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醜と美そして陰謀論、を物語る。  作者: 神谷尚明
第一章 神話となる美と醜の姉妹
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王(権力)VS姉(美)

 

 地方巡行の際に王は噂を耳にした。


 とある概念喫茶に世にも稀な美女がいるとのこと。一目見るだけで誰もが幸福感に包まれ大満足のニッコニコになるとかならないとか、その真偽は君の目で確かめてくれ!


 この噂を流したのは妹でありこうしたプロパガンダに打って出た。


 そいつは俺の目で確かめてぇなぁ、と御年40台となる王が舌なめずりをした。


 もともとこの王は好色で既に数人のお妃様を有していたが、良いものはいくらあっても良いということでこちらの宿舎まで来るように使者を送ったのである。


 王は噂の美女が来るのを楽しみにしている一方で打算もしている。


 それほどでもなかったらお持ち帰りはせずにこの場限りのこととして済まそうとか、ここまでの道中でしてきたことをするまでのこと。


 この王はクレバーな女好きとかいう嫌な奴である。賢いスケベとか可愛げのないやつだ。


 既に家柄と政治的のふたつを有するお妃は手元に置いているし、ついでに綺麗なお妃を手に入れているがもう一人はどうだろうかと。


 あと一つあるとちょうどいいかな? けど余計な金がかかるのもなぁ、とかなんとか。


 この男はケチである。女好きでケチとか業が深い。


 どうやって安く早くコトを済ませるかを女といるときに考えている、そういう男。あなたの傍にいる男と同じ。


 これまでずっと愛に対して打算し続けてきた、それがこの男だ。最もコスパ重視かつ打算的な果たしてそれが愛と言えるのかは問われて然るべきであろう。


 その問いがこれから来るのだが彼はそのことにまだ気づいてはいない。


 王は考える。まぁこんな田舎の女とかあれだよな、掃き溜めに鶴というやつでここでなら輝くが、都会に連れていったらただの田舎娘という可能性が高いだろ。


 そうそうあれだよあれ、田舎の美女が上京したら全然普通で頑張って垢抜けようとして都会風を完コピして特徴0になる逆にダッサイやつ。


 一山云百円のまさに君の代わりはいくらでもいるよと言いたくなる。


 大して期待はしていないけどさ、ほら噂の名店とか名所とかに行った際に「まっこんなもんか、次いこ」って面白いじゃん。


 実績解除ってやつでそういうのが目が肥えるってやつで自分の成長を感じるよね。だって本とか映画って読んだ観たって他人に対してアピールするためのものでしょ?


 こんな不埒なことを考えている王だが、やがて嬢がじゃなくて例の美女が到着したと報告を受け案内されつつ部屋に入るとまず良い匂いが鼻に入ってきた。


 なんだこの気持ち良い匂いは? と視線を下げるとそこには跪き頭を垂れている女がいた。


 匂いの発生源はここか! と見下すと三つ指をついて床に額づく女の頭頂部がそこにあった。


 王はぐらりと身体が揺れる大目眩。いったいこの感覚はなにか? 


 遠近感が狂い女の頭のてっぺんが近づいたり遠ざかったりする感覚に襲われピントが合わずに霞んで見えてしまう。


 まるで正しく認識してはならないと脳が訴えているようであり王は何も言えない。


 面を上げろ、と命ずることができない。


 いつもならすぐさま顔を見て美人かどうかを判断して心中で点数をつけて遊んでいたのに、出来ない。


 ちなみに王は育ちが良いので点数は口には出さないし女にわざわざ教えない礼儀作法を身につけている。


 全く以て嫌な男である。


 それはそうとこのあまりに良い匂いというのはこれはきっと危機のサインであると王は思った。


 こんなに良い匂いがするというのは天国であるが、この危機感はその手前にありそうな魔界……そうだ魔のものの雰囲気だ。


 好色かつ有能なるこの王は即座にそれと判断して部屋を去ろうとした瞬間! 


 女の顔が突然あがった。命じていないぞ! と言おうとするも王の目はその女の顔を捉えてしまった……それと同時に捕らえられてしまった。


 王の心は漂白され停止してしまう。ひとえにまさにこれこそ真に出会ってしまった瞬間であろう。


 人生にはあることと出会ってしまった以前と以後に別れる瞬間が何度かあると思われる。


 それは出来事であったり物であったりそして人であったりとそれぞれある。人は生きながら生まれ変わる時がある。


 この王の場合は明確にこの顔を見た時で以後と以前が分断された。


 女は何も言わずに微笑んだ。すると王も微笑んだ。釣られてそうすると女は俯きまた顔を伏せた。


 何をしている? と王はショックのあまり身体が震えた。


 なぜ顔を伏せたのだ? 見せろおい……見させてください。


 心中においても王は命令できず懇願調となってしまった。


 人は自分以上のものに対しては自然に命令などできない、お願いしますという口調をせざるを得なくなる。


 しかも王は自分のその変化に気づいてはいない。意識などできずに自然に変化した。


 そうであるからこそ王はその場で跪き女よりも頭を下げた。この男はそんなことをする男ではない。


 背の高い立派な偉丈夫であり頭など下げたことが無いから背筋も真っ直ぐしている。


 そんな男がいま床に這いつくばっているのだ。ただ女の顔を見たいがための一心に。


 床に転がるでっかいダイヤモンドを見つけてしまったらどんな貴夫人でも膝を屈するしなんなら這いずってしまうであろう。永遠の輝きの前では人間は無力なのだ。


 そうとも女には宝石をばら撒き男には勲章でもばら撒いておけばたちまちのうちに膝を屈する憐れなものよ。


 王は懇願する。お願いです! もう一度だけでもいいから見させてください! 


 口には出せないが心はそのことでいっぱい。


 恥も外聞もなく純粋に王は本気で顔を見ようとしている。その際に力づくで顔を見ようとはしていない。


 というか、触れないのだ。本当に好きになると畏れ多くて触れられなくなる。勇気が必要なのだ。


 王はそういった気持ちになったことはこれまで一度も無かった。


 女に不自由したことがないためにまるで初恋をしたもののような行動をとってしまっている。というか初恋もよく分からない立場であったろう。


 子供の頃に覚えておくべきことをせずに、大人になるとこのように子供のようなことを大人になってやる羽目になるということの一例となる。


 本気で好きになるも自分の力ではどうにもすることができなくなるということ。


 王はいくら身体を床につけても女の顔は見えない。彼女は額をつけて両手で横顔を隠しているからだ。


 いまひとつの密室で奇妙な光景が展開されている。


 土下座をする女と床に這いつくばっている男の光景である。


 人は隠されれば隠されるほどにそれに執着を起こす。


 特に幼き頃から何もかもを与えられてきたとしたら逆に貰えないものに固執してしまうのだ。


 しかもそれが美であったら、または愛であったらもう何をしてもそれが欲しくてたまらずに気が狂ってしまうかもしれない。


 事実、王は発狂寸前でありここでようやく悲鳴にも似た呻き声を上げた。


「お願いします……顔を見せてください……」


 心の芯から絞りだすようなその声を聴いた女はその場で立ち上がった。


 今度の展開は象徴的である。女は立ち上がり王を見下している。


 王は……跪いている。何に? 女に? そうとも言えるがもっと言えば美に跪いている。


 この地において最大の権力者が美の前で立ち上がれず自ら進んで跪いているのだ。


 次回はこの戦いの決着をば。

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