リゲル・ラナ星「スチュアートリア帝国」
宇宙は、調和のとれた法則で成り立っている。
人間の叡智では、その全てをはかり知ることは出来ない。
その人間を遥かに超えた全知全能の存在。
全てを司っている光とエネルギーの源。
それを、人は「神」GODと呼んでいる。
左と右、上と下、
正(+)と負(-)、善と悪…。
物事には必ず対になるものが存在する。
「光」の反対は「闇」
「神」の反対は「悪魔」
しかし、宇宙空間には上も下も、右も左も無い。
善と悪はだれが決めるのか?
人間は、その中間的存在に触れると、扱いに困る。
どうしても白黒をつけたがる。
では、「人」は善なのか?
悪なのだろうか?
K302銀河のアデレル系第七惑星「リゲル・ラナ」
ここに生きる人々にとって、魔法は珍しいものではなかった。
しかし、その力は、努力なしで誰にでも生まれながらにして使える力ではなかった。
努力しても使えない力も多く、人によって得意不得意があるのと同様である。
それも才能のひとつなのである。
もちろん、魔法の力が強い者の方が優位なのには間違い違いない。
物体操作系、パワー系、ヒーリング系、精神感応系、…それぞれの得意分野が異なる。
「魔」がつくので「悪魔」の力のイメージであるが、そうではない。
魔法を超えた魔法は、「神聖力」Holy Powerと呼ばれている
魔法が生きている星は他にもある。
「リゲル・ラナ」は、魔法を超えたHoly Power「神聖力」が生きている世界なのである。
どの星、どこの国に生まれようと人間である。
能力や考え方やアイデンティの形成に育った環境が大きく影響するのだろう。
ただ、それに甘んじない者も、自ら生き方を切り開いていく者もいる。
世界は、そんな者たちの味方なのか?
そうではないのか?
宇宙の法則の前に人の善悪の判断も考えも肯定されるとは限らない。
しかし、それが宇宙の秩序なのである。
この星《リゲル・ラナ》で、最も国土の広い国、スチュアートリア帝国。
この広大な帝国をひとりの皇帝が統治しており皇帝自身も「神聖力《Holy Power》」を持つ「Holy Mage」である。
「神聖力」が強く、その力を自在に操れる者は「Holy Mage」と呼ばれている。
皇帝の名はアレクサンドル・エイデン・ハイデルベルト・スチュアートリア。
そして、その息子ウィリアム・アーノルド皇太子もHoly Mageである。
= スチユアートリア帝国 =
ルデ・トロア王宮皇太子執務室
澄んだ青い目と金髪が美しい皇太子は、見た目は20代前半の若造にも見えるが、実年齢は200歳をゆうに超えている。
強力な神聖力《Holy Power》を持つ者は、その生命力も強く、寿命も長い。
彼の父、「皇帝アレクサンドル」も471歳である。
「ウィリアム皇太子殿下、レッドリオン公爵がおいでになりました」
執務室の扉が開き、スラリと背の高い栗色の髪の美しい青年が、近衛騎士に案内されて入室した。
彼の腕には、大きな鷲が止まってい。
「レッドリオン公爵、わざわざ忙しいのに悪いな」
「ウィリアム殿下。殿下の使徒を直接使わすとは、何か火急の御用でも?」
鷲は、青年の腕から飛び立ったかと思うと、人間の青年の姿になり皇帝の背後に控えるように立った。
「ローガンご苦労だった。また用があれば呼ぶから下がっていなさい」
皇太子殿下にそう言われた青年は、再び鷲の姿になり奥の部屋に飛んで行った。
「最近、西のブロッサン国との国境近くで不穏な動きを感じるんだ」
皇太子であるウィリアム。
レッドリオン公爵こと、アラン。
ふたりは、祖父を同じくする従兄同士である。
ウィリアム皇太子が最も信頼する者のひとりがアラン公爵なのである。
