滲み出るオーラを消して自ら町を歩き回られました。


 まだ士官学生であるアレクサンドル殿下は、下々の生活を直で見て回ったり、そうした生活を体験したりするのは初めてでおられました。


 平和で豊かなスチュアートリア帝国内と異なり、すさんだシャバラリオの薄汚れた繁華街の様子は驚きの連続だったようでございます。

 その経験が、アレクサンドル殿下の予知能力のさらなる発展をうながされたようでございました。


 皇子殿下方の一番の気がかりであり早急に見つけたいのものは、アイザックの子ライオン達でした。

 さらわれた時は、子供であったライオン達も既に大きくなっていると思われました。


 成獣の雄のライオンで体長が2メートル前後、体重は190kg前後です。

 雌であったとしても、1.8メートル前後、体重は130kg前後です。

 普通であれば、そんな猛獣を数匹も隠して飼っているのは不可能です。

 声や匂いで近隣の住民に疑われることでしょう。


 但し、相手が黒魔術師であった場合は、魔術によって手懐けているかもしれません。

 その場合、その目的を知ることが重要です。


 使徒たちは、怪しまれぬように姿を変えながら聞き込みをして

『港の方の倉庫街に黒魔術師が集まる界隈がある』

 との有力な情報を掴んで参りました。


 するとアレクサンドル殿下は

「兄上!二通りの未来がが見えました。ひとつは、ライオン達を兄上たちが救出する様子で、もう一方は、ライオン達が檻に入れられて船に乗せられるところです」

 と、予言されました。


「そうか、未来は我々の行動次第ということだな」

「アレックス、私たちが救出している方の周囲の細かい様子は見えるか?」


「はい、潮の香りがする港町なのはどちらも同じです」

「時間帯は、船に搬入されるのは深夜です。檻の数は…三つです」

「敵は黒魔術師の風貌で人数は…8人です。兄上たちが救出している方は、朝方か日中で、日が高く明るいです」

「ライオンの頭数は4頭で、1頭は怪我をしているようです」

「それ以上はわかりません」


「ありがとう、アレックス」

「それだけでも十分貴重な情報だ。慎重に対応しないと、一頭の命が危険にさらされるということだな?」


 それから、ラファエル殿下は、目立つアレクサンドル殿下とその使徒のアーサーを宿に残され、そろそろ到着する後方支援部隊との連絡役を仰せつけになりました。


 ラファエル殿下としては、アレクサンドル殿下が目立つということよりも、黒魔術師を相手にするには、アレクサンドル殿下がHoly(ホーリー) Mage( マギ )としてまだ実力不足だと判断されたのです。


