神域の邂逅と母娘(仮)の微笑ましい参拝
一翻市の朝を駆ける「滝守陽葵」の前に、待ち合わせていたかのように華やかな女性たちが合流する。それは「母」であり「近所のお姉さん」であり「担任教師」である、人間に擬態した九人の女神たち。賑やかな一行は、自らの一部である瑞鳳宮の門をくぐり、自分たちが仕立て上げた「真白様」の評判を、悪戯っぽく検証し始める。
「お待たせ、陽葵ちゃん! さあ、一緒にお参りしましょうか」
カジュアルな私服姿の「桃子お母さん」が、私の小さな手を引いて瑞鳳宮の石段を上がります。周りには、思い思いの私服に身を包んだ女神たちが、まるで親戚一同の旅行のような賑やかさで続いていました。
「ねえ、そこの方。さっきから皆様が熱心に拝んでいらっしゃるけれど……あそこにいた銀髪の『真白様』って、そんなに凄いの?」
桃子お母さんが、近くにいた参拝客の女性に、さも何も知らないふりをして話しかけました。
「ええ、もう! 本物の神様ですよ。今朝もあんなに冷たい滝に打たれて……」
「あら、そうなの? でも、さっき教科書を抱えて『補習が〜』なんて半泣きで歩いていらしたわよ? 神様なのに、お勉強なんてなさるのかしら。不思議ねぇ、陽葵ちゃん?」
桃子お母さんがニヤニヤしながら私を覗き込みます。私は顔を引き攣らせながら、必死に「陽葵」として答えました。
「えっ……か、神様なのに勉強してるんですか? ……変なの。神様なら、魔法でテストとか満点取ればいいのに……(うぅ、恥ずかしい……!)」
知恵のソフィア(書記):
「(眼鏡をクイッと上げながら)失礼。あの立札の『汝の荒事罪穢れ〜』という言葉、実に達筆ですが……まさか、あのお若い真白様ご本人がお書きになったのですか? 専門家の代筆ではなく?」
「ええ! 先ほど、生徒会の方が『真白様の直筆だ』と仰っていましたよ。あの力強い筆致……魂が洗われるようです!」
「(内心:ふふ、成功ですわ。私の再現技術が、完全に神の奇跡として定着していますわね)」
美のヴィーナス(副会長):
「あの真白様、お肌がとっても綺麗だけど、やっぱり何か特別な美容法でもなさっているのかしら? 滝の水が化粧水代わりだったりして」
「きっとそうですよ! あの透明感は人間業じゃありませんわ。見ているだけで、こちらまで美しくなれそうな気がします!」
豊穣のデメテル(会計):
「この神社、最近とっても景気が良いと聞きましたわ。真白様が来てから、商売繁盛のご利益が凄いって本当かしら?」
「本当ですよ! うちの店も、真白様にお参りしてから客足が絶えません。あの方は福の神そのものです!」
慈愛の女神(3年):
「まあ、素敵ね。でも、あんなに厳しい先生に叱られて泣いちゃうなんて、本当は普通の女の子みたいで守ってあげたくなっちゃうわ。ね、陽葵ちゃんもそう思うでしょ?」
「……う、うん。……頑張ってほしいなって、思います(棒読み)」
調和の女神(養護・桃子):
「陽葵ちゃん、お顔が真っ赤よ? 自分の噂話を聞くのって、そんなに照れることかしら? ほら、もっと市民の皆様の声を聞いて、誇らしく思いなさいな」
(勝負の女神・1年・緑):
「『魔法で満点取ればいいのに』なんて、子供らしい名言ですね! 先輩、その台詞、今の陽葵ちゃんにぴったりで100点満点ですよ!」
創造の女神(担任):
「参拝客の皆様、私の書いた設定を完璧に信じ込んでくださっていますわ。直筆疑惑も、ソフィアの冷静な質問で見事に払拭されましたし、完璧な朝ですわね」
芸術の女神(2年):
「『自らの伝説を、子供の姿で否定する神』。この皮肉な演劇こそ、私の求めていたカタルシスだ。真白、君の困り顔は最高のアートだよ」
龍神の翠(役員):
「景気が良いと言われて悪い気はせんのう! 陽葵、わしもあとで『お母さん』に内緒でお菓子を買ってやるからな!」
自分の社で、自分の「勉強嫌い」や「直筆疑惑」を女神たちに弄り倒されるという、地獄のような参拝を終えた陽葵ちゃん。しかし、街の人々の純粋な信仰心と、自分の存在が一翻市の支えになっているという実感を、彼女は(屈辱と共に)肌で感じていました。「人はどうしようもなく愚か……でも、あんなに嬉しそうに笑うなら、少しは報われるかしら」そんな真白としての冷徹な思考が、陽葵としての無邪気な表情の裏側に、ほんの少しだけ顔を覗かせます。




