4.攻略対象が登場しました 1
『お気づきかと思いますが、彼は攻略対象の一人です』
入学式の途中、ナナコはひかりの暇を埋めるように語りかけてきた。
先程の美少年は新入生代表だったようで、今まさに体育館のステージに上がり、自信に満ち溢れた様子で代表の挨拶をしている。
彼のアピールポイントでもある代表挨拶は、ナナコ的には大して重要ではないらしい。美少年の姿を遮るように、視界にはスクリーンが浮かんだ。
【プロフィール】
・灰司 棗
ヒロインのクラスの委員長。
文武両道、容姿端麗でみんなの人気者。
いつも笑顔だが、時折疲れた顔をしている。
甘いものが好き。
灰司の爽やかな立ち姿とプロフィール文。もしかして、この浮かび上がるシステムを恒常化するつもりなのだろうか。ひかりはこの先に些か不安を覚えながらも、律儀に文を読んでみた。
漠然とした記憶の一つでしかないが、ひかりはそれなりに乙女ゲームというものに精通していた可能性がある。
こういったプロフィール画面も何だか見覚えがあるし、先程灰司と対面した時に見えたハートマークはきっと好感度の器だろう、と簡単に察する事が出来た。
となれば、灰司は王子様系の攻略対象だろう。ゲームパッケージの真ん中を陣取り、こちらに手を差し伸べているタイプだ。
本人が完璧ゆえにヒロインもそれなりにステータスが高くないと攻略できない。隠しキャラなどがいなければ、攻略難易度が一番高いのではないだろうか。
『素晴らしいですね、その通りです』
(え、心の声も聞こえるの?)
『ゲームの事ならば心の声でも会話可能です』
(優秀だね……)
『他の攻略対象のプロフィールも閲覧しますか?』
(……いや、せめてもの楽しみに取っておくよ)
この世界に来て僅かしか経っていないが、ひかりは自分でも驚くほど楽観的であった。
理由は単純にどうしようもないから。元の世界の自分がどうなっているかなんて、僅かしか記憶のないひかりには分からなかった。
それならば帰る方法を自力で見つけるまでは、このゲームを楽しむしかあるまい。本来ゲームとは楽しむためのものなのだから。
「……――新入生代表、灰司棗」
灰司の声が挨拶を締め括ると、体育館中が一斉に拍手で包まれる。一切話を聞いていなかったひかりも遅れて手を叩いた。
すると、換気のために開けられた扉の外から桜の花びらが飛んでくる。
そういえば私の入学式は葉桜で残念がっていたっけ。微かな記憶にひかりの頬が緩めば、ふと視線を逸らした先でマスク姿の華奢な男子と目があってしまう。一瞬驚いた顔をされたが、すぐに視線は逸らされ、ひかりも慌てて視線を真正面へ戻した。
不安はあれど、やるしかあるまい。
ひかりは膝の上で拳をぎゅっと握り、司会の閉会の辞を聞きながら一人決意を固めた。