皇太子は、人払いをして、アラン公爵とふたりだけになり、執務室のソファーに向かい合って座った。
「古の昔より『魔の森』と呼ばれている場所がある。アランも我々の祖父であるジェームズ先帝から聞いたことがあるだろう。あそこには、『時の扉』が隠されているとの伝説もある。今のところ、不穏な気配を感じだけなのだが、場所が場所だけに気になる」
従兄であるアランは、ウィリアムの前ソファーに座って言った。
「殿下には、なにか不穏な未来が見えたのですか?」
アランも思い当たる節がある表情で身を乗り出した。
「いや、はっきり何かが見えたわけでは無いのだ。今すぐに、何か国家に関わる大事が起こるというわけではなさそうなのだが、未来に関わる何かが動いている気がしてならんのだ」
ウィリアム皇太子の秀でたHoly Powerのひとつが『未来予知能力』である。
その予知は、直前~数年まで予測ができる。
近い物体がハッキリと見え、遠い物体は、ぼんやりとしか見えないと同様に、予知未来の見え方にも、場所や時間の関係で見え方に差が出る。
「しかし、我々にはこの帝国を守るという責務があるから油断はできない。危惧要因があるなら、早めに対処すべきかと思う。こういうことを相談できる相手は、アランしかいないと思い来てもらった」
例え、王家の血筋でもHoly Powerを持たない者は、皇帝にはなれない。
「絶大な神聖力所持者」は、Grate Holy Mageと呼ばれる。
アランも皇帝の血筋として、強力なHoly Mageであったが、まだ年齢的には若かった。
Grate Holy Magと呼ばれる者の多くは1000歳を超えている。
Holy Powerは魂に宿りその魂のレベルに連動するので経験値が大切になって来るからだ。
それでも、アランは充分に当代一と呼ばれるほどのHoly Powerを有していた。
「はい。もしもの時は、ウィルを助け協力し、スチュアートリア帝国と、このリゲル・ラナ星を守るようにと、祖父であるジェームズ先帝から何度も言われましたから…あ、失礼。ウィリアム殿下」
慌ててアランが言い直すと、
「ふたりの時は、従兄の幼馴染のウィルでいいぞ」
と、皇太子は笑った。
祖父のジェームズ先帝が、755歳で退位し、アランの父ラファエルが帝位を継いだ。
その198年後に皇帝の座を弟のアレクサンドルに譲って退位。
退位したラファエルが帝は、皇帝直轄領であったレッドリオン領地を大公国として所領地とし、レッドリオン大公となった。
アランは、一瞬緩んだ頬を引き締めて
「アレクサンドル皇帝陛下からは、何か聞いておられますか?私は、祖父ジェームズ帝から聞いた以上のことは…」
と、皇太子に尋ねた。
「いや、私もそなたが聞いているのと同じだ。皇帝陛下も同じく予知されているはずだが、何もおっしゃって来られないのは、やはりまだ父上にもはっきりは見えておられないのだろう」
ウィリウムの父である現皇帝アレクサンドルも予知能力に長けていた。
アレクサンドルの予知とアランの父であるラフェルは、その予知能力とHoly Powerで何度も帝国を救っている帝国の英雄である。
中でも「赤い荒野の闘い」、二回の「エド・ブロ戦争」での彼らの活躍は、誇るべき帝国史として語り継がれている。
「殿下や私の寿命が長いとはいえ、生きている時代に『時の扉』が開くとも限らないですが、開いてしまって大事が起きてからでは遅い。仮に『時の扉』が開いたとして、何がおこるのか全く予想がつかないとなると…どちらにしても調べておく必要がありますね? 」
と、アランが言った。
アランも若くは見えるが、ウィリアム皇太子より年上である。
「アレキサンダー先生にお尋ねしてみますか?」
「そうだな。先生なら何かご存じかもしれん」
