静かなる狂気=名君への道
最愛の王妃を亡くした王はどうなったか?
月日が彼の哀しみを癒しそして良き思い出として浄化させてくれただろうか?
してくれなかった、最悪である。未だに未練たらたらで日々嘆いている。
朝目覚めベットの脇にあの子がいるような気がする……だがいないとかいう絶望を毎朝味わっていた。
気持ちのいい朝がなくなった。もはや目覚めが苦痛で仕方がない。寝ぼけて隣の愛妻に声をかけるもいないことに気づいて涙することを何度したことか。嗚呼、君はいない、陰謀によって暗殺されてしまったのだから。
これに加えて赤子が行方不明であることが忘却に到れぬ主要因であるためである。
残酷なようだが思い切って二人とも死んでいたら諦めるしかなく時とともに失われていくしかないのだ。
だが赤子生存という可能性がある限り諦めは無く毎朝見つかったという報告があるかもしれない可能性。
これが王の精神に与えた影響は大きくあらぬ方向に働いてしまう。
表向きは冷静さを装いつつその内面は嘆きの怒号が渦巻いているというタイプ。そのせいかおかげか王の統治は後半の方こそ後世から評価されてしまうのだ。
逆はよくある。統治の前半はちゃんとしていたのに後半はだらしなくなっていくとかいう例。
良くないものの歴史的に言うとそれでもまだかなりましと言ったもので、本当に駄目な統治者は始めから最後まで一貫して駄目なのだ。
駄目なまま終始一貫で始めから王位に就かないでくれというやつばかりが実情。尻尾まで暗愚が詰まったような安定した出来というやつで、良いところを探していろいろと解釈するしかないやつ。
この加齢と共にだらしなくなっていく王様は名君の成り損ねというもので惜しい人を亡くした扱いとなる。
有名どころだと若い美人にハマってしまいってああ大変が定番だろう。
女が悪い!
最高のフレーズである。男がこれを叫んだら脳内物質が分泌されて楽しくなる。
男が悪い!
なんの説明にもなっていないがそれが絶対的な真実であるかのように聞こえてくるからたまらない。
自分が絶対に属さないカテゴリーに罪を擦り付けられるのならそれが何よりの幸福感をもたらす。自分は被害者だというポジション取りに生命を賭けろ! 他人を押し退けてそのポジションを死守しろ!
可愛いは譲っても良くそれが徳なことは有るが可哀想を譲るのはあり得なくそれは損以外何物でもない。
○○が悪いの中に自分の嫌いなものを入れることが大事なのだ。なんでも良い! とにかくボールをゴールに入れて叫びたいだけだ。
真実などどうでもよく、あいつが悪いと叫べれば十分。俺は糾弾するのが好きなんだよ!
しかしこれは逆のパターン。女が死んだら名君になってしまうかもしれないのだ。
いわゆる「冷蔵庫の女」というもので女が死んだおかげで男が奮起し覚醒するというパターンである。死ねヒロイン! お前の死を通じて人間的に成長してやる! 親友も同じく殺されがちで青春の生贄。
女が良い! 語感が悪い。
女のおかげ! これもなにか違和感がある。
そもそもこんなワンフレーズを絶叫するのは頭に悪いし頭が悪くなるので健康のためにやめた方がよい。
なにはともあれ君よ死んでありがとうとか当事者側からしたら冗談ではないのである。
それに男側も愛するお前の死のおかげで名君になれた、感謝している。
こんなことを言うはずもなくなんで死んでしまったのかどうして殺されたのかで心は暗黒状態である。
王の場合でいうとあの事件後、彼は一度も笑っていない。彼女の死によって彼の中の喜怒哀楽の喜楽もまた死んだ。
哀しみつつ怒っている。自らを罰するかのように対外政策を取り仕切っている。
そう、彼は静かに狂っていた。今日も今日とて狂気を深めていく。
あの遊び人の中年男が人が変わったかのように毎日軍服を着て暮らす日々を送ることとなった。
政務を家臣頼りにせず自ら取り仕切り指示を出す。目を見張るばかりの変身だが、現場は迷惑である。今まで散々人任せにしてきたのにここに来てやる気を出されても困る。
しかも指示も現場のことを知らずに出してくるから調整に一苦労である。
「あの、戦争とはなんですか?」
「近い将来に戦争が勃発するのだ。俺の服装を何だと思っている?」
御冗談を……と家臣が言おうとするとその瞳の色が見えた。
それは透き通って綺麗で底まで見えてそこには暗闇が広がっていて……
「かっかしこまりました!」
深淵を覗いてしまったような家臣はすぐさま王の命令を全て通すことにした。
復讐の準備である。
お隣の中央帝国の陰謀によって王妃を殺されてしまったことに対して王はやり返さないと気が済まない。
そんなことをしても彼女は戻ってきませんよ、とか言うかもしれない。
これは先ず論理的に間違えている。
彼女を生き返らせるために犯人を殺すというのならこの反論は正しい。
そんなことしても生き返るはずがないからだ。敵の腹を割き生き肝をすすっても蘇生は叶わぬ。
命を奪うという表現が招いた誤解かもしれない。犯人だって被害者の命を奪ってはないのだ。返せと言われても出来はしない。
被害者の命を失わせたといったほうが良いだろう。この世から無くしてしまい違う世界に逝かせてしまった。
よって復讐とは気晴らしだ。自分の哀しみと怒りを誰かにぶつけることが目的なのだ。それでスッキリしたい。
愛するものの死に何もせずに耐えることが出来ないものが行うことである。我慢できないからやるしかない。
王のこれは二重の意味で確実に無駄なことである。なんったって犯人はお隣さんではなく自分の息子たちなのだ。
ある意味お隣さんだが身内だ。怒りの矛先も含めて無駄の極みでいい迷惑と言わざるを得ない。
しかし王の心は真実そのものである。
彼の願いは二つある。
一つ目は息子が現れたら立派な父親として会いたいということ。母の仇は討ったぞ息子よ! と胸を張りたい。父を偉大だと思わせたい、その一念。
そしてもう一つは……ここは伏せておこう。この二つの願いによって王は生まれ変わる。
光に向かってひたむきな静かなる狂気だがそこには王に求められる倫理そのものがあった。
「狂」という字には「まっすぐ」という意味が含まれており狂人は「まっすぐな人」でもあった。中庸の人が最善であるが次善は狂気の人、こうなる。
王は目的に向かってまっすぐ一直線。壁があっても突き破り川があっても踏破する、まさに問題解決のための狂気である。
それに時代もちょうど良かった。お隣の中央帝国だが現王の急死によりその帝国が揺らぐことになる。
その隙に乗じて……だがしかしここにきて彼の心境にも変化が……こうして後の世に更生した名君と評されるものの戦いの時代がはじまる。
表はこうである、では次は裏を見てみよう。
テツへの教育、カツテの娘が登場。




