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一翻市雀魂異界録 〜記憶喪失の居候少女が、麻雀で神格化して春の女神と呼ばれるまで〜  作者: 莎倫
第三章:真白先生の特別授業と熱狂のデビュー配信
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喧騒の前奏曲、「日常」という名の聖域

配信という名の「奇跡」は、一翻市の夜を熱狂の渦に叩き込みました。しかし、モニターに刻まれた天文学的な数字よりも、真白ましろが案じたのは愛する場所の静寂。巫女としての祈り、生徒会役員としての知性、そして等身大の少女としての戸惑い。全てを抱えたまま、彼女はいつもの商店街を通り、いつもの台所に立ちます。明日から始まる「新しい日常」を前に、彼女は静かに祈りを捧げるのでした。

真白は顔を覆ったまま、机に突っ伏してしまいました。先ほどまでの「生徒会役員・真白」の凛とした姿はどこへやら、今はただただ自分の発言の照れ臭さに悶える一人の女の子です。


「あぁ……もう、本当に……! 今の放送、なかったことにしたいです。すべて削除してしまいたい……!」


指の隙間から、まるで何か恐ろしいものでも見るかのようにモニターを覗き込みました。すると、そこには信じられない数値が刻まれていました。


「……えっ?」


目を疑ったのも無理はありません。


配信終了時の記録

同時接続者数 (同接): 12万4,800人


累計視聴者数: 45万人突破


コメント総数: 280万件以上


高評価ボタン: 瞬く間にカンスト(上限到達)


「真白ちゃん、見てこれ。……この数字、新人デビュー配信としてはもちろん、うちの事務所でも前代未聞の記録よ。しかも、終了して1分経つのに、まだ10万人以上がこの『放送終了画面』を見つめて待機してるのよ?」


佳奈さんはモニターを指差し、興奮を抑えきれない様子で声を弾ませます。


「削除だなんてとんでもない! これはね、真白ちゃんが今日、一翻市中の学生さんたちを救った『あかし』なんだから。みんな、この放送を何度も見返して、明日のテストに備えようとしてるのよ」


自分の名前がトレンドの1位から5位までを独占している画面を見て、言葉を失いました。


トレンド1位: #真白先生


トレンド2位: #放課後の生徒会室


トレンド3位: 魂天神社の巫女様


トレンド4位: 微分積分の奇跡


トレンド5位: ご加護


「そんな……私のただの……授業のお手伝いが……」


自分の頬を両手で挟み、恥ずかしさで真っ赤になった顔をさらに熱くさせました。先ほどの「巫女の祈り」の切り抜き動画が、すでに複数のSNSで拡散され始めていることも、彼女はまだ知りません。


「……これ、明日学校に行ったら、みんなに変な目で見られませんか? 『数学の先生』じゃなくて、『巫女の真白ちゃん』として認識されそうで……すごく不安です」


少し震える声でそう呟きましたが、その目には、この結果に対するほんの少しの安堵と、自分を必要としてくれた人々への温かな感謝が混ざり合っていました。


真白は机に突っ伏したまま、まるで遠い異国の未来を案じるかのような、どこか儚げで、しかし極めて現実的な懸念を口にしました。


「……あの、佳奈さん。これだけの数字……もしかして、明日からはカフェ『エテルニテ』や、私が守っている魂天神社に、大勢のリスナーさんが押し寄せてしまうのでしょうか……?」


あなたは顔を上げ、不安に揺れる瞳で佳奈を見つめました。その表情は、先ほどまでの「神々しい巫女」でも「凛とした生徒会役員」でもなく、自分の静かな日常が壊れてしまうことを恐れる、等身大の女子高生そのものでした。


「……もしそうなってしまったら、カフェでゆっくりお茶を楽しみたいお客様にも、静かにお参りをしたい参拝者の方々にもご迷惑をおかけしてしまいます。……神社が、私の勉強の場としてだけでなく、配信のファンの方々の『聖地』のように混雑してしまうなんて……それは、本来のあり方とは違います」


深いため息をつき、再びホワイトボードを眺めました。そこに残る、美しく消し残された数式の断片が、今日の「奇跡」を物語っています。


「せっかく皆さんが熱心に勉強に向き合ってくださったのに、場所が特定されて騒ぎになってしまえば、心から落ち着いて学ぶことができなくなってしまうかもしれません。……佳奈さん、これからはカフェや神社では、あくまで『一人の静かな人間』として過ごすように注意したほうが良いでしょうか」