 そうして、後方部隊をシャバラリオのライオンの岩山に近い村に残し、主人の元に戻っていた使徒クロヴィスと共に来たブルーフォレスト少佐と合流されました。

 そして、ご自分の使徒と三人で、黒いフードマントを被り黒魔術師が集うという界隈に向かわれました。


 そこは港の倉庫街で、雑踏の中に荷馬車が行き交う音や、荷造りをする船人夫を叱り飛ばす船主の声、船大工が船の修理をする音などの様々な音が飛び交う騒々しい町でした。

 その倉庫街の一本裏手の路地入ると、倉庫に光が遮断されているせいなのか、昼間から薄暗く、ゴミがあちらこちらに落ちている不衛生な場所になっていました。

 生ごみが腐った匂いに酒やたばこの匂いが混じり、鼻をつく悪臭に思わず口鼻を覆いたくなるほどでした。


「ここなら、獣を隠すには最適な場所かもしれないな」

 と、ラファエル殿下は思われました。


 偵察に行っていた使徒が聞き込んだ話によると、この辺りの昼間から営業しているとみられる酒場に、黒魔術師達がよく集まっているとのことでした。

 三名は、その通りにひしめく怪しげな店の中から一番怪しげな店を選んで入られました。


 店内は、さらに薄暗く、店主と思われる陰気そうな男がカウンターでグラスを磨きながら三人をジロリと見ました。


「いらっしゃい」の一言も言わない店主を見ながら、三人は迷わずカウンターに座り、

「おすすめを一杯ずつ」

 と、注文されました。


 すると、店主は

「旦那たち魔術師さんですかい?」

 と、小声でささやいた。


 フードを深く被ったままで、ラファエル殿下は、普段と声色を変えられた低い声で

「ああ、そうだ」

 と、答えられました。


 店主は、グラスを磨く手を止めて、店内の隅を目配せしながら言いました。

「今日の集会は無いよ。でも、あそこのテーブルにいる人たちも黒魔術師様だ。」

 と、言いました。


「そうか」

 と、答えられた殿下はチラリとそちらを見ただけで、慌てることなく、しばらくカウンターに席に座っておられました。


「店主。おれたちは、この町に来て浅い。いい仕事があると聞いたんだが、あいつらに聞けば良い仕事に有りつけそうかい?」

 と、殿下がおっしゃいました。


 店主は、にやりと笑うと

「我々にはヤバイ仕事ですが、黒魔術師さまにとっては願ったり叶ったりの仕事があるかもしれませんぜ」

 と、言いました。


 すると、殿下は、

「そうか」

 と、お答えになってから

「店主。ジョッキでビールを二杯頼む」

 と、注文されました。


 そして、出されたビール二杯を手にして

 店の隅のテーブルに居たふたりの男たちの元へ行かれました。

 男たちもフードマントを着てフードを被ったまま、ちびちびと酒を飲んでいました。


「やあ、お近づきのしるしにどうぞ」

 と、殿下がふたりの前に持っていたジョッキを置かれました。


「おう、あんた見ない顔だな」

 男のひとりが、殿下を見上げながら言いました。


「まだ、こっちは浅くて…流れ者なんです。金がそろそろ底を突きそうなんで、なんかいい仕事はないですかい?」


 怪しい男たちは、

「あんたも魔術師だろ?あっちの二人もか?」

 と、言いました。


 殿下はその質問には何も答えられず、男たちが飲んでいたほんの少し酒の残ったグラス向かって指先を向けられました。

 するとグラスの中からで、ボッと炎が立ち上り天井近くまでの火柱となりました。


「あ、ちょっと炎が大きすぎましたかね?」

 と、殿下がおっしゃると、魔術師のひとりが

「あんた、詠唱無しで魔法が使えるのか?」

 と、言いました。


 魔法というのは、基本的に自分たちの身の回り存在するものを利用するので、呪文、詠唱、生贄などを必要とすることが多いのですが、神聖力(ホーリーパワー)は自分の魂に宿る力を使って物質や霊を操るので基本的には念じるだけで良いのです。


 殿下は「これはやり過ぎたか?」

 と、心の中で思いましたが、落ち着いて答えられました。

「これくらいの簡単な魔術なら。でも、大きな魔術はそうはいかないです」


 殿下にテレパシーで指示を受けた少佐が、新たなジョッキで酒を持って彼らの席にやって来て魔術師達の前に置き、殿下の隣の席に着いて言いました。

「俺もまぜてくれ」


「おう、悪いな」

 と、ふたりは怪しむことなく、ジョッキを持ってくびぐびと飲み干しました。

 先程のお酒とこのお酒には、飲んだ者にわからぬようにアルコール濃度が高まる魔法がかけられておりました。


「大きな魔法と言えば、魔物を作る魔法があるとか聞きますが憧れますね。自分で自在に操れるんですかね?」

 と、殿下が尋ねられると、


 すっかり酔いの回った男が

「おう、ちょうど良いな。今ならライオンの子で作った魔物がいるぜ。見たいかい?」


 殿下と少佐は、心ので「ビンゴ!!!」と叫びました。


 しかし、そこは慌てずに

「へえ~、そんなものを作れる魔術師なんているんですか?」

「なかなか信じられませんね」

 と、殿下がおっしゃると、男は気を許したように

「おれも初めは信じられなかったけどよ」

「この国の西に赤い荒野ってのがあるだろ?あそこの魔物もそいつが作ったんだと」

「そんで、その魔物を数匹持っているんだ。一度見せて貰ったが怖かったぞ」

 と、言った。


「へぇ~、そんな偉大な魔術師さまが? さぞかし有名な方でしょうな」

「俺のような者でも聞いたことある名前かなぁ?」

 殿下と大佐は、もう一息だと、固唾を呑んで男の言葉に耳を傾けておられました。

 一方、カウンターに残った使徒のトリスタンは、店主の様子を監視していました。


「大魔術師、ヘドヴィク様だよ。」

 と、男は言いました。


「ヘドヴィク様か!! 聞いたことがあるぞ!! 」

「で、ヘドヴィク様は、魔物を作って何かこれから何か大事をされるのかな? 」

「自分の召使にするにはちょいと物騒だうろ? 何か大きな目的でもあるなら俺もいっちょ、かませて貰いたいところだ」

 と、少佐がおっしゃると、男は、酔っていながらもまだ警戒心は残っているようで、小声で耳打ちをしました。


「国の()()()()。」

「黒魔術師が支配する国を作りたいんだと。」


「まずは、ここシャバラリオ、そして隣のマントバナを支配するのが、当面の目標だとか」

「そのためには、スチュアートリア帝国に介入されないように赤い荒野を魔物で固めておきたいらしい。」


 その言葉に、三人はぎょっとなさいました。


 まさかそんな大それたことを考えているとはと、驚くと共に、アレクサンドル殿下の予知に感謝されました。


「へぇ~、おれたちも仲間になれますかね?」

 と、尋ねられると

「ここで、毎週、黒魔術師の集会があるから、来たら紹介するぜ」

「あ、でも、魔物のライオンは早く見せて貰わないと見られなくなるぞ」

「近々、海の向こうへ連れて行くらしいからな」

 と、言ったのです。


「そりゃ急ですね」

「なぜ海の向こうに?」


「こっちだと、帝国の者に見つかりそうだし、あっちで繁殖させてライオンの魔物軍団を作るつもりらしい。それが上手く行ったら、人間も洗脳する実験を考えているとか」


 殿下も少佐も心の中で、

「なんてやつなのだ!!」

 と、憤慨されておりました。


 しかし、そこはぐっとこらえられて、

「次の集会はいつ?」

 と、尋ねられましたが、黒魔術師はすっかり酔いがまわって寝てしまいました。


 仕方なく、殿下は彼らの脳にアクセスされて、ライオンの子が捉われている場所を探られ、彼らの頭の中から殿下たち三人の記憶を消去されました。


 そして、カウンターに戻り店主に

「次の集会はいつだい?」

 と、尋ねられました。


 店主は

「来週の今日の日没後です。」

 と、答えてから

「それが、最後でしばらくこの国を留守にされるそうです」

 と、付け加えました。


「そうか、じゃあまた来週、邪魔するよ。これはチップだ」

 と、言いながら殿下は、店主の手にシャバラリオ金貨を握らせられました。

 三人が店を出た瞬間に、店主の頭の中から殿下たち三人の記憶が消えるように暗示をかけながら。


 店を出た三人は、

「なんて恐ろしい計画なのだ」

 と、思いもしなかった策略を知り、身の毛がよだつ思いがして背筋が寒くなられたそうです。


 そして

「やはり、ライオンの子の救出を急いだ方が良いな」

 と、ラファエル殿下がおっしいました。


「そうですね。来週まで待って、主犯の黒魔術師をとっ捕まえやりたいが…、それだと遅いかもしれません」

 少佐もかなり激怒されていました。

「船に乗せられてしまってからでは、四頭全てを無事に救出するのは難しいかもしれません」


「ここは、やはりアイザックとの約束を優先しよう」

「アレクサンドルの予知だと一頭は瀕死状態なのかもしれないしな」

 と、ラファエル殿下は作戦を立てられました。


 今夜のうちにライオン達のいる居場所を突き止め、まず呪いを解く。

 ライオン達にも至近距離からなら殿下の精神感応力が通じるようなので、アイザックの言葉を伝え脱走させる。

 結界を張って、黒魔術師の目をくらませば、日暮れまでには「赤い荒野」ギリギリまで辿りつけるだろうという計算をなさいました。


 そして、殿下は、トリスタンをアレクサンドル殿下とステイシア殿下への連絡に向かわせました。

 いざとなれば、戦力として少佐の使徒(ドラゴン)のクロヴィスがいるので、黒魔術師8人程度なら、おふたりで十分でした。


「アレックスが予知した黒魔術師は8人だった」

「おそらく、そのうちの二人はさっきのヤツらだろう。力は知れたもんだが、あのまま数時間は寝ているはずだ」

「残る敵は6人。ヘドヴィクというBlack(ブラック) Mage( マギ )以外は雑魚だろう。」


 殿下が、そうお考えになるのはアイザックたち荒野のライオンを魔物に変えるのに数日の手間をかけているからです。


 魔術は、神聖力(ホーリーパワー)と違い、その土地の魔力を利用して呪詛をかけるので時には、生贄が必要であったり、複数人で力を合わせたりして時間を要するのです。

 もし、強大な力を持つBlack(ブラック) Mageが複数名いたならば、そのような手間や時間をかけずとも、アイザックたちはもっと早く魔物にされていたことでしょう。

