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春先とはいえ、樹海の夜は一段と冷え込む。
温かい衣服もなく、三人は火を囲むことでどうにか暖を取った。
火の熾し方は、藍晶と狭霧がよく知っていた。
「淡雪殿」
狭霧が仮眠をとってしばらくして、藍晶がぽつりと口を開いた。
横になっていたが、淡雪は眠るつもりもなく、森閑とした空気を感じたまま目を開いていた。
「どうされました?」
「私の言った方法は、間違っているのでしょうか」
淡雪は仰向けになって中空を見上げる。
ビロードの絨毯に砕いた硝子を一面にばら撒いたように、星屑が散らばってきらめいていた。
「狭霧のことですか」
「私は甘いのかもしれない。殺すことを決意したところで、狭霧のように非情になりきることができない」
「あの子は幼い頃から訓練を受けたのでしょう。とても一朝一夕にできる身のこなしではありませんわ」
「そうですが、そうだとしても」
「藍晶さん。あなたは主君なのです」
淡雪は身を起こし、決然と言った。藍晶が振り向く。
「馬は乗り手が迷えば暴れます。しっかりと手綱を引いて、どうすればいいのか決めてやらねば、最大限力を発揮できないのです」
「狭霧は馬ではない」
藍晶は強い口調で反駁した。
淡雪は一瞬あっけにとられた後、くすくすと笑った。
「物のたとえです。人にはそれぞれの役割があり、つとめがある。それを果たすために、私たちは生まれてきたのですから。神から与えられたご自分の責務をお忘れにならないよう」
からかわれた気がして、藍晶は苦い顔をした。
「私の責務は何だというのです」
「先ほど自らおっしゃったではありませんか。盟主になるのでしょう。五つの里と、二つの異民族。それらを統べる、巫女姫たちよりもさらに貴い存在に」
藍晶は仰天した。
「そ、そのような大それた地位に就こうなどと……私はただ、他の里や異民族を繋ぐ、架け橋になれたらと思うだけです」
「名目はどうあれ、あなたがおっしゃっている事は天下を統一し、その上に君臨するということだと思いますが?」
そんなつもりはなかった。
ただ、自分はたくさんのものを守れなかった分、他のものを守ることでその償いをしようとしていただけだ。
何を言っても言い訳がましくなりそうで、藍晶は唇を引き結んだ。




