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醜と美そして陰謀論、を物語る。  作者: 神谷尚明
第二章 死を継ぐものたち
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娘と妻を手放す

 

 陰謀ならぬ陽謀はこれにて成功。


 簡単でしょ? 傍から見たらとってもイージーで楽勝。


 いやいやそうではないとは軍師王妃の言い分。前回の「いいえ、あなたの成果ですよ」は謙遜ではなく真実そのもの。


 そう、これは王の成果であるとは王妃自身も認めるところ。


 計画通りに物事が進めばなんでも簡単……それが出来れば苦労はしねェ。


 第一王妃は立案や策案はできる。それこそ正攻法から奇策までお望み通りの方法を編み出して提出する。


 だが自らは実行出来ない。その権限はないうえに自分ではどうしようもない。


 彼女の性格では実行に移すまで様々な摩擦が生じてしまうのだ。エゴが強すぎて調整は出来ず味方は作れず反発を生むなどなどは屋根から肥溜め作戦で説明済み。


 そしてどれだけ完璧な案でも実行されなければそれはまさに机上の空論。作文は良いが実態が伴っていない空虚そのもの。


 地図を見てその地を歩いた気になった旅人みたいなものだ。自らの責任のもと実際に行動した者こそ成果であるとも言える。


 そもそも王妃も若干というかそこそこかなり王への私情そのものな復讐や腹いせを行ってもいた。


 始めに奇襲というか武力を用いて進む安易な道を選ばなかったというのなら、進むのは正攻法という困難な道である。ならば究極の困難さを用意した。


 先ず隣国との友好的態度を示すというものである。


 これは王にとっては愛するものを殺害した犯人に対して頭を下げてお願いするというものであり屈辱に間違いない。


 あなたに出来るかな? と第一王妃はあのにっくき新王妃の死に様の噂を思い出しながら王の様子を窺った。


 死に装束は真っ赤なドレス……あーあまだ若かったのに可哀想にね、というのは第一王妃の御感想。


 だって死んでいるからね、同情してあげる、もう悪くは言わない、これがたしなみというもの。


 でも生きていたら承知しない、とかさっぱりとしたものである。だが悪鬼羅刹、テメーは駄目だ。


 さぁあなたは言うぞと第一王妃はにやついた。


 王は激怒した! 「こんなことできるか」とね。もちろんできないよね、あなたみたいな男があの憎い国に対してそんなことなんか、私は知っているから無理しなくていいのですよ。


「友好の呼びかけか、分かった同意するから実行しよう」


 目を疑うというよりかは耳を疑うこの発言。


「よく言ってくれたわね。できないかと思っていたのに、驚きですよ」


 王妃はつい本音を言ってしまうと王は首を振った。


「俺にできないことは無い。最善の選択肢をどうか俺に提示してくれ」


 強がっちゃって! という反発心が第一王妃の心に湧く。それは私への挑戦状だとも受け止めました! ならばこれはどうだ! と最初の手が通った後の次の提案こそが王女の嫁ぎ先に隣国である。


 第二王妃の娘は隣国の幼王のもとに、第三王妃の娘は新領主に、これに耐えられますかあなた?


 案を聞き固まる王を見て第一王妃は頬を緩ませ勝利を確信した。


 あの新王妃が殺害されてからはその寂しさを愛する娘に慰めてほしいのでしょう? これから老いていくのだから手元に娘を残したいですよね?


 夫はどこかから婿入りさせるおつもりだったでしょうが、けれどもう駄目、遠くの地に嫁入りさせちゃいますよ。しかも二人もね。


 あの若い女好きのあなたがこれを通すはずないでしょう。だから言いなさいよ、できないって。そうしたら私は違う案を出してあげますよ。


 さぁ許しを、乞いなさい。


「それで進めてくれ」

「そうですよね、さすがにそれはできませんよね」

「娘二人を嫁に出す」

「いきなり二人もだなんてできませんよね。そこは分かっていますから違う方法をとりましょう」

「それならば確実だ。是非、進めよう」

「ですから……」


 噛み合わぬ会話に焦る第一王妃は王の目を見る。


 それは狂人の色……には見えない。澄んでいるがそれでも澄み切ってはいない。


 多少の濁りがありそれが娘二人を手放す葛藤だったのだろう。だがこの人はそれに耐えてそう言っているのだ。狂ってなどいない。


 痛みがない状態でもない。正常でありただ痛みに耐えている状態なのだ。


 ……この人は我慢が嫌いだったなと第一王妃は思い出す。


 堪え性が無い癇癪餅。わがままな子供がそのまま大人になり王となった。いつまでも王子のままでいようとしていてそれが若さと美しさへの執着にも繋がっていた。


 それが今はどうだ? 老醜を積極的に受け入れているだけでも驚異的なうえに痛みを堪え苦しみに耐えているのだ。


 いったいなにがあなたをそうさせているのです?


