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9 部隊長の代わり

 武器のメンテも終わりどうしようかと思っていた午後3時過ぎ。そういえば部下に暫く留守にする事を伝えていなかった事を思い出し、出勤日でもないのに職場まで足を運んできた。

「急で悪いんだけどさ。ちょっと海外行ってくる」

「ん?えッ!?」

「そんで俺の代わり何だけど———」

「ちょっと!ちょっと待ってください!」

「え」

 手早く終わらそうする俺の肩に部下Aが慌てた様子で掴み掛かってきて、続く言葉を中断させられる。

「え、えっと......まず理由からお願いします。......嫌な顔しないで話してください!」

 だって帰りたい、なんて事は言えない。流石に部下Aの胃を考慮するべきか。

「分かったからナイフに手を掛けるな」

 護身用ナイフに手を伸ばす部下Aの気迫が殺人寸前のそれだ。

 少しの間、俺が話すと言っているのに「本当なんですね?正直に話してくださいよ」「取り敢えずナイフから手を退けろ」という押し問答が続いた。

「さぁ可愛い部下を置いて海外旅行をする理由を教えてもらいましょうか?」

「今日もすっげぇ束の厚さ」

 未だ威圧感を出し続ける部下Aとすれ違い、机に置かれている処理済みの書類を持ってペラペラと中身を見ていく。ただの犯罪者予備軍に何の用なんだか。

「さて、と」

 椅子に腰掛けた俺は部下Aの方へ向き直り、事の発端を話せる範囲で説明する。

「昨日早急に金が欲しいみたいな話をしたのは覚えてるか?」

「あ、あぁしてたと思います。隊長がぶっ壊れたやつですよね?」

「180憶」

「え?」

「180憶だ。賠償金」

 あまり想像出来なかったのか部下Aは取り敢えず自分の年収で180憶を割り始めた。ひっ算をして桁が増えるごとに部下Aの顔が青白くなっていく。部下Aは小数点に入りある程度桁が増えたあたりで一度ペンを置いた。(180億÷700万=2571.42・・・)

「なる、ほど......」

「確かお前の年収と四皇帝(あいつら)が日で稼ぐ額が一緒くらいだったな?......2500年くらいか?」

 決済が終了する年数を計算し終えたアフィリアは再び湧いた殺意を床を睨み付ける事で抑える。

「人の寿命じゃどう足掻いても無理です......」

「事態の重さが伝わって何よりだ」

 空気が淀んできたのでアフィリアは一旦椅子から立ちコーヒーを淹れに行く。

「カフェイン摂取して頭ん中空っぽにしよう」

「はい」

 ・・・

 ・・

 ・

「んで俺が国外に行って金を巻き上げるっていう」

「理由も解決方法もクズのそれですね」

 話していく内に結局部下Aに全て話してしまった。まぁ問題ないだろう。多分。

西大陸(ここ)が通貨統一で良かったよ」

「お隣は通貨も言語も地域でまるっきり違いますからね」

 あっちはあっちで戦乱の世だからかなり稼げそうではあるが、やっぱり移動がネックだな。移動時間すら惜しまれる現状船なんて使ってられない。

「そんで、俺が不在の間なんだけど」

「あぁそうですね隊長がいないと会議と———」

「お前が隊長やってくんない?」

「かどう...................へ?」

 顔を引き攣らせて固まった部下Aの手からカップが滑り落ちる。何故床を汚すような事を?と疑問に思いつつキャッチしに行こうとしたアフィリアは椅子から少し身を乗り出して腕を伸ばそうとする。