アレキサンダー先生とは、彼らのHoly Mageの師匠である。
現在は帝国の特別相談役と「帝国神聖力術士養成大学」の特別講師をされている。
既に1000歳をゆうに超えている偉大なGrate Holy Magである。
「しかし、まずは自分たちでも努力しないと先生に叱られるからな」
と、ふたりの荒アレキサンダー先生の弟子たちは、顔を見合わせて笑いながら頷いた。
アランは、早速調査に入るべきだと思って言った。
「まず、『時の扉』についての記録や資料・本などの文献を王宮書庫から片端から集めて、帝国防衛騎士団の参謀室に分析させよう」
「防衛参謀長は、ヴァイオレット・フィールド侯爵だったか?」
「はい、そうです。シオンです」
シオン・・ミッシェル・ヴァイオレット・フィールド侯爵は、ウィリアム皇太子、アラン公爵、共に同じ学び舎で切磋琢磨した学友でもあった。
「あいつなら適任だな。皇室図書館に引き篭もる勢いで調べてくれるだろう。レッドリオン大公領の公立資料も調べさせて欲しい。場合によっては、他国からの資料も集める必要があるかもしれん」
「もちろんです殿下。でも、まずは隠密裏に進めないとなりませんから、シオンの報告を待ってからにしましょう。その後で、アレキサンダー先生のお知恵もお借りしましょう」
そういうと、アランのHoly Mageのひとつである精神感応で思念を飛ばし、宮廷内にいるはずのシオン・ヴァイオレット・フィールド侯爵に呼びかけた。
― シオン、アランだ。急に悪いな。宮廷内いるなら、皇太子殿下の執務室に来てくれ ―
アラン達Holy Mageは、精神感応能力により、近くにいる神聖能力者Holy Magaの精神に働きかけ思念を送ることが出来る。
「それでは殿下、西のブロッサン国との国境は、ブルーフォレスト辺境伯領地なので、私は、オスカー・エンドリケ・ブルーフォレスト騎士団長と、帝国陸軍騎士団の第5騎士団から小隊を連れて様子を見て来ます」
「何もなければ良いのだが…。アランの調査報告次第では、皇帝陛下とご相談のうえ、何らかの手を打たねばならなくなるだろう」
「叔父上は、この時期は、皇后陛下とトリリノール離宮にご滞在でしたね?トリリノール離宮は、ブルーフォレスト辺境領と帝都の中間にありますから、偵察遠征の帰還途中にご報告に参りましょう」
「頼んだぞ、アラン」
シオン侯爵が執務室に現れると、アランは、に一言、二言かわしてから執務室から消えた。
皇太子の執務室で廊下を歩くアランを見て侍女や他の宮女たちが騒めいていた。
「レッドリオン公爵! アラン様だわ!!」
「相変わらず、素敵~」
「とても200歳を超えてらっしゃるには見えないわ~」
「Mageの方たちは500歳くらいまでは老化せず能力も衰えないらしいわよ」
「アレクサンドル皇帝陛下もまたまだ若々しくてらっしゃるし、皇太后陛下もお美しいですものね」
「羨ましいわ~」
「ウィリアム皇太子殿下麗しくてらっしゃるし、レッドリオン公爵様もまだ、お后様がいらっしゃらないのよねぇ」
「他の国では、後継ぎを絶やさないために後宮に何人もの側室を囲っている王様もいるらしいのに」
「 Mageの方にとっては、適齢期は何歳くらいなのかしら?」
「アレクサンドル陛下も、兄君のラファエル前陛下も250歳前後でご結婚されたらしいわよ」
「どちらにしても、ハイスペックイケメンがふたりもフリーなんてもったいない~」
「皇帝は、Mageしかなれないし、お后様もそれ相応の方じゃないと務まらないから」
「まぁ、あたしたちにとっては、高根の花で見ているだけで目の保養ね」
= ブルーフォレスト辺境伯領 =
「騎士たちは、馬と使徒たちが休めるように別棟に案内してやってくれ。」