「……王よ、本当によろしいのですか?」


 第一王妃は呼んだ後、はじめて二人きりの時に夫を王と呼んだことに気づいた。


「娘も大国の王妃や新領主の夫人となれるのなら最善の就職先として言うことは無いだろう」


「就職先ではなく嫁ぎ先ですよ、まぁ一緒ですが。いえいえよろしいと聞いたのはあなたの心です。王よ、違う案もありますよ。王女を用いずとも他の有力貴族の娘を出すという手もございます。

 そうすればどうでしょう、あなたは手元も王女を残すことが出来、婿をいれて親子仲良く暮らすということでございます。

 わざわざ大切な王女を使わなくてもいいということも可能です。どうしてもというのなら一人残しても問題ないかと」


 試して、みた。第一王妃は王の心に迷いを入れた。そんなに無理をしなくていいのですよ、そうしたいですよね?


 いくらなんでもそれはできないのだからそっちにしようと言いなさい、と。ある意味でもとの怠惰なあなたに戻っても良いという誘いをかけた。


「……いや、この問題を成功させるためには確実かつ最も有力な方法を用いるべきだ。

 そうしてこそこちらの意思があちらにも届くというものだ。宝ともいえる王女二人を用いるからこそこれまでの不可能を可能にできるかもしれないのだ。娘二人が嫌がったとしても俺はなんとか頼み込む。王家の娘としてどうか国の平和と歴史そして未来に貢献してくれと」


 かくして誘いは無効と悟り王妃は抵抗を諦めた。


 そして二人の王女が嫁ぐことも決定し、その二人の母である王妃も嫁ぎ先に付き添うこととなった。


 第二と第三の王妃は王の申し出に驚愕した。どうしてそんなことを言われるのですか! ではない。


 あなたは我々を外に出してくれるのですか? である。彼女らも様々な苦労がある。特に苦しいのは自分たちの存在価値があまり見いだせないことであろう。


 後継者候補でもないのに王宮に居続けること、ただのやっかい者である。


 完全な怠け者体質ならばこのロイヤルニート生活を満喫すればいいのであるがそうはいかない。


 二人の王妃は勤勉なタイプであり王宮のためにあれこれ働いたりもしていた。だがそれは本質的なことではないのだ。


 娘が婚姻年齢に到達しても自分はまだ老人でもない、なにか社会貢献とかしたいのだがここでは限界がある。


 どうせあの王のことだ。娘を外になんか出したくはなく婿を取ってこの城に住まわせるのだろう。


 そうなるとやることは孫の世話ということか……それぐらいか。という意識からのまさかの大移動!


「王よ! よろしいのですか!?」


 二人の王妃は声を揃えていった。


「厳しいことになると思うが、頼む。国のために尽くし未来を作ってもらいたい」


 こちらの驚きとまるで違う言葉が来たが二人は頷いたし感動した。


 そうか、これからなのか! 二人の王妃は期待を胸に隣国の王室へと新領地へと旅立っていった。


 あらゆる意味で順調である。立案された計画が何の抵抗も摩擦もなく進んでいく異様さ。計画は必ず計画通りに進んでいかないのが逆説的な真実。


 特にこの人情が絡むところではどこかで引っ掛かり止るのが当たり前のことだ。人情は予測不能であり必ず修正が求められる。修正無くして完成は無し。


 しかしそれを王は全て通過させている。あらゆる私情を排してこのプロジェクトを推進させている。


 だがありえないことだ、あの欲望にまみれた男がどうして……第一王妃は疑いの目を向けるのを止めない。


 どうしても納得が出来ずに疑惑が止められない。


 この計画が進められている王宮では王は讃えられ絶賛されるばかり。


 なんという名君! なんという賢明なる判断! これは後世にまで名が残る偉業となります!


 様々な賛美を聞くに第一王妃は「まぁ私のおかげでもあるけどね。ちゃんと記録を作って王妃との共同作業でしたと残すつもりだし」


 と気持ち良さを感じつつもやはり引っ掛る。この人はいったいなにを考えているのか?と。


 もちろん王としての実績を残したいという気持ちはあると理解できる。歴史を意識しだしたといえば納得しかない……だけどそれだけか?


 あの女が死んだあと目覚めて真実の自分になったとでも?



 次回、亡くなった女を想うと書いて妄想だがそこを突っついて本音を出させてやる。そう「あの女はもういないじゃない」と言ってやる。


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