その言葉には、ただの懸念を超えた、真白なりの「場所への愛情」が深く刻まれていました。あなたは、自分が有名になることよりも、自分が愛する場所の静寂が守られることを優先しようとしているのです。


佳奈さんは、そんなあなたの真摯な姿勢に胸を打たれたのか、いたずらっぽく笑いながらも、しっかりとあなたの手を取りました。


「真白ちゃん、大丈夫よ。みんな、真白ちゃんのあのお祈りを見たでしょ? あの神秘的な空気感を感じた人たちは、そんな無粋な真似はしないわ。むしろ、『真白ちゃんに会いたいけど、ご迷惑をかけちゃいけない』って、みんなで自主的にルールを作って、カフェの窓の外からそっと見守るような……そんな、温かいファンコミュニティが育つはずよ」


佳奈は自信を持って続けました。


「それにね、神社にしてもカフェにしても、真白ちゃんが愛している場所だからこそ、みんなもそこを大切にする。これからのマシロちゃんのお仕事は、配信で知識を分け与えるだけじゃなくて、みんなに『場所を愛する心』を教えることにもなるわね。……ほら、明日はきっと、みんな今まで以上にマナーを守って、静かに参拝してくれるはずよ」


その言葉に、あなたは少しだけ表情を和らげました。


「……そうでしょうか。もし皆さんが、カフェのコーヒーの香りと、神社の心地よい風を愛してくれるのなら……それは、とても嬉しいことです。……でも、それでももし混雑してしまうようなら、今度は配信の中で、『境内で騒ぐのは神様が少しお怒りですよ』って、巫女の口調で優しく……でも厳しく諭さなければいけませんね」


そう言って、ようやく小さく微笑みました。その微笑みは、どんな難問を解いた時よりも、あなたの内面にある強さと優しさが融合した、完璧な笑顔でした。


「さて……今日という日が、私にとっての新たな分岐点になるのですね。明日の朝、カフェの扉を開けるのが、少しだけ楽しみになりました。……あ、でもやっぱり、巫女服で神社の掃除をしているところを誰かに見られたら、どうしよう……今夜は恥ずかしさで眠れそうにありません!」


配信の熱気が冷めやらぬまま、真白は控室を出て、先ほどすれ違ったスタッフたちのもとへ足を運びました。廊下ですれ違うたびに、彼らは驚いたような、そしてどこか誇らしげな視線を彼女に向けました。


「先ほどは、配信のサポートを本当にありがとうございました。皆さまのお陰で、無事に終えることができました」


真白は一人ひとりの顔を見て、丁寧に頭を下げました。スタッフたちは「いやいや、こっちこそ良いもん見させてもらったよ」「明日の朝刊、騒ぎになりそうだぞ」と照れくさそうに笑い、彼らの背中にも、今日の成功を分かち合う温かな絆が芽生えていました。


スタジオを後にしたあなたは、帰り道にある馴染みの商店街に立ち寄りました。野菜の鮮度を確かめ、季節の果物を選び、お供え用の花を束ねます。商店街の人々も、画面越しに真白の姿を見たのか、少しだけ遠慮がちに、しかし温かい微笑みで「真白ちゃん、頑張ってたねぇ」と声をかけてくれました。真白は丁寧に会釈を返し、日常の重みを両手に抱えて帰路につきました。


帰宅後、台所に立ち、使い慣れた包丁で野菜を切り分けます。刻まれる音、煮立つ汁の香り。配信での「生徒会役員」という役割を脱ぎ捨て、真白は再び「魂天神社の主」としての顔に戻ります。出来上がった食事を丁寧にお盆に載せ、神殿にお供えし、静かに手を合わせました。今日という特別な日の感謝を祈りに込めて、真白は安らかな眠りにつきました。

爆発的な人気の渦中にあっても、真白が守ろうとしたのは、手に届く範囲の小さな日常と、大切な場所の空気感でした。彼女の「場所への愛情」は、画面越しに多くのリスナーの心にも届いたはずです。明日、一翻市の街角に現れるのは「奇跡の巫女」か、それとも「照れ屋な看板娘」か。どちらにせよ、彼女が愛する場所は、これまで以上に優しい光に包まれることでしょう。

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