実家であるブルーフォレスト辺境伯領内の辺境伯城前に到着すると、オスカー・エンドリケ・ブルーソフォレスト騎士団長は、側近の部下に命じだ。
ブルース・カイザー・ブルーフォレスト辺境伯は、帝国の隣国エド・ロア王国とブロッサン国の二国と国境が接する辺境地を代々、守って来た。
辺境地を守る家系なので、もちろん代々Holy Mageであり、騎士としても帝国内随一である。
息子のオスカー卿は、帝国防衛近衛騎士団長である。
今回の遠征にアランの側近として遠征に参加している。
まだ若く23歳であるが、Holy Mageを養成する「帝国神聖力術士養成大学」を卒業後、帝国近衛騎士団に入隊し、その後あっという間に陸軍騎士団長クラスに昇進したエリートである。
オスカーの祖父は、帝都内にある「帝国神聖力術士養成大学」の学長のイーサンである。
現在は、オスカーの父がブルース辺境伯としてブルーフォレスト領を守っている。
祖父のイーサンは、若き日のラファエル、アレクサンドル兄弟と共に闘ったHoly Mageである。
「アラン公爵、はるばる辺境領までようこそ来られた。」
ブルーフォレスト辺境伯が使用人や騎士達と共に出迎えた。
「妻は、父と帝都の邸宅に行っておりますので私どもだけで失礼致します。」
すると、出迎えの執事や侍女たちの間から小走りでやって来た若い娘が
アランを見て目を輝かせながら言った。
「アラン様、お久しぶりです。」
「このような田舎で、十分なおもてなしできませんが、城内でゆっくりおやすみ下さい」
オスカーの妹のポリアンナ・アイビー・ブルーフォレスト嬢である。
思わず、頭を撫でそうになった手を抑えつつアランが言った。
「ポリアンナ嬢、大きくなられましたな。社交界デビューはまだですか? 帝都には来られないのですね」
「はい、私も15歳になりましたが、社交界にはちょっと。母のようには立ち回れませんので、領地にて修行に励んでおります」
「そのうちお祖父さまに帝国神聖力術士養成大学に招集されそうですけれど」
前ブルーフォレスト辺境伯であったイーサン・バルナバーシュ・ブルーフォレストは、領地と家督を息子のブルースに譲り、現在は帝都で、帝国神聖力術士養成大学の教授をしている。
「帝国神聖力術士養成大学」、通称「帝国神聖大」は、Holy Mageを初めとする神聖能力や魔力を扱う能力者に対して、帝国、さらにはリゲル・ラナを守る人材を育成する帝国直属の学校である。
「アラン様、ポリアンナは辺境領に産まれただけあって剣の腕はなかなかのお転婆ですが、Holy Powerの方はヒーリング能力以外からっきしなんです」
兄のオスカーが、からかい半分で妹について言及した。
「いえ!オスカーお兄様。私だって修行すれば、お兄様ほどではなくても、領地を守れるだけのHoly Powerを身に付けられると思っておりますわ」
兄にお転婆と言われたことよりもHoly Powerが未熟であることを指摘されたことに憤慨するポリアンナ穣であった。
その様子を見たアランは、
「なかなか勝気な姫に成長中のようですね」
と、少しからかうように言うとポリアンナ嬢は、さらに憤慨したように
「アラン様!!!」
と、言いながら兄をにらんだ。
「これじゃ、強力なHoly Powerを身に付けたHoly Mageになったとしても、アラン様のお后候補には、なれそうもありませんな」
「お父様!!!」
まだ、15歳のポリアンナ嬢には、我慢ならぬ状況である。
「立ち話もなんですし、城内へどうぞ」
これ以上、娘にヘソを曲げられては大変とばかりに、客人を城内へ招き入れる辺境伯であった。
「やれ、やれ、」
オスカー・エンドリケ・ブルーフォレストは、いつものことだと、ばかりに首をすくめた。