「どういう事なんですか!?」

「あ———」

 カップが手に触れる直前で部下Aに肩を掴まれ椅子へ押し戻される。

「何で私!?無理無理無理無理無理理無理!!無理です!」

「なんでじゃなくてカップ割れる」

「あんな元犯罪者集団を私が相手できる訳ないじゃないですかッ!何をどう考えたら私になるんですか!無理って分かって言ってますよね!」

「俺n、話s、をきけ」

 肩をぶんぶんと振り回されまともに言葉が出ないアフィリアの視界の下に映った白い破片と茶色い水溜まり。

 どうやら遅かったらしい。

「お前結構あいつらから信頼されてるし事務員にしちゃ割と組手上手いから大丈夫だって」

「人不信の人嫌いが言ったって響きません!」

「ひっでぇ」

(おっつー)ってあれ隊長?今日休みじゃないんすか?」

 ずいぶんフランクな挨拶をしながら半裸の部下Bがタオルを肩に掛けて部屋に入って来た。

 部下Bは俺といつの間にか俺の上に座って抗議を続ける部下Aを交互に見て何かを察する。

「......動きエロいっすね」

「いちいち言わんで良い」

 ギシギシと椅子を鳴らしながら抗議を続けるものだから余計想像を掻き立てたのだろうか。にしてもこうくっ付かれたら引き剥がしにくいな。

「すまん。ちょっとこいつ剥がすの手伝ってくんない?」

「......服を」

「アホ。本体だよ」

「分かってた事だけど隊長枯れすぎやしないですか?よっと」

 部下Bが部下Aを持ち上げると急な浮遊感に襲われた部下Aは「え?」と声を漏らす。一拍置いて自分が誰かに持ち上げられている事に気が付き後ろへ振り向いた部下Aと部下Bの視線が重なる。

部下B(ウィル)?い、いつから?」

部下A(ミレイ)が隊長の股の上で身体を揺さぶってたあたりから」

「なっ!?ち、違うわよ!」

 部下Bによるいらん発言でまた騒ぐ部下Aをなんとか宥める。

 部下Aが落ち着きを取り戻した後、ついでなので部下Bにも今後の俺の行動についてとその発端を説明した。

「今回はかなり......だいぶでかい額っすね。ベストスコアっすか?」

「過去の借金の額まで覚えてられるか。気が滅入る」

 アフィリアの目が死んだ魚のようにハイライトを消しまた気落ちしている様子に、心中お察しして放置しようと決めた二人。

 ぶつぶつと恨み節を呟くアフィリアを置いて部下A(ミレイ)部下B(ウィル)の方へ振り向く。

「あの、ウィルは私が隊長になる事に反対はしないんですか?」

 いつもの雰囲気ではない。どこか落ち着かない様子で全身を強張らせながら部下B(ウィル)の返事を待つ部下A(ミレイ)

 部下B(ウィル)は、様子のおかしい部下A(ミレイ)に若干気が逸れつつ返事をする。

「......?いやしないけど。事情はさっき隊長から聞いたし」

「私じゃ頼りなくない?そもそもあの馬鹿たちが暴れないのって隊長の抑止力のおかげじゃん?」

「いやまぁ、そうっちゃそうなんだけど俺もあいつらもやりたい事があるからこの仕事してるわけで、暴れないのは隊長がいるからじゃなくて自分らのためだ。それがずっと頭にあるから暴走なんてしないし仲間に迷惑は掛けない」

「え、えぇ~......」

 思ってた反応と違い部下A(ミレイ)が他に何か自分が代理の隊長に向いてない理由を模索していると復活したアフィリアが会話に加わった。

「さっきも言っただろう。お前は信頼されてる。自分で向いてないと思う理由があるなら言ってみろ。それ全部こいつらが何とかする」

 部下B(ウィル)を指差して言うアフィリア。

「いや仕事を押し付けるのは......」

「部下B、部下A(こいつ)からもらった仕事を押し付けだと思うか?」

「全然」

「ぶ、武力も」

「俺たちが何とかするぞ」

「......口論も弱いです」

「会議には部下Bを傍らに置け、良い威圧になる」

「.....................................................」

 俺と部下Bによるフォローは大丈夫という圧に押し負けた部下Aが、何故ここまで押すのか分からず困惑した様子で黙り込む。

「ちょっと聞きたいんだけどミレイの隊長像ってどんな感じなの?」

 部下Bの質問に関しては俺も気になっていたところだ。なんかさっきから比較対象がおかしい感じがする。

「......隊長です」

 部下A(ミレイ)はアフィリアを指差して想像していた自分の隊長像を語り出す。

「武力強くて言い争いも強くてメンタルも強くて本気出したらあそこの書類三分で終わらす隊長」

「隊長......」

「そう責めるような目を向けるな」

 アフィリアは今一つ自信を持てない部下A(ミレイ)をどう説得したものかと頭を回しながら席を立つ。

「えっと......そうだな......。隊長っていう点で俺があるならそれ以外はないのか?」

「まぁ......ないですね。リーダーらしいリーダーって隊長以外見たことなくて」

 リーダーらしいリーダー?

