プロローグ 女神の裁き
更新お待たせしました。
第3部はまずクライマックスをチラ見せしようかと。
以下、あらすじ→予告編 みたいな感じです。
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第3部『黄金の女神は裁きを下す』
あらすじ
旧教会を打倒し、さらには新教会のトップとなったフィオリア。
教皇として政務をこなす中、彼女のもとへ急報が入る。
――トリスタン王国宰相にして父親、グレアム・ディ・フローレンスが倒れたのだ。
理由は過労。
命に別状はなかったものの、しばらく療養が必要だという。
とはいえトリスタン王国は人材不足、グレアムが欠ければ政務は回らず、フィオリアは宰相代理を買って出る。
これを機に、国内の内政改革を一気に推し進めるつもりだった。
忙しいながらも充実した日々。
立場上、国王ヴィンセントと接する機会も増え、2人はすこしずつ20年前のような関係に戻ってゆく。
だがその矢先、ひとつの異変が起こる。
はるか西方に存在するという海軍国家アトラより大艦隊が現れ、トリスタン王国に向けて砲撃を行ったのだ。
突然の蛮行。
それに引き続く、あまりにも一方的な宣戦布告と降伏勧告。
どうやらトリスタン王国を占領し、植民地に変えようとしているらしい。
「それで? その程度の玩具で? 私とこの国をどうにかできると思っているの?」
ああ、可愛そうに。
貴方たち、海の向こうに住んでいたから何も知らないのね。
私の名はフィオリア・ディ・フローレンス。
自分がいったい誰を敵に回したのか。
そのことをよく考えながら、海の底へと沈みなさい。
――フィオリアとしては、まるで普通の人間のように生きるのも、悪くないと思い始めていた。
父、グレアム・ディ・フローレンスが倒れ、宰相代行を務めること半年。
トリスタン王国を立て直すため、改革をひたすら押し進めてきた。
改革に反対する貴族が寄り集まって反乱を起こしたものの、さほど大きな戦いにはならなかった。
何度かリンゴを握りつぶすくらいで、《神罰の杖》を落としたのも1回か2回だけ。
私にしては、ずいぶん手ぬるいと思わない?
たとえば、改革に反対する貴族家をぜんぶ滅ぼしてもよかったのよ。
方法なら、いくらでもあるわ。
ひとつ、大天使の軍勢を向かわせる。
ふたつ、事故に見せかけて流星を落とす。
みっつ、グランフォード商会やフランツ銀行に手を回す。
でも――
悪事を働いたわけでもない者を、意見が違うというだけで裁くのは間違いでしょう?
神様か何かなら、そういう蛮行も許されるかもしれないわ。
ただ、人間として生きるのであれば、やっぱり、話し合いって重要だと思うのよ。
だから、はるか西の大陸からアトラ王国とやらの艦隊がやってきたときも、できるかぎり穏便な対応を心掛けたわ。
「我らの祖先はかつてベルガリア大陸に住んでいた。この地はもともと我々のものだ。貴様らは空き家に入ってきたコソ泥に過ぎん」
向こうの司令官にそんなことを言われたけれど、ひとまずは聞き流すことにしたの。
異なる大陸の人間どうしがファーストコンタクトを果たしたわけだし、多少のすれ違いは仕方ないでしょう?
歴史や文化の差による誤解は、少しずつ解いていけばいい。
ひとまず親書を渡して、国交を樹立させる。
今後10年、20年かけて友好的な関係に持っていければ上々。
遅咲きの花を見守るくらいの心づもりだったのよ。
けれど、彼らはすべてを裏切った。
アトラ王国に戻ると見せかけての反転、いきなりの砲撃。
「貴様らは我らの故郷に住み着いた野サルだ。即刻、ベルガリア大陸全土を返還しろ。そうすれば、殺さずにおいてやる。奴隷として飼ってやろう。……この温情あふれる勧告に涙を流して感謝するがいい」
ふうん。
そう。
そうなのね。
貴方たちは、そういう人種なのね。
私は知っているわ。
およそ2000年前。
黒き森の脅威に怯えるあまり、家族や友人を捨てて逃げ出した臆病者――。
それが貴方たちの祖先なの。
今更ぬけぬけと戻ってきたところで、居場所なんてあるわけないでしょう?
むしろ門前払いされなかっただけ感謝してほしいものだけれど、まあ、別にいいわ。
2000年も昔のことを知っている人間なんて、いるはずがないもの。
「我らアトラ王国は、高度な魔法科学技術を有している! 貴様ら野蛮人とは格が違うのだ! 大怪我をする前に降伏することだな!」
高度、ねえ。
西の大陸にずっと引きこもっていたせいで、外の世界を知らないのかしら。
かわいそうに。
私が前線に出ればすぐ決着はつくけれど、それだと完全勝利にならないわ。
今後のことを考えると、徹底的に、向こうのプライドをへし折っておきたいところ。
アトラ王国の海軍は、前世に当てはめると、せいぜい、中世・近世レベルかしら。
大砲の打ち合いが中心で、あとは接舷しての白兵戦。
船どうしの戦闘だけを想定した、平面的、二次元的なもの。
けれど、トリスタン王国軍は、ひとつ上の次元にいる。
宰相職に就いての半年、軍事改革にも手をつけていた。
風魔法を利用した飛行技術の確立、魔導小銃の配備、空軍の設立――。
もしもの事態に備えてのことだったけど、まさか、こんなすぐ役に立つだなんて。
「――空軍に通達。アトラ王国軍は『頭上の敵』なんてマトモに想定してないわ。攻撃が届かない上空から、ただ一方的に蹂躙するだけの簡単な仕事よ。彼ら野蛮人に、格の違いを見せつけてあげなさい」
かくして、フィオリア・ディ・フローレンスはまたしても歴史に名を刻むこととなる。
“トリスタンの守護女神”にして“魔導空軍の創始者”。
宰相代行としての業績も並のものではない。
戸籍の編纂、税制改革、交通網の整備、慣習法の明文化、議会制の導入――。
彼女ひとりで300年分の改革を成し遂げた、と評する歴史家もいる。
とはいえフィオリア自身、はじめはトリスタン王国の政治にそこまで強くかかわるつもりはなかった。
ヴィンセント王の手腕を見守りつつ、要所要所で助け船を出せばいい、くらいに思っていたのだ。
その考えが変わったきっかけは、大陸歴1097年4月のはじめ。
ちょうどフィオリアが昏睡状態から目覚めて1年が過ぎたころ。
彼女のもとに急報が入った。
父親にして王国宰相のグレアムが、執務中に倒れたのだ――。
来週、本作についてちょっとお知らせがあります。




