嘘吐きで偽善者で偽悪者で勘違いさせ系な主人公様
その場にいたものたちはサビの周囲から禍々しい空気が発生し波うつような気がした。いわゆるグニャリと空間が歪んでいるのだ。
そうだとも歪むのも道理、この復讐の鬼が一族滅亡という陰謀を働いた犯人の片割れに対してそのようなことをするのを許すのだろうか?
テツがそのまま王位に就いたらそのまま暗殺の代償である復讐を企んでいた男がその相手に頭を垂れろだと? 大きな目的の為に自我を抑え込むことが政治の要諦とでもいうのか? 君も男なら聞き分けたまえとでも? そもそも自分の大切な弟を仇の娘を結婚させるのは容認できるのであろうか?
カツテは息を呑みクレナイも彼に注目しその言葉を待つ。もしもこれに対して彼が反対するのであればその別の案で……と第四案を出そうとするタイミングでサビは言った。
「……手段が限られているのだから、そうせざる得ないのならそうしないとな。最善の案は潰えたのだし」
みなが息を止めるのには丁度良い時間をおいてからサビがそう言うと、その場の緊張感が和らぎ安堵の息が漏れた。
そうか、なんとか耐えてくれるのか。弟の未来のためなら己の積年の恨みを我慢できるとは大した男である。本当は復讐をしたいところを堪えるとはさすがの俺もその点はお前を認めざるを得ない、とアンチサビなアカメ十五世も頷くところ。
ご存知の通り、全部演技である。テツもクレナイもカツテもそこに疑いもしないところだが、これは嘘だ。サビは復讐など毛ほどにも気にしていない、だが周りには気にしているような顔をしてそう演出をしている。先ほどの気の練り方もそうであり、そういう風に見せることにはサビは余念がない。
みんなのこうなんだろうな、という、こうして欲しいを的確に見抜いてそうしているだけなのだ。サビの本音である『復讐なんてどうでもいいのでインの方を攻略する方法をどんどん話し合いましょう』ではみんな嫌なのだ。
ちゃんと復讐の鬼らしく、仇討ちをしたいけれども自分の一念を押し殺して弟の立身出世優先するという態度を取って貰わないと困るのだ。不幸な生い立ちのある人間はきちんとその不幸によってずっと苦しんでいてほしいとかいうのは悪魔的発想か?
だけどみんなは被害者が楽しそうにしていると思うではないか、ちゃんと被害者らしく哀しくしてほしいしその不幸に苦しんでいてほしい、と。逆境に負けないように健気に頑張れ! と応援したいのになんだその態度は? 亡くなった親に申し訳ないと思わんのか? 恥を知れ恥を。
日陰者は日陰者らしくしてもらわないとこっちはどう対応していいか分からない。だって私はあなたの不幸で心を痛めているんだからそうしてよ、この理屈と感情。
『心配して損した』という言葉の類もそれである。損はしていないのに損をしたと感じるのは人間の心の恐いところだろう。そんな嫌な感情のせいもあってか、そんなこんなで今日も世界中では嘘を混じえた多少は盛った不幸な自分語りが蔓延しているわけである。
お前のその不幸は嘘っぱちな作り話だ! と糾弾するものなどそうそういないのだから不幸語りに不利益はない。これもただ人の優しさや善性にも関わりのあるところであるから完全に良くないとは言えない。そういう感情があるからこその慈悲であり善意であるのかもしれないし。
まぁ大事なのは人はありのままの真実を語ることはかなり困難で普通出来ないことであると知ることだろう。そうであるから物語や創作といった芸術の目的のひとつが人の真実を描いたり語ることになるのである。話を戻そう。
「ただあの王子二人はテツを暗殺しようとしていたわけだ。そのような犯人の懐に入るのは難しいのでは?」
サビは答えやすいように敢えてこう聞きカツテが答えた。
「テツが狙われたのは当時では王位継承の筆頭だったからでしょうからそこから外れたら憎しみも無いでしょう。むしろ自分の好都合な存在となるのならイン程度の小利口な男は計算が働いて進んで歓迎するのじゃないかしら。下手したら自分が何をしたのかも忘れているかもしれないし、所詮はご都合主義の男よあれは」
「加害者はすぐに忘れるしなんなら罪滅ぼしのつもりか何かで良いことをしたがる、か。引き続いて加害をするほどに赤子だったテツには個人的な恨みはないだろうしな」
サビがそう受け止めて返しクレナイが続ける。
「王位継承から外れたインを狙ってテツ君の立身出世の足掛かりとする、これが第二案。
では次に第三案は長男であり王となったジンの元に身を寄せてということだけど、最も将来への可能性の低いものとなるね。そもそもジン王には嫡男がおり彼がその次の王になるのはかなり高い。それと競うためにはジン王の元にいるよりもインの元にいるほうがバックアップを受けて有利となる」
「だいたいジン君……いえ王のもとに身を寄せることを検討するのも馬鹿馬鹿しいことだけどね。なんたって彼は……そう残念なことにサビさんのお母様の仇となるのだから」
「……カツテさん、良いのですよそれは。そちらも俺が耐えればいいのだから」
「とは言っても心の中はさ」
サビは目を伏せ溜息を吐きそして目に指をあてる。場は静まり返りそのサビの言葉の厳粛さに支配されているようであった。
いくらでも繰り返すがもちろんサビは耐えてなどいない。もとより耐えることなど何も無い。復讐なんという気はさらさらない。さらさら流れる小川みたいさ。
あるというポーズだけを最大限にとっての忍耐の呼吸。そうなると彼はいったい何なのか? 偽善者か偽悪者のどちらかなのか? 両方か? そうだともだからこそ彼はどこか空っぽであり空虚な存在と言えた。復讐鬼というポーズを取っているだけの復讐鬼、宇水さんかな?
誰もがその醜い姿や宿命には深い内容があるのだと勝手に推測するが、そんな彼自身の中身はテツへの美の崇拝とその母である伯母への反抗しか、ない。荒廃しきった床の間だというのにその上座に安置されている祭壇は輝きを放つ、そんな奇妙な廃墟が彼の心象風景でもあるのだ。
様々な人からその思い思いに感情を向けられることによってサビは感情を学びとり、そうであるからこそ他者への内面の複雑さを推測しある程度にはが掴むことが出来るようになっていた。
カツテへの理解もそうだ。分からないことだらけな年上の婦人ではあるが一つだけ分かったことがある。それはカツテはジン王への郷愁さはあるがそこに戻ろうという気が全くないということ。
この第三案ではいつも反対意見を述べる。その理由としてこちらの事情をあげるのが常だ。サビの母親の仇に頭を下げるだなんて有り得ない、そうよね? と再三確認を取ってきてのあのいつもの芝居。
あれが建前で本音は彼女自身の中にあるのだとサビは見てこれまでしてきたカツテの話を繋げた。悪い女のせいで追放された……とかいった話はおそらくはジン王の王妃であるクスハのことだろう。
たまにクスハのことを「クズ」と言い間違えて気づいていないのが何よりの証拠。たぶんあちらはカツテを「カス」と呼んでいたのだろう。
カツテはそのクスハ王妃に深い恨みを抱いており、復讐を願っている。この人こそ復讐鬼であり、そうであるからこちらをそう仕立てようとしている。
サビは内心にて微笑む。良いですよカツテさん、あなたの願望を俺は叶えてあげます。帰京と復讐を約束します、だからこそこの俺に従ってくださいね、と
「次回、引き続き第三案について。ジン王の元に身を寄せるのが如何に良くないのかという力説。でもそっちにはヒロインのコンがいるのだけどねぇ」