 疑問に思うまま視線が部下Aから逸れ部下Bと目が合う。

『『ないない』』

 何故か聞こえてもいないのに声が重なったような気がした。

 ま、まぁ一旦流そう。

「仮に俺っていう完成系があったとしよう。それ一つが答えじゃないし、代理を立てるにあたってお前なら可能だと思う点がいくつもあったから任せようと思ったんだ」

「どんな?」

 そこを聞かれると困るな......。

「さっきお前は俺の事を人不信で人嫌いって言ったな?」

「あ、あぁその節はすみません」

「謝罪はいい。それより俺が言いたいのは俺とは逆にお前は他人(ひと)を信じれる感性を持ってる」

「え?普通じゃないんですか?」

「いいや。貴族に留まらず腹の探り合いばっかしてる連中ってのはどいつも他人なんて信用しない。家によっては結婚相手でさえ牽制しなきゃならん。そういう環境に身を置く奴らからしたら案外お前みたいな真っ直ぐなタイプが刺さる事もある」

 だからといって単純に人を信用し過ぎずある程度疑う力を持ってる点もかなり良いと付け加え、部下Bからも「俺もミレイが適任だと思う」と援護射撃をもらう。

「あ、ありがとうございます......」

 照れくさそうに相槌を打つ部下Aの反応からしてこれは了承してくれそうだ。ふぅ、響いてくれて良かった。これ以上の語彙は見当たらなくてどうしようとか思ってたところだ。

 話が一段落つきそうだなと感じたアフィリアは掃除箱の方へ向かい、掃除箱の中からモップとバケツを取り出す。

「部隊長代理、任せて良いか?」

「はい。私、やってみます!」

 満足そうに頷いたアフィリアはモップとバケツを置いて次は塵取りと子帚を取る。

 結局自信なんていつ持ったってそう変わらない。今最も重要なものは行動力であり、それこそが大事な一歩目を進ませる力になるのだから。

 まずは一歩目だな。......このまま勢いで俺から部隊長引き継いでくれないかな。

「んじゃ、取り敢えずそこの零したコーヒー片づけような?」

「え?あ゛!?すみません!」

 床に散ったカップの残骸と零したコーヒーを思い出して急いで俺が取り出した掃除用具を手に取る。

「部下B、水出してくんない」

「あ、はい。【 水よ 魔の力と共に 】」

 バケツの上で手をかざした部下B(ウィル)の掌から魔法陣が展開し、魔力と空気中の水が干渉し合い魔法陣から流れ出てすぐに水がバケツの中を満たす。

「良いよなぁ【属性系統】」

 アフィリアは子帚と塵取りを持ってぼそりと呟く。

「隊長【無系統】しか使えないですからねぇ」

「あぁ。久々にお前に殺意が向いたかもしれない」

「洒落にならないっす」

 両手を挙げて降参の合図を出す部下B、しょうがないから許してやる。 

「そう気落ちするような事でもないと思うんですけど。隊長の無属性ってそこらの魔法使いじゃ扱えないのばっかですよね?」

「それは魔改造して魔力量でゴリ押したやつな。自慢にもならん」

 無属性自体も使う奴なんて滅多にいない絶滅寸前の技術体系だ。それくらい人気がないというか、属性系統と比べて不便極まりない。

「そう陰気臭くなるようなものでもないですよ」

「誰だって火の玉撃ちたいだろ」

 俺は撃てないがな。

 慰めなど欲しくないと言わんばかりの態度で主張するアフィリア。

「うおっ!?びっくりした......」

「ほ、本当にそう殺気立つような問題じゃないと思いますよ?」

「殺気?出してないが?」

「漏れてます、漏れてますから!」

 段々羨ましいと思う気持ちが妬ましいに変わってきたところで「ふぅ......」と気持ちを整える。

「魔法の話ってこんなに駄目なの?」

「隊長割とこの話弱いんだよ」

 たとえ系統魔法が使えなくとも俺には無系統以外にも禁呪という仲間がいるんだ。そう焦る事じゃない..........................................。

「くそっ、やっぱ羨ましい!もう魔法自体ぶっ壊し方が良くないか!この文明終わらすか!」

「ちょ、隊長!またいつもの発作出てますって!抑えてください!」

「魔法使えないのマジ不利にもほどがあるだろ!何のための魔力だよ!筋肉にしか使えない魔力ってなんなんだよ!」

「その次声抑えてください!」

「このストレスを逃すのに一番被害が少なさそうなのが叫ぶだから暫く許してくれえええええええええ!!!」

 火の玉撃ちてえよ!火の玉で地形粉々にしてえよ!と叫び散らかすアフィリア。部下B(ウィル)はそんなアフィリアを止める事に早い段階で諦め「また始まったか」と嘆息する。

