強者
5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。
なお、4/18までは、1日3回投稿します。
記憶が呼び起された。
「まさか天幻かっ!?」
『いえ、爆発の前にカロリックの凝縮を確認しました。聖霊魔法が行使されたようです』
ルルナが言い終わらぬうちに、またも村から黒煙が昇る。煙の数は三つで、村の東の方角に集中している。おそらく村の東口付近で爆発が起こったのだろう。ただ、ここからだと村の内部を知りえないが、
「事故か、襲撃かは分からないが。いずれにせよ、村に売り込むチャンスだ。とにかく急ぐぞ」
大規模な戦闘でないことは分かった。集団での襲撃ならば、地鳴りや怒号、それに火の手の進み具合も早いはず。つまり組織的な戦闘の可能性は低い。そうであるからこそ、俺の売り込む隙はあるはずだろう?
ふと、木々がざわついているのを感じて、周囲を見渡す。それから、村と自分が潜伏する丘までの間を縦断する街道に視線を合わせる。その街道に人影が見えた。数人ほどいる?
「なんだ?」
その人影を確認しようと見る場所を移動する。そして、分かった。
少女が逃げて来ている。泥まみれだ。
それをゴブリンが追いかけていた。「ゴブリンの襲撃だったわけだ」『はい、どうやらゴブリン族がこの地域の制圧に乗り出したようですね』冷静なルルアの声に、アイダは口元を硬く結んだ。
どうする? 思わず刀の鞘に手を置く。
「なあ、ルルナ。勝てると思うか?」
『難しいでしょうね。先ほどはゴブリン単体でしたが、こんどは複数。連携攻撃に対応できるかが勝敗を決することになりますが、現時点のマスターでは逃げることをお薦めます』
「まあ、そうだよな」
だが「胸糞が悪い」と吐き捨てる。少女が殺されようとしているのに、勝算がないからと言って見て見ぬふりをするってのには納得ができない。しかし、勝負を挑もうにも一つきりの命を賭けるのに躊躇してしまっている自分に、卑小さを感じて嫌気がさす。だからこそ打つ手はないかと考える。「少女を助けて、ゴブリンを煙に巻くことぐらいは自分にもできる範疇だよな?」そんな逡巡が、自分をその場に留まらせて、無用な時間を消費させてしまったのは事実だった。
それが不幸を呼んだ。
『マスター! 後ろにーーー』
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