正念場
5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。
なお、4/18までは、1日3回投稿します。
突然のルルナの叫ぶような警告と同時に、横腹を思いきり殴打されて吹っ飛ばされた。地面を跳ねるように転がって木立にぶつかって止まった。しかし、背中を強打してしまい呼吸も出来ず、しかし、なんとか立ち上がろうと藻掻くようにして地面を掴む。
背後から奇襲を受けたのだ。
まったく分からなかった。音も臭いも、気配がまったく感じられなかった。それもそのはずだ。平凡なコンビニ店員が気配とか敵意とかを感じ取れるはずもない。
ようやく呼吸を取り戻しても、今度は鈍痛が全身を駆け巡り、血が吹き出す。が、そんなことを気にしている余裕はない。一刻も早く何者が襲ってきたのかを確認し、対応しないとまずい。
ーーー聖霊魔法・標準制御式起動『ヒスタ(止血&回復)』
すかさずルルナの聖霊魔法が発動して、体が楽になった。石が爆ぜる音がする。見やればルルナが聖霊魔法で敵を近づけまいとけん制していた。
ーーー聖霊魔法・標準制御式起動『ペブルス(撃石礫)』
聖霊制御式の明滅が連続し、石弾が敵に突き刺さっていく。
「ゴブリンだと!?」
いや、街道にいるゴブリンより一回り体躯が大きい一匹のゴブリンがいた。棍棒を手にしていて、力を溜めているのが分かる。
『マスター! あの個体は力の次元が違います。カロリックの凝縮を確認! 早く、退避をっ』
棍棒が大きく振りかざされ空を裂く。そのひとなぎで木々がなぎ倒され、もちろんルルナの聖霊魔法も簡単に掻き消された。
「ふざけんな、あり得ないだろ」
今度はなんとか受け身をとって体のダメージを減らす。中学生まで空手をやっていて良かった。空手道場では柔道のような投げ技もやっていたから、身についた技はこんな危機的状況でも役に立ってくれた。本当に何が役に立つかは分からないものだ。しかし、だからといって状況を打開するものではない。
「ルルナ、もう一度聞く。ゴブリンってイノシシ並みなんじゃなかったか?」
『はい。ですが、あの個体はユニーク。力の存在次元がマスターよりもすべて二段階上にあります。逃げることをお勧めします。私の聖霊魔法を発動させるための魔力も残りわずかです』
「聖霊魔法の魔力切れか。だけどな、逃げ切れると思うか?」
『存在次元が3である魔物からの退避成功率は限りなくゼロに近いです』
「そうか。なら、ここが俺の正念場だ」
ご一読いただきまして、ありがとうございます。