第6話
あの後大会会場から去った後、明楽に「良い場所があるぞ」と言われ連れてこられたのは小川がある公園だった
遊具があったり、河川敷近くにはいくつかベンチが置いてある自然豊かなのんびりとした時を過ごせそうな公園だった
そして今現在、そこの空いているベンチに明楽と美澪は座り先程明楽が買ってきた唐揚げを食べているところだった
美澪『唐揚げ、美味しいね』
明楽『琳帆だからな、特に大会で出すものなんだ、当然注目はされるだろうからそれなりのものを出すだろう、売上も見込んでな』
美澪『うん、そうだね』
明楽『………』
のんびりもぐもぐと唐揚げを食べている美澪とは対照的に、明楽はどこか曇り空の様などんよりとした表情を浮かべていた
明楽『……なぁ美澪、俺のこと…嫌ったか…?』
美澪『…なんで?』
ポンッと美澪の肩に明楽は少し寄りかかるとまたポツリと話した
明楽『…すぐ、殺そうとしたから』
美澪『そう聞くってことは、間違えたかもと思ってるから…?』
明楽『…………』
その美澪の言葉にどこかばつが悪そうにしながらすり寄った
美澪『…まぁ、確かに命をむやみやたらに奪うのは良くない事だよ、けどこれはあくまで私の中の常識であって、人間の世界の中の共通認識みたいなとこもあるから、ここの世界とはまた常識とかが違うのだろうし、あまり強いことは言えないけど…』
明楽『……』
美澪『…けど、明楽が間違えたかもって思ったのなら、反省して、次からは気を付ければ良いと思うよ』
明楽『……ああ…』
美澪『私のために怒ってくれたんだよね、ありがとう明楽』
自分に寄りかかる明楽の手を美澪はそっと握ると、明楽も握り返した
美澪『…唐揚げ美味しいよ、あーんしてあげよっか?』
明楽『…してくれ』
美澪『あはは、素直だ』
元気になーれ、と美澪は少しふざけの意味も混じりながらそう言いながら明楽の口元へと唐揚げを箸で運び、明楽はそれを素直に受け取り唐揚げをもぐもぐと食べている
明楽『…美味しいな』
美澪『だね、ほらもうひとつ、あーん』
明楽『あーん…』
こうして唐揚げをお互い次々と食べていき、その後もやっと元気になった明楽と共に色々と雑談をして過ごし、気付けば時刻は夕刻へとなっていた
オレンジやピンク、紫に暗めの青にと沢山のグラデーションがかかった綺麗な夕焼けが琳帆の空を覆っている
美澪『そろそろ夜になるね明楽、私帰らなきゃ』
サラサラと流れていく川の水を見つめながら、美澪はポツリと呟いた
明楽『家まで送ろう』
美澪『ありがとう、明楽』
ほら行くぞ、と明楽はベンチから立ち上がると美澪に向けて手を差し出した
美澪『うん』
その手に嬉しそうにしながら美澪は自分の手を重ね、同じくベンチから立ち上がったその瞬間だった
ドボン!と何かが水の中に落ちた音が聞こえた
なんだ、とビックリして明楽と美澪も音がした方向を見れば子供が川に落ちてしまったようだった
大変だと美澪は慌てたがすぐ側には母親がおり、直ぐに母親が子供を川の中から陸地へと引き上げた
きっと遊んで楽しかったと帰り道の最中、足を滑らせて誤って落ちてしまったのだろう、だが大事にはならず良かったと美澪はホッと胸を撫で下ろした
直ぐに母親は秋という事もあり段々と肌寒くなっていく、風邪を引かないようにと服を妖術で乾かそうとはしたがそよ風が吹く程度でほんの気休め程度のものだった
明楽『…あれが普通だからな美澪、俺が美澪に使ったものはあいつには使えないだろうな、大きなものほど、必要な妖力は多いんだ』
美澪『…てことは明楽、私のせいで…』
明楽『そんな事はない、俺を誰だと思っているんだ?星蘭の主であり美澪の旦那だぞ、俺はあの程度のもの使っても妖力はいくらでもこれでもかと余るほどある』
美澪『まだ彼氏だよ…』
通常運転だなぁ、と美澪は苦笑いを少し浮かべながらその親子を再度見た
怖かったと子供は母親に泣きつき、母親は子供をあやしながら少しでも乾くようにと妖術を使っていた
明楽『…あいつ馬鹿だな、あいつの妖力じゃ乾かせないことは分かっているだろうに、無駄に妖力を減らしてるだけじゃないか』
美澪と同じく親子の様子を再度見ていた明楽はどこかため息をつきながら、サッと妖術を使うと子供の元へ暖かな温風が吹いていき、ぶわっと一瞬親子の服が風でなびいた
子供は服がすぐに乾き何が起きたのだろうと泣き止み目をぱちくりとさせ、母親は誰が術を使ったのだと辺りを見回し、直ぐ上に明楽がいると分かると一瞬で術を使ったのは明楽だと分かり、母親は急いで礼の意味も込めて土下座するような形で頭を下げた
それを見た明楽はもう良いと言わんばかりにさっさと行けと手を前後に動かしていた
その様子を見た母親は子供の手を握ると再度明楽に頭を下げ、子供と手を繋ぎ帰って行った
遠くに手を振っている男性の妖が見える、それに気付いた先程の子供の妖は母親の手を離しその男性の妖の元へと駆け寄って行く、きっとあの男性の妖は父親だろう
男性の妖の元まで子供がたどり着くと、ぎゅっと足元に抱きつき、父親は子供の頭を撫でていた
後から追いついた母親とも合流すると、子供を真ん中に手を繋ぎ帰って行った
美澪『きっとあの人はお父さんだね、服を乾かしてあげるの優しいねあき……』
微笑ましいなとにこにこと笑いながら明楽を見上げた美澪だが、ハッと思わず口を閉じてしまった
明楽『………』
理由は、明楽があまりにもどこか悲しそうに、どこか羨ましそうに見つめていたから
瞳もどこか潤んでいるような気もした
美澪『……明楽…?』
美澪がそっと声をかけると、ハッと我に返った明楽は慌てて美澪の手を再度握った
明楽『あ、ああ…!分かっているぞ美澪、帰るんだったなさぁ帰ろうな美澪…!』
グイグイと美澪の手を引っ張り進もうとする明楽だが、それを美澪が呼び止めた
美澪『あ、明楽待ってよ…!そっちはさっきいた道だよ…!戻ってるよ……!!』
明楽『そ、そうだったかあっははは…!すまんな美澪、間違えてしまった、さぁ帰ろうか…!!』
美澪『明楽…!!』
正しい道に進もうと明楽はまた美澪の手を引っ張ろうとしたがその前に美澪が明楽の手を引っ張ると驚いて明楽は美澪の方を向いた
そして振り向いた明楽は、泣いていた
美澪『…明楽……』
明楽『すまんな、目にゴミが入ってしまったようだ、困るなぁ全く……ほんと……に……ッ…困るなぁ…ッ』
あははと笑っているが笑う度に明楽は涙をボロボロとこぼしていた
美澪『……明楽…』
ボロボロと泣く明楽の両手をそっと美澪はそっと握った
美澪『…私に、何が出来る?』
明楽『……すまんな美澪、少しだけ飛ばすから、絶対に俺から手を離すなよ』
そう言うと明楽は美澪を抱き上げるとバッと翼を出しそのまま空へと飛ぶと猛スピードで飛んで行った
美澪は絶対に落ちないようにと明楽にしがみつき、また明楽も美澪を絶対に落とさないようにとしっかり抱きしめていた
向かった先は星蘭、娄家だった