銀白髪の言い訳と、放課後のカモフラージュ
カフェを後にし、10万円の重みを胸に神社へ帰ろうとする真白。しかし、彼女を待ち受けていたのは、鋭い視線を持つ吹奏楽部の後輩たちでした。神気の余波で変色した「銀白の髪」という、言い逃れできない異変。絶体絶命のピンチに、真白が繰り出したのは、神域の知恵ならぬ「今どきの女子高生」としての渾身の演技でした。
封筒の重みを確かめるように、そっと胸元に抱えながら、夕暮れの街を歩いていました。
「10万円……。一姫さんにバレたら『にゃー! 全部お酒にするにゃ!』って飛びついてきそう。……いけない、無駄遣い厳禁です。まずは魂天様に、安酒じゃなくてちゃんとした御神酒を供えてあげなきゃ」
そんなことを考えながら、ふと商店街の方へ足を向けました。すると、ちょうど部活終わりの吹奏楽部の女子生徒たちが、楽器ケースを背負ってこちらにやってくるのが見えました。
「あ、真白先輩!」
彼女たちは真白を見つけると、ぱっと顔を輝かせて駆け寄ってきます。しかし、その中の一人がふと、あなたの頭を不思議そうに凝視しました。
「えっ……待って、先輩。髪……?」
あなたはきょとんとして「え?」と聞き返しました。
「髪の色、どうしたんですか? ……すごく、綺麗。それって、染めたんですか? 今までそんな色、してましたっけ?」
その言葉を聞いた瞬間、あなたの背筋がぴんと伸びました。
(あ……しまった!)
今朝まで、真白は自分の髪の色を気にすることなく、鏡さえも見ていませんでした。しかし、先ほどカフェで八連荘という理を超えた奇跡を起こした際、あなたの身体は無意識のうちに神気を纏い、その影響で髪の色が変化していたのです。
それは単なる染色やメッシュなどではなく、まるで光そのものを編み込んだような、人界の染料では決して出せない透き通った銀白色。あなたは自分の髪の毛を指先でそっと触れ、鏡がないことに気づいて青ざめました。
(髪のこと、すっかり忘れてた……! カフェの皆さんに夢中になりすぎて、自分の姿の変化になんて……!)
顔を引きつらせながら、内心で激しく焦り始めました。この異質な色を、どうやってごまかせばいいのでしょう。あなたは「生徒会役員」として、この街の調和を乱すわけにはいかないのです。
「あ、これ……えっと、その……」
言葉に詰まりながら、必死に言い訳を探し始めました。商店街の通行人たちも、あなたのその神秘的な髪に気づき、一人、また一人と足を止めてこちらを注視し始めています。
「あ……はい! 実はそうなんです」
少し頬を赤らめ、女子高生らしい照れくさそうな笑みを浮かべて、用意していた言葉をスラスラと紡ぎ出しました。
「最近、ツートンカラーとか流行ってるじゃないですか? 私が通ってる高校でもみんな結構やってて……。ちょっとだけ、イメチェンしてみようかなって思って、美容室で少しだけ遊んでみたんです」
自分の銀白に輝く髪を、人差し指でくるくると巻いてみせました。その仕草は、さっきまで神域を支配していた執行者とは程遠い、ただの「おしゃれに興味がある今どきの女子高生」そのものでした。
「えっ、真白先輩が? 生徒会役員なのに、意外!」
驚いたように目を丸くする後輩たちに、あなたは少し拗ねたような、でもどこか嬉しそうな口調で返します。
「もう、生徒会役員って言っても、中身は普通の生徒ですよ。普通におしゃれだってしたいし、可愛い服だって着たいんですから。あんまり堅苦しいイメージで見ないでくださいよ〜」
その様子に、周囲の女子生徒たちは顔を見合わせ、クスクスと笑い合いました。彼女たちにとって、厳格でどこか近寄りがたい存在だと思っていた「生徒会役員の真白」が、急に親しみやすい女の子になったように感じられたのでしょう。
「でも、先輩なら二色なんて言わずに、いっそ全部その色にしても……なんていうか、名前からして『真白』なんだから、全部真っ白にしちゃっても絶対似合うと思いますよ!」
一人の後輩がそう言うと、他の子たちも「あー! 確かに! 白髪風のカラーとかめっちゃ流行ってるし、先輩なら似合いそう!」と口々に盛り上がり始めました。
あなたは「ええーっ!」と大げさに驚き、両手を振って全力で否定します。
「ちょっと! そんなお婆ちゃんみたいになっちゃいますよ! まだ私、そんな歳じゃありませんから!」
恥ずかしそうに抗議しながら、心の中で冷や汗を拭っていました。(よかった、とりあえず『おしゃれ』ってことで納得してくれた……)
商店街の喧騒の中、真白は女子高生たちの輪の中で、ごく当たり前の「日常」を演じきっていました。さっきまで世界を書き換えるような力を振るっていた自分が、今は髪の色で悩み、後輩たちから「お婆ちゃん」なんてからかわれている。その奇妙なまでの落差に、あなたは少しだけ可笑しくなって、くすりと笑みをこぼしました。
「真白だから真っ白」という後輩の鋭すぎる(?)ジョークを、必死に「お婆ちゃんみたい」と拒絶する真白。彼女の隠蔽工作は、皮肉にも彼女の「親しみやすさ」を爆上げする結果となりました。しかし、その銀髪が染料ではなく、魂の内側から溢れ出た「神の徴」であることは、この街の誰もまだ知りません。夕闇に溶ける銀色の輝きは、偽りの日常を鮮やかに彩り続けています。




