西方の檻②
4月の投稿は不定期となります。
蟹羽として。激務で脳が破壊されて小説の書き方が分からなくなったのだけど、とかく書いてみようってことで書いたら書けるじゃん!ってことで、引き続き投稿していきます。よろしくお願いします。
◇
アルドたちがドワッフ王国の深部――西部研究所へと向けて出立した頃。
遠く離れた国境都市マジルでは、タンスイたちの地下調査が完全な暗礁に乗り上げていた。
「・・・やっぱ、どの地下通路を探って行っても、結局はこの『大扉』にぶち当たっちまうな」
マジルの地下道のさらに深く。腐臭と湿気が澱むどん詰まりで、タンスイは苛立たしげに頭を掻き毟った。
目の前には、天井まで届くほど巨大で、重厚な金属と石で設えられた大扉が立ち塞がっている。
こういうダンジョンの謎解きなら、MMOであればきっちりと『ヒント』が提示されて然るべきだ。だが、これだけ周辺の隠し通路や壁を叩いて回っても、スイッチ一つ見つからない。
「探す場所が違う」のか、それとも―――。
(これが、この世界の『運営』の方針なんかねえ)
タンスイの胸中には、もう一つの腑に落ちない違和感が渦巻いていた。
これほど派手に地下を探索しているというのに、あれ以来、黒装束の連中―――黒の信徒に一切出会わないのだ。
こっちは、奴らが後生大事に抱えていたキーアイテムの『黒嘆石』を奪っているのだ。血眼になって奪い返しに来るのがイベントの定石だろう。それが全くないというのは、気味が悪すぎる。
(ここまで音を立てて騒ぎ回ってるってのに、なしのつぶてってのは・・・な。まさか、この『放置されている状況』そのものがヒントってやつなのか?)
「兄貴っ!」
「おお、キカラ。どこか抜け道でも見つけたか?」
「ううん、抜け道らしきものは全然ないんだけど・・・」
「んじゃ、まっ。やっぱこの扉をぶち壊すしかねえかな!」
「ちょっと待ってよ! 潜入作戦なんだから隠密になさいって、ユキナ姉ちゃんから口酸っぱく言われてたじゃんか!」
「それはそれ、これはこれだ。現場の判断で道を切り開く! これぞ攻略の鉄則ってやつよ!」
タンスイがニヤリと笑い、背中の大剣に手を掛ける。キカラは慌ててタンスイの腰に抱きつき、全体重をかけて引き留めようとした。
「兄貴っ、ダメだってば! ほら、おとぎ話とかでも、こういう扉って何か特別な『宝石』を窪みに嵌めたりすると開く仕掛けになってるものじゃないの!?」
「・・・宝石、ねえ」
タンスイはしゅっと体勢を戻し大剣を納めた。
その瞬間、全力で引っ張っていたキカラが勢い余って前のめりにつんのめって、石畳を転がってしまう。
「も~! いきなり動きを変えないでよ!」
「ああ、悪りぃ悪りぃ。・・・宝石っつってもなあ」
タンスイは苦笑しながら手を伸ばし、痛がるキカラを引っ張り起こした。
「窪みにアイテムを嵌める」というRPGの基本はタンスイもすでに試していた。手持ちの宝石―――というより、あの気味の悪い『黒嘆石』を大扉に触れさせたり、それらしい窪みを探したりはしたのだ。だが、依然として大扉は微動だにしない。
「全くもって反応がないんだよなあ。・・・ん? いや、そうか! くくくっ、なるほどな。こいつを直接扉に『ぶつけてみる』ってのは、まだ試してねえよな?」
「ちょっと! 兄貴っ!?」
キカラの制止も聞かず、タンスイは収納袋から禍々しい赤黒い結晶―――黒嘆石を取り出した。
そして、野球のピッチャーさながらに大きく振りかぶると、目の前の大扉に向かって力任せに投げつけたのだ。
ガンッ!!
硬質な金属音が地下道に響き渡り、黒嘆石は弾かれて石畳の上を無様に転がった。無論、扉は傷一つついていない。
「まっ、そりゃそうだよな。そう簡単にはいかねえってもんか。やっぱりフラグの立て方が間違ってんのかね」
「もー、無茶苦茶だよ! それに、その石って見てるだけで気持ち悪いよ、早くしまって」
「へいへい。・・・んじゃ、回収して出直すか」
タンスイが軽く息を吐き、転がった黒嘆石を拾い上げようと手を伸ばした―――その瞬間だった。
ゾクリ、と。
背筋を氷塊が駆け上がるような、圧倒的な『死の悪寒』。
タンスイは反射的に横にいたキカラの襟首を掴み、後方へと大きく飛び退いた。ただの殺気ではない。得体の知れない、生理的な嫌悪感を伴う圧倒的な捕食者の気配だった。
「・・・なんだ!?」
着地と同時に大剣を引き抜き、タンスイは石畳に転がる黒嘆石を睨みつけた。
ドクン、ドクン。
石が、まるで心臓のように脈打つような振動を繰り返している。
次の瞬間、赤黒い結晶の表面がぬらりと液状に溶け崩れたかと思うと、そこから幾多の悍ましい触手が、弾け飛ぶように四方八方へと伸びた。
「ひっ・・・!?」
キカラが悲鳴を上げてタンスイの背後に隠れる。
飛び出した無数の触手は、まるで意思を持っているかのように大扉へと向かい、その堅牢な金属の表面にピタリと吸い付いた。
―――ジュウウゥゥゥゥ・・・!
強酸で金属が焼け焦げるような異音。
そして、グチャリ、ムチャリと、何か巨大な獣が肉を咀嚼するような、極めて不快で湿った音が地下道に響き渡る。
「嘘だろ・・・」
タンスイは戦慄に目を見開いた。
黒嘆石から伸びた触手が、あの絶対に壊れそうになかった金属と石の大扉を――いとも容易く『喰らって』いた。
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