女性准将とふたりの皇子
引き続き、語り部の
ガブリエラ・サーシャ・ラング先生よる
「赤い荒野の闘い」のお話です。
帝国軍アムンゼン基地の陸軍司令部
司令官室。
アムンゼン基地の司令官室には、この基地司令官であらせられる准将閣下が、ご自分専用の机に向かって座っておられました。
当時64歳の准将閣下はございましたが、見た目は20代のようでした。
この方もHoly Mageとして陸軍所属の准将の任に就いておられました。
准将閣下は、皇子たちの突然の訪問を嬉しく思いながらも、やはりなにやら訝しいと怪しんでおられました。
そして、准将閣下の傍らに控える使徒のフランツに向かっておっしゃいました。
「ちょっと、フランツ! 」
「ラファエル総司令官が来るとの連絡は受けていたけれど、アレクサンドルまで来るとは聞いてなかったわよ!!」
使徒のフランツは、
「私もです」
と、冷静を装って答えました。
帝都からの重要な連絡を受け取りするのは、使徒のお役目です。
フランツは内心、自分の不手際だと責められるのではないかと、ひやひやしながら目を白黒させていました。
すると、折よく閣下の部下がやって来て敬礼しながら准将閣下に報告されました。
「ステイシア閣下!!」
「ラファエル総司令官が准将閣下をお呼びです」
ステイシア准将閣下は、部下の言葉にうなずき軽くと、書類が山積みになっている自分の机から立ち上がりました。
「すぐに行くわ」
閣下は、総司令官作戦会議室に向かわれました。
ステイシア殿下が作戦会議室に入室されると、ふたりの殿下が椅子から立ち上がられました。
「ようこそ、お越しになりました総司令官。先程の訓示はなかなかでしたよ」
軍の総司令官であるラファエル殿下は、准将閣下の上官となられます。
「お久しぶりです。姉上」
と、ラファエル総司令官が言うと
「ほんとに何年ぶりかしら? アレクサンドルなんて前回会った時は、ほんの子供でしたものね。ずいぶん青年らしくなったこと。士官学校で頑張っていると母上から聞いていますよ」
「はい、姉上。今回は、現場を視察して、経験を積むようにとの父上のご命令で、兄上に同行させて頂きました。まだまだ未熟者ですので、よろしくご指導願います。スチュアートリア准将閣下」
と、アレクサンドル殿下がご挨拶なさいました。
すると、ステイシア准将閣下は
「あら、同じスチュアートリアの姓を持つ者同士ですし、いずれはあなたが私の上官になるのでしょうから、名前で呼んでちょうだい」
と、仰せになりました。
アレクサンドル殿下は、予想外の姉上のステイシア王女の優しい言葉に驚きつつもほっとされておられました。
アムンゼンは、帝国の最南東に位置し、いざ隣国との戦争ともなれば最前線ともなる重要拠点基地のひとつであります。
ふたりの皇子の姉君であらせられるステイシア・スカーレット皇女陛下は、そんな重要拠点であるアムンゼン基地で准将の任に就いておられる優秀なHoly Mage騎士であらせられました。
これは余談になりますが、ジェームズ皇帝陛下とフリーデシア皇后陛下の間には二人の皇子と五人の皇女様がお生まれになりました。
そのうちHolyMageとして神聖力を所持されていたのは、おふたりの皇子とステイシア皇女の御三方のみでした。
神聖力を持たなかった皇女様たちは帝国の貴族の殿方に嫁がれた後、皆様が既にご他界されておられます。
皇女様方の中で唯一、神聖力をお持ちのステイシア皇女様だけは、現役の陸軍准将としてご活躍されておいでなのでした。
ちなみに現在は500歳を超えられたので海軍准将の地位からは退かれておられます。
さて、話は元に戻りまして、ステイシア准将閣下が優しい姉からスチュアートリア陸軍准将の顔になられたところからです。
「ところで、ラファエル」
ステイシア閣下が厳しい口調で言いました。
「アムンゼンへ来たのは、基地の視察と兵士への激励だけではないでしょう?」
「さすが姉上、実は、アレクサンドルが予知をしたのです」
「アレクサンドルの予知能力は、父上譲りのようね。それで、どんな内容なのかしら? 父上が、あなた達ふたりを直接よこすのだから、それなりの内容なのでしょう?」
「はい、姉上」
と、ラファエル殿下がお答えになり、アレクサンドル殿下に目配せをされました。
「はい、姉上。簡単に申し上げると、シャバラリオとマントバナが開戦し、戦地が『赤い荒野』となって我が帝国民が巻き込まれる未来が見えたのです」
弟の言葉に少し驚きつつも、冷静な軍の女性指揮官はおっしゃいました。
「それは、どれくらい先の未来なのかしら?」
「父上にも同じ質問をされたのですが未熟な私の能力ではそこまでは見えませんでした。ただ、それほど遠い未来という感じもしませんでした。そして、この未来も変わる可能性もあります」
「そうね。未来は、現在の我々の行動次第ですからね。戦争を回避する未来もあるってことよね?」
姉のステイシア殿下の質問にアレクサンドル殿下は大きくうなずかれました。
「それで総司令官閣下のこれからの作戦は?」
准将閣下は身を乗り出すように、上官であるラファエル弟殿下に詰め寄られました。
「はい、まずはここでの情報収集からです。それと、私かマントバナ国王と会ってあちらの現状を伺って参ります。場合によっては、私の力を使って国王の本音を覗いてみるかもしれません。まぁ、これは最終的な奥の手ですが…」
「それで、姉上、アムンゼンの状況でいくつか気になったことがありました。それについては、こちらのブルーフォレスト少佐から報告を聞いて頂いて下さい」
と、総司令官と准将は作戦会議を始められました。
そして、姉と弟ふたりと、腹心の部下の会議は深夜まで続いたそうです。
つもるお話もお有りだったのでしょう。
そして、数日後にマントバナ国王からの正式な招待状が届きました。
マントバナ国王はHolyMageではなく魔法を使える者でもありませんでしたが、国民の人気も高く温厚な国王陛下でした。
一般の国と同じく、お世継ぎを絶やさぬためにお后様の他に数人の側室がおられて、皇太子殿下以外に数名の王子と王女、庶子が数名おられました。
マントバナは、南西の海に面しており漁場も豊で海産資源が豊富でした。
また、穀類の収穫も多く見込める土地もあり、帝国との交易も行っている友好国でした。
シャバリラオとは、『赤い荒野』の険しい峡谷の切りたった崖に阻まれており、国境が隣接しておりません。
また、いくつかの部族や民族に分裂しており、それぞれの部族長がおりました。
それを力の強い長がなんとかまとめている国なので、ひとつの国という形ではなく国内はいつも不安定な状態でした。
そんなシャバラリオとマントバナは、太古の昔に小競り合いはあったものの大きな戦の記録はありませんでした。
= マントバナ王国 謁見室 =
「お初にお目にかかりますマントバナ国王陛下」
「父ジェーム・ステファン・ハイデルベルト・スチュアートリア皇帝に代わり、息子のラファエル・オーエン・ハイデルベルト・スチュアートリアがご挨拶に伺いました」
王妃と共に王座に座ったマントバナ国王は、にこやかにスチュアートリア帝国の第一皇子に挨拶されました。
本来ならば、マントバナ国よりはるかに強大なスチュアートリア帝国の第一皇子が、自ら出向いて謁見することはあり得ないことです。
むしろ、帝国側がマントバナ国王を呼び寄せて謁見させる側だからです。
だからこそ、マントバナ国王はホクホクしておりました。
まだ独身の帝国の皇太子が自ら来るからには、王女を娶りたいとの申し出かもしれないと期待したからです。
王女たちも、あのスチュアートリア帝国の第一王子が自ら来訪したとなれば、一目ご尊顔を拝そうと気もそぞろでした。
しかし、ラファエル殿下の目的は、マントバナの国内情勢を確認することです。
まずは正面から国王陛下に質問することにされました。
「私は、今回、帝都から船でアムンゼンの港に参ったのですが、以前と町の雰囲気が変わっているように感じたのですが、貴国の方は、お変わりありませか?」
ラファエル殿下は、遠回しにマントバナ国王に探りを入れられました。
「スチュアートリアの皇太子殿下は、東側方面にはお久しぶりの来訪とのこと。私は、毎日居るからか、変化は感じておりませんのう」
ラファエル殿下は心の中で
『おやおや、マントバナ国王は、なかなかのたぬき親父かもしれないな。隣国に自国の弱点ともなり得ることを話すわけはないが…、世間話だとしても、自国の利益になることしか語る気はなさそうだな』
と、思われました。
「そうでしたか、私の気のせいなのかもしれません。他国へ来ることなど滅多にありませんので、ちょっと浮かれているせいでしょうか? 」
と、ラファエル殿下は、相手の腹の内を察した話題に変えて
「こちらの王宮の庭園は美しいですね。女性たちもお美しい方たちばかりだ」
と、おっしゃいました。
すると、待っていましたとばかりに、マントバナ王妃が口を挟まれました。
「殿下は、独身でらっしゃいましたよね? 」
「今夜の晩餐会と舞踏会には、我が国の王女や名門貴族のご令嬢たちも招待してありますので楽しんで下さいませ」
きたきた、やっかい案件…
ラファエル殿下は予想通りとは思いつつも、やはり一番の難題だなと思っておられました。
HolyMageである皇室の男子は、神聖力のおかげで普通の人間よりもかなり長寿であり、HolyMageしか皇太子にはなれません。
ゆえに、お后候補も、基本的にはHolyMageかWhite Mageの方を選ぶのがベストであり、王族の姫である必要は無いのです。
例外は、ツインレイのみです。(ツインレイについては、また後日お話ししましょう)
HolyMageについては、帝国皇室の重要機密でしたので、表立って言うことはタブーでしたから他国の王室が知る由もありません。
しかし、ラファエル殿下は、この機会に姫君たちが目をハートにしているのを利用してマントバナの国内情報を収集することにしました。
ラファエル殿下に同行していた数人の騎士とブルーフォレスト少佐も舞踏会に参加することとなり、彼らも女性たち相手に世間話という情報収集に励んだのでした。
姫君たちもマントバナのお嬢様方も、おしゃべり好きが多いようでかなりの収穫があったようでした。
そして、勘違いされた姫君たちのラブレターと共に基地にご帰還された、ラファエル殿下ご一行様なのでした。
おつかれさまなことです。




