白百合の園、紅茶と知識のティーパーティー
保健室の緊張を抜け出し、私たちは学院の奥深く、手入れの行き届いた庭園へと足を進めた。色とりどりの花々が咲き誇る中、お嬢様たちが次々と淹れる紅茶の香りが漂う。人間モードの真白として、私はこの「キラキラした日常」という名の難関ステージを、精一杯の気品で切り抜けていく。
(内心:うぅ、やっぱり慣れませんね……。お嬢様たちがみんなキラキラして見えます。私も周囲からそう見えているのでしょうか? この場所、なんだか場違いではありませんか……?)
不安を押し殺し、私は差し出された銀食器で紅茶を一口啜りました。
「……とても美味しいですね。この茶葉、産地は九翻市の物でしょうか? こう、口の中でふわっと広がるような……繊細な余韻を感じます」
私の何気ない一言に、その場が静まり返りました。
(お嬢様方):「まぁ! お見事ですわ真白様! まさか一口で産地まで的中なさるなんて……!」
(専属メイド):「さすがは真白様……。私たち専門のメイドですら、淹れる際の手順に緊張する一級品を、これほど的確に評価されるとは……!」
そこからは、茶葉のブレンド比率や抽出温度を巡る、まるで討論会のような会話が始まりました。
「いえ、抽出時間をあと10秒短くすれば、もっと甘みが引き立つはずです。カテキンの渋みとのバランスを考慮すると、この比率がベストかと」
「おっしゃる通りですわ! 真白様のご見識、まさに神懸かっていますわ!」
(内心:なんなんですかこの会話!? 私の眷属だからといって、洗礼されすぎではありませんか? これも女神の皆様の悪戯ですか? 普通に過ごさせてくださいよもう!)
私は女神たちがどこかで笑っている気配を感じつつ、必死に「お嬢様生徒会長」を演じきります。
(調和の女神・養護・桃子):
「ふふっ、ちょっとやりすぎたかしら? でも、真白はほんと頑張り屋さんね。私たちが用意したセリフをこれほど優雅にこなすなんて」
(創造の女神・担任):
「この知識の深さ……まさか私たちのスマホゲームをプレイして攻略法を投稿していたのかしら?」
(知恵のソフィア・書記):
「いえ、ゲームの攻略サイトに真白さんのIPはありませんでした。彼女の知識は、経験と直感からくる純粋な『神のインプット』ですわ。見ていて飽きません」
(美のヴィーナス・副会長):
「あんなに高いレベルで討論しながら、内心では『普通の会話がしたい』と泣いているなんて、なんて愛おしいの!」
(勝負の女神・1年):
「討論会でも常に優勢! 先輩のトーク力、まさに無双状態っす!」
(豊穣のデメテル・会計):
「茶葉の産地を特定した瞬間の、お嬢様たちの尊敬の眼差し。真白様の価値がまた上がりましたわね」
(芸術の女神・2年):
「彼女の立ち振る舞いそのものが、この庭園の最高傑作だ」
(慈愛の女神・3年):
「たくさん頑張っている分、今日くらいはお嬢様たちとゆっくりしてほしいわ」
(龍神の翠・役員):
「討論で相手を圧倒する生徒会長……実に頼もしいのう!」
「……真白、あなたもお嬢様の一員なんだから、彼女たちに話題を振ってあげなさい」
女神たちの無言の圧力(思念)に押され、私は視線を庭園の外へと向けました。そこからは、瑞鳳宮を訪れた参拝客の姿が見えます。
(参拝客・女子高生たち):「ねぇ見て、あのお茶会、レベル高すぎw」「あの中に混ざりたいけど無理でしょ! てか中心の銀白髪の子、制服姿も可愛いんだけど真白様じゃない!?」
(内心:神衣装束を着ていなくても、この髪の色で目立つのは避けられませんよね……)
私は困惑しつつも、参拝客の方へ向けて優雅に手を振りました。
(参拝客たちの反応):「きゃあああ! 今こっち向いて手振ってくれたよ!?」
「皆様、少し静かにしませんか? 参拝客の方が立ち尽くしていますよ」
「「「す、すみません真白様! もっと周囲に気を配るべきでしたわ……!」」」
恐縮するお嬢様たちを、私は穏やかな笑みで制しました。
どんなに高尚な討論をしていても、私にとって、この穏やかな時間が今一番の癒やしなのかもしれません。
ゴミ処理施設の一姫を忘却の彼方に沈め、真白は学院の庭園で完璧なる「お嬢様たちの頂点」を演じきりました。女神たちの用意した高いハードルを、真白はその知識と気品で軽やかに飛び越えていきます。しかし、彼女が内心で抱く「普通の学生として過ごしたい」というささやかな願いは、彼女の優しさが滲み出る言動によって、皮肉にも周囲をより強く惹きつけてしまうのでした。