 そう推察された殿下は、今回はBlack(ブラック) Mageヘドヴィクを見逃してライオンの子供たちの救出を優先される決断をされました。


 そこにアレクサンドル殿下が、殿下の愛馬を伴って駆けつけて来られました。

 後方部隊への伝達を終えた使徒のトリスタンとアーサーも一緒です。

「兄上、すみません。いいつけを破りました。でも、兄上に馬が必要な未来が見えたのです」

「そうか!アレックスの予知は間違いないからな。明るいうちに作戦決行だ。ついてこい!! 」

 と、おっしゃられました。


 黒魔術師というのは、自分たちにとって一番力をくれるのが闇の力だと思っているらしく、夜に活動することが多いのです。


 殿下と少佐が、ライオン達が捉われている倉庫のドアを神聖力(ホーリーパワー)でぶち破られ、(あら、失礼。おもわず、私も感情移入してしまいました。 by語り部ガブリエラ) 殿下達と少佐で手分けし、檻に入れられたライオン達の呪いを解かれました。


 その中の一番小さいライオンが、アレクサンドル殿下の予知通り衰弱していました。

 おそらく、弱った時点で餌を与えられなかったのでしょう。

 呪いが解けたその姿はやせ細ってガリガリでした。


「むごいことをする。」

 ラファエル殿下が治癒魔法を施すと、なんとか動けるようになりました。

「少佐、このライオンをクロヴィスに乗せて先にアイザックの元へ行けるか?」

「はい、殿下。それは可能ですが、もし黒魔術師に襲われた時に殿下方と使徒たちだけでは…」


「いや、大丈夫だ。うちの気の利く弟と使徒トリスタンが、私の愛馬と共に戻って来てくれたからな」

「私は、馬で三頭のライオン達と荒野まで駆け抜ける」

 アレクサンドル殿下とトリスタンは、殿下のお褒めのお言葉に笑みをこぼしました。


 そして、まだ檻に入っているライオン達の脳に直接話しかけられました。

「私は、おまえ達の父アイザックから、おまえ達を助けるように言われて来た」

「必ず、アイザックの元に戻すから私を信じてついてきて欲しい」

「荒野までは、おまえ達の敵がいるから脇目もふらず突っ走って欲しい」


 アイザックの子供たちは、呪縛から解かれたばかりで状況把握に戸惑っている様子でしたが、ラファエル殿下の神聖力(ホーリーパワー)を受けているうちに徐々に我を取り戻し、父アイザックの元に戻りたいという気持ちで満たされたのでした。


「結界を張って、周囲の者から見えないようにして走り抜けるから、出来るだけ私から離れずに走ってくれ」

 殿下が語りかけられるとライオン達は静かにうなずきました。


 そこへ、ドアをぶち破られた音に気付いた、“ヘドヴィク”の仲間らしき男がやって来て、

「おまえらここで何してやがるんだ!」

 と、叫びました。

 ライオン達が檻から出ているのを見て、ぎやー!!と叫んで腰を抜かしているところを見ると“ヘドヴィク”というBlack(ブラック) Mageではなさそうでした。


 すぐに、殿下はその男を眠らせ、記憶を消し

「他のBlack(ブラック) Mageと仲間が来ないうちら急げ!」

 と、おっしゃって外に出ると、ひらりと自分の愛馬にまたがられました。

 アレクサンドル殿下がそれに続かれます。

 殿下たちの使徒のアーサーとトリスタンは、それぞれイーグルの姿に戻って空に舞い上がり周囲を偵察して、

「ご主人様、こちらが安全です」

 と、合図を送りました。


 ラファエル殿下が、

「みんな、俺に続いて走れ!!」

 と、言って使徒たちの示した方へ馬を走らせました。


 少佐は、使徒((ドラゴン)のクロヴィスの背に、痩せ衰えていたライオンと共に乗って舞い上がり、残りのライオン達も先頭のラファエル殿下の後について走り出しました。

 その後方から、ライオン達を見守るようにアレクサンドル殿下が付き添って走られました。

 殿下達が結界を張られているので、町中をライオン達が駆け抜けても疾風が駆け抜けたようにしか思えず、週人たちには見えません。

 こうして、三頭のライオンを伴った殿下達はシャバラリオの町中を駆け抜け町はずれの「赤い荒野」との境界の村まで一気に駆け抜けられました。


 「赤い荒野」の入り口付近で、先に到着したプルーフォレスト少佐、ステイシア准将と支援部隊が待機しておられました。

 少佐と共にクロヴィスに乗って空輸された衰えたライオンもステイシア閣下の強力なヒーリング術で回復し、後から来た三頭と共に父アイザックの元に戻って行きました。

 こうして無事に子ライオン達は赤い荒野の父の元へ戻れたのでした。


「赤い荒野」の長であるアイザックは、改めてラファエル殿下への忠誠と、殿下が皇帝になられた暁には、殿下の忠実な臣下になることを誓ったのでした。


 ラファエル殿下は、リルクガーラント駐屯地戻るとイエローバレー大佐に向かって頭を下げられました。

「すまん、一番の元凶の男を捕まえられなかった」

「大佐のイエローバレー伯爵領に対して禍害の根源を作ってしまったかもしれん」

「もっと、上手く作戦立てていれば、ヘドウィックとかいうBlack(ブラック) Mageを捕まえられたかもしれないのに…」


 イエローバレー大佐はラファエル殿下に頭を下げられて慌てながら

「いえ、閣下!頭をお上げて下さい。今回のことは、閣下たちにしか予期できなかった事です」

「『赤い荒野』を超えたあのシャバラリオという蛮国で、そのような陰謀を企む者がいるとは予想もしておりませんでしたし、我々に知る由もありませでしたから」

 と、おっしゃり、アレクサンドル殿下に向かって

「アレクサンドル殿下ありがとうございました」

 と、頭を下げられました。


 えっと、驚くアレクサンドル殿下に向かって大佐は、

「殿下が予知されていなければ、このような陰謀が発覚するまでに、事態がどれほど悪化していたかもしれません。少なくとも『赤い荒野』の魔物とBlack(ブラック) Mageがスチュアートリア帝国を襲ってくるという事態を未然に防ぐことが出来ました。心より感謝申し上げます」

 と、おっしゃいました。


「いやいや、私は予知しただけで、行動されたのは兄上と帝国軍の騎士の皆の者だ」

「私は、士官学生の身ですから、足手まといにならないように必死でした」

「本当に良い経験ができたと思っています。こちらこそ感謝申し上げます」

 と、今度はアレクサンドル殿下が大佐に頭を下げられました。


 すると、それを傍でご覧になられていたステイシア殿下とブルーフォレスト少佐も

「我々も突然やって来たのに、色々とご協力をして頂いたことに感謝せねばなりませんね」

 と、頭を下げられました。


 スチュアートリア帝国皇帝子息の三名の殿下に頭を下げられては、イエローバレー大佐も恐縮してしまいます。


 あたふたされるイエローバレー大佐を見ながら、

「これでは、大佐がいじめられているみたいね」

 と、頭を上げながらステイシア殿下が笑われました。


「はい…。もうやめて下さいませ」

 と、大佐がおっしゃると

「大佐、私も西の辺境領を治める一族として、伯爵家のご苦労もお察しいたします」

「もし、またBlack(ブラック) Mageの怪しい動きがあれば、いつでも使徒と共に加勢に駆けつけますゆえ」

 と、少佐が手を差し伸べられると

「それは、かたじけない少佐。対人間に対しては軍の騎士たちで十分対応できますが、Black(ブラック) Mage相手となると我々Holy(ホーリー)Mageの役目ですからな。何かの時は、お力をお借りすることになるかもしれません」

 と、大佐も手を差し出された少佐の手を握り、固い握手をかわされました。


「もちろん、総司令官であらせられるラファエル殿下のご指示があればですが…」

 と、ラファエル殿下の方をご覧になられました。


「この広いスチュアートリア帝国の平和がこうして維持されているのは、みなのそうした熱い思いがあるからだ。これからも我々で一致団結して帝国と帝国民を守ってまいろう」

「大佐、これから脅威が増えるかもしれないが、よろしく頼む。何か少しでも異変があれば、報告を頼む」

「かしこまりました。このアルフレート・ガルシア・イエローバレー命を懸けてこの地を守る所存です」

 と、騎士としての敬礼をなされました。

 ラファエル殿下もそれに対して、最上級の答礼をなさいました。


 そして、ふたりの皇子殿下とブルーフォレス少佐、ステイシア准将とその部隊はアムンゼン基地に戻られ、殿下一行は帝都トロアへ帰還されたのでした。

 しかし、Black(ブラック) Mage( マギ )の陰謀は消えたわけではありません。


 この後も歴史は続きます。





挿絵(By みてみん)

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