私は悪役令嬢の陰謀によって都から追放され田舎に嫁がされた
彼らは赤目であるからアカメ一族。ここから分かりやすく名がつけられていく章であり人間の時代となる。
アカメはこの地方の有力な地主であり地域の顔役でもあった。
そんな自分達の縄張りに見知らぬ馬車が現れたのだから不審がって一族総出で見に行ったわけである。
赤い目たちが馬車を眺めているそんな中でひとりだけ違う緑色の瞳をした婦人がいたのを覚えているだろうか?
彼女はこの一族の嫁でありアカメ十五世の夫人であり名をカツテと呼ぶ。
二十代前半の小柄な婦人でありついでに眼鏡もかけていることからなるほどインテリであろう。
そんな短絡的な……目の悪さと頭の良さの相関関係は云々という声が聞こえたので彼女の来歴を軽く触れておこう。
かつて彼女は現代的に言うならば……令嬢であったが王子によって婚約破棄され追放されてしまったのだ。
具体的に言うとあの長男のお妃候補であったのだ。つまり未来の王妃にもなれるかもしれぬ逸材の一人であった。
とある名家に生まれ都の一番地で育ち適齢期となったころに、歳の近い長男のお妃候補の一人として他のライヴァルたちとの間で競争及び切磋琢磨をしていた。
ところ父親が政変に巻き込まれてしまい失脚する憂き目に会ってしまい合わせ技で地方に飛ばされることとなる。
こうなってしまうと族滅は免れたものの家族諸共都落ちということで彼女のお妃競争も無かったことにされてしまった。
ほらこれで王子によって追放され……てはいないな。長男もこの件に関してはがっかりであった。カツテは有力候補であり彼自身も目をかけていたからである。
カツテも長男が好きであり相思相愛だが王子の力だけではいかんともしがたく王宮から追放となった。
どうやらこの騒動の仕掛人はライヴァル令嬢の父親であり、自分の娘がお妃競争で負けそうになっていたために隙のあった父親を倒して一石二鳥を狙った……という説がまことしやかに語られたが、そういった証拠は見当たらず偶然かもしれない。
「いいえ陰謀よ!」
だがしかし彼女は陰謀だと信じて疑わなかった。これは全てあの女の仕業だと。
そうだともあいつは候補者三人のうちで三番目のビリッ穴のドン尻だった。あれはただ背が無用に高いだけのウドの大木ってわけ。王子だってあんまり好きなタイプではないはずだし。
親からもらったものだけでお妃候補競争で勝とうとしていた甘ちゃんだったのよ。
学業とか運動とか立ち居振る舞い所作マナーといった後天的な努力による成績があの女は駄目だった。どうでもいい背丈や顔だけでなんでも上手くいくとか勘違いも甚だしくて痛い女。
そうよ王子と相思相愛な私に勝てないと分かったからこそ番外戦術によって私を排除したということよ。
悪役令嬢らしい卑劣かつ結局自分一人じゃ何も出来ずにデカい身体のクセに親頼りなところがあいつらしいところ。
おのれおのれおのれ許せぬ! いつか吠え面をかかせてやりたい! いいやかかせるたとえ泥水をすすってもだ!
陰謀ではない可能性? そんなのあるわけがないのよ。冗談は無駄に高い身長だけにしてくれる? だって私がいなくなったことで一番得をするのはあいつなのよ。
二番目のあの子はもしかしたら私に勝てる可能性がある有能さだけどあの女はその可能性は0だったの。
事件によって最も恩恵を受けたものが犯人の有力候補だし動機は十分。だからあいつが犯人よ!
……という感じで彼女は呪詛を口の中で繰り返しながら都から地方の田舎へと落ちて流されていった。
この事件が起きたことで結果的に最も得をしたものが犯人説だが、駄目な探偵的思考と言ってもいいだろう。真に危ないデカである。冤罪王誕生。
こういうキャラが出てきたら噛ませキャラとして主人公に論破されて赤っ恥をかくのが関の山。経験としての偏見を振り回すプロは論破されてしかるべきだ。
そう我々はこういうキャラを見ながら笑うもののしかし実際にあらゆる事件の際にこの論理展開をしてしまうのではないか?
事件が起こったことで最も損をしたものが犯人である、と言ったら人はおかしいと思うはずである。
何故なら事件とは犯人が得をするために行うことであるからだと我々は漠然と信じて疑っていないのだ。
そこには人の愚かさや狂気または偶然という要素が入っていない。合理的に考えたら犯罪はしないからこそ事件は分からないものなのだ。
事件とは偶然的なものでありそこに愚かさや狂気が入り混じり損得などといういう概念を凌駕しているものもある。
もちろん意図的で論理的かつ合理的に考えて行われた事件はあるものの、そればかりではない。
そして前者は陰謀論が入り込む隙は無いが後者は陰謀論との相性は抜群である。最も得をしたものが犯人説は陰謀論と隣り合わせである。
さて、その面目丸潰れの父親。娘に対して本当に申し訳ないという気持ちを抱きながら落魄し老衰しきった身体で最後の仕事をしていた。
それはその地方の有力者であるアカメ一族との縁談申し込みである。
もちろん王家とは比べ物にならない格落ちでありいわば下方婚となる。とはいえこの地方だと最も格式が高いというか権力者であるのは確実なのだ。
結婚に失敗した年頃の娘をこのままいつまでも家に置いておくわけにはいかない。就職に失敗してしまった年頃の息子をずっと家に置いておくわけにはいかない、これと同じだ。
もはや落ちぶれてしまったのである。婿取りなどできるはずもない。ならば都の名家であったというブランドを最大限に使うのは今しかあるまい。
日が経つにつれて価値が下がっていくのだから今すぐにでも全使用したほうが良い。来週、いや、明日になったらもっと価値が暴落してしまうかもしれない。下方婚とか上から目線で言っていられるのはいまのうちである。
この父親としての最後の仕事を娘であるカツテは唇を噛み締めながら承諾しこうしてアカメ一族に嫁ぐこととなった。
「いやぁ都のお嬢様がうちに嫁ぐだなんて嬉しいねぇ~」
アカメの男衆は呑気に大喜びである。オラの田舎に都会がやってきたのだ。楽しくて仕方がない。土臭くない女なんて絵でしか見たことがなく、そもそも都の女とか生まれてはじめて見た。
これが生まれも育ちも都の都会人かぁ~なるほど。垢抜けているという表現はあるがあれは都に憧れる田舎者に使う言葉であると分かるね。真の都会人は抜ける垢がはじめから無いってやつよ。
夫となるアカメ家の次期当主十五世も都会の女を前にして緊張してきっている。地方の中小企業に都会の女が就職してきたのである。戸惑うしかない。だが、最高! 確実に彼の人生の絶頂期である。
没落しても地方では名家として名が通っていれば無問題大歓迎。腐っても鯛であり新鮮な雑魚とは違うのだ。そら川魚ばかりの土地に海の魚がやってきたのだ、これゃめでたいめでたい。盆と正月が同時にやってきたわけよ。
ところでこの宴の席でカツテは緊張しているというか臨戦態勢である。その目はほとんどキマっている。敵が、いる。
どこの誰? それは決まっている。奥にいる者たち、姑というお局様とその陰気な取り巻きたちである。
次回、カツテという妄想たくましゅう女。