「ミレイ、いいか?あれがお前の言ってたリーダーらしいリーダーの姿だぞ?」

「......。魔法一つでこんな子供みたいに騒ぐとは思わないじゃん」




「事象の改変と魔力そのものの操作じゃやっぱ分が悪いか」

 一旦落ち着きを取り戻したアフィリアは四つん這いで這いつくばる体を起こし服の皺を伸ばす。

「あ、戻った」

「あぁ戻った。これで暫くは騒がないから安心しろ」

 先程までの醜態がまるでなかったかのように余裕の振る舞いを見せるアフィリア、その緩急に全く付いて行けず困惑が隠し切れない部下A(ミレイ)

「い、いや安心出来ないんですけど......」

「ミレイ、それに関してはもう諦めた方がいい。ここが大衆の面前じゃないだけマシだ、いつもなら賊狩りの最中に起こるんだから」

 それは累計で10回くらい魔法に関して煽られた時の話だ。

「ん?もう掃除終わってたのか?」

「30分も時間があったらそりゃ終わりますよ」

 俺そんな叫び散らかしてた?

 溜まりに溜まったストレスがほぼ0になるまで叫んでいたらいつの間にか掃除が終わっていてマジかよと思っていると、傾いてきた太陽が執務室の窓から差し込む。

「あ、もう定時っすね」

「帰りましょ帰りましょ!」

「そもそも俺今日出勤日じゃねぇーよ」

 アフィリアたちは掃除用具を片付けて帰り支度をする。

「あ、隊長そのままの恰好とかで行かないですよね?海外」

 俺の着崩した軍服を指差して心配する部下Aに「問題ない」と返す。

「今日まとめて必要な物を買ってな。偽名も使う予定だぞ。ほら」

 内ポケットから偽の身分証を取り出す。

「あれいつこんなのもらったんすか?」

「お前らに会う前に貰っといた」

 折角皇城まで来たし忘れないうちにルークの所に行った。

「ラーク。かっこいいですね」

「結構考えたからな」

 ブラックが元というだけの安直なものだがな。

 だらだらと駄弁るのもここまでにして俺たちは執務室を後にして皇城から出る。寮暮らしの二人とは向かう方角が違うため城から出てすぐに別れる事となった。

「お疲れ様でーす。早めに帰って来てくださいねぇ」

「あんま暴れすぎないでくださいよ」

「分かった。お前らも上手い事やっててくれ」

 彼らの背中を見送ったアフィリアは気を引き締め直しヴィクトリアの邸宅の方角へ足を向ける。

「さっきストレスを0にしておいて正解だったな」

 それでも思いやられる議題には変わらないため若干足が重いが、んな事言ってたってしょうがない。

 そう自分を納得させヴィクトリア邸へと足を進ませた。


 〈科目:魔法学〉 


 一般的に【属性系統魔法】、【無系統魔法】【神聖系統魔法】と大きく三つに分かれた魔法の種類がある。


 【属性系統魔法】とは基本となる火、水、風の三種類があり、またそれぞれの出力の仕方や強弱、別々の属性系統を組み合わせて発動させられる【派生属性系統魔法】(例:雷、氷ets)といったものも存在する。それらを総じて【属性系統魔法】と呼称する。

 メモ:めっちゃ羨。


 んで【神聖系統魔法】とは、神の御業を借りて人々に救済を齎す神の魔法......ではなく、過去の偉人たちが残した遺産というのが科学者たちの意見であり俺の意見でもある。決して神の力だとかそういうのではない。

 メモ:話は逸れるが教会は頑なに神の御業だと魔法使いたちの意見を認めないし、魔法使いの業界でも教会の意見はまるで理に反するとして教会の主張を否定し続けている。まぁ何が言いたいかというと教会の一部と魔法使い業界の一部はとてつもなく仲が悪いという事だ。


 さて最後に【無系統魔法】だ。無系統魔法とは魔力そのものを操作する魔法技術で、例えるなら空気中の魔力を硬質化し壁のようにできたり、魔力の質を変質させて相手に譲渡する事もできる(血液型でいうとA→からOに変えて輸血できるみたいな)。

 じゃあ無系統魔法が何故不人気なのか。

 それは魔力で壁作るなら火の壁の方が攻撃力もあるしこっちの方が良くないかという考えや、魔力切らしたらポーション飲めば良いという考えに負けたからである。それはそうとしか返せなくて普通に萎えた。

 あぁあと小慣れてくると相手にとって毒になる魔力の質にも変えられる。が、これに関しては公にしていない。何か事件がある度に「お前やったか?」と疑われる可能性が非常に高いため保護者のヴィクトリアから早めの段階で止められた。